第37話 学院祭終了
「アル、大丈夫ですか?」
シャーロットは心配そうな表情で俺に近づいてきた。
「はい。大丈夫です。シャーロットの方こそ大丈夫ですか?」
「え? 何がですか?」
目の前で婚約者候補が暴れて、ひと騒動が起きたのだ。
シャーロットの心中を察しようと思ったのだが……。
「あー、問題ないですわ。むしろスッキリしています」
「そうなんですか」
「ええ」
シャーロットはこの上ない爽やかな笑顔を見せた。
鼻歌を歌ってしまうくらい嬉しそうだ。
シャーロットの予想だと、モルブランはしばらく自室謹慎になるとのこと。
しばらく、あの鋭い目線を向けられることはないと思うと、ホッと深い息が出てきた。
その後は何事もなく学院祭が続いていった。
客入りは順調で、用意したお菓子は完売し、学院祭の終了の合図を待つことなく和風喫茶は閉店となった。
「みなさん、お疲れ様です。ありがとうございました」
俺はシャーロットたちにお礼を言って頭を下げる。
「アルこそ、ご苦労様でした。貴重な体験ができて楽しかったですわ」
「シャーロット様のお陰でわたくしもやりきることができました」
シャーロットとマドレーゼはものすごくやりきった感を出している。
お嬢様たちがどこまで配膳係を務められるか気になっていたが、シャーロットとマドレーゼは品位を保ちながら優雅に務めていた。
特に、シャーロットは何も教えていないのに手慣れた感じで、周りが気づかないところでマドレーゼをフォローできるほど余裕を感じていた。
……前世にも同じような光景を見たことがある気ような。
こちらの世界で充実した日々を送っているからか、前世の記憶が曖昧になってきている。
仕事で何度も繰り返してきたことは、はっきりと覚えているのだが。
「アルと一緒に厨房へ入ってみて、改めてアルの凄さがわかりましたわ」
三角巾を外し、赤い艶のある髪の毛をひらひらさせながらカリーナが俺を褒める。
一仕事終えたあとの女性の仕草って……。
「カリーナ、どういったところが凄いのでしょうか?」
ふっと、意識がカリーナに持っていかれそうなところをシャーロットが被せてきた。
……このプレッシャーは何だろう?
「ええ、手つきがしなやかで、もの凄く熟練されているという感じがいたしました」
「熟練……ですか」
シャーロットは何か熟慮しながらチラッと俺の方を向いた。
「アルはいつからお菓子作りをしているのですか?」
「あ、はい。5歳からずっと」
「5歳からですって!?」
シャーロットたちは驚いた表情をする。
カリーナやマドレーゼはわかるが、5歳から農業改革をしているシャーロットが驚くことかな?
「アルは誰にお菓子作りを教えてもらったのですか?」
シャーロットはさらに喰いつくように質問してきた。
「え、あー、最初は父親の見様見真似です。お店の手伝いをしていくうちにお店のお菓子を作らせてもらえるようになりました」
半分本当で、半分は嘘だ。
さすがに、前世の記憶があって、前世の職業が和菓子職人だったなんて言えないよ。
言ったところで信じてはもらえないだろうからね。
「それだけで、これほどの熟練度って……」
……あれ、何か変なことを言ってしまったかな?
「アルフレッド様はその頃からお菓子を作られていたのですね。素晴らしいですわ」
マドレーゼの純粋な言葉を聞いて、シャーロットは考えるのをやめた。
これ以上考えても仕方がないと思ったのだろうか。
カラン、カラン、カラン!
雑談をしていると、学院祭の終了の鐘が鳴った。
「時間ですね。お疲れ様でした。また明日」
「あら、明日は休みでしてよ」
カリーナは苦笑する。
そうだった。
学院祭の翌日は休みだと説明を受けていたのを忘れていた。
「うふふ。アルは面白いですわね。ではまた明日」
「はい、また明日?」
誰もシャーロットの言葉を指摘しない。
でもカリーナとマドレーゼは笑いを堪えているかのよう。
……え? 何? どういうこと?
翌朝、清々しい朝を迎えた。
久々の労働で相当疲れたのか、昨晩はぐっすり眠れた。
お陰で今日は快調だ。
トントントン!
そんな朝を寛いでいると、誰かが俺の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
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