第38話 王宮へご招待

「アル、いらっしゃいますか?」


 シャーロットの声だ。

 

 ……何故、こんな早朝に?


「はい、今行きます」


 俺は急いで部屋の扉を開ける。


 そこには護衛騎士を付き添ったシャーロットの姿があった。


 服装はいつも目にしているものではなく、とても豪華で煌びやかだった。

 まさしく王女様って感じだ。


「今日の予定は空いているかしら?」

「あ、はい。空いています」

「それはよかったですわ。それでは、わたくしと一緒に来てくださいますか?」


 何処へ? と聞きたかったが、シャーロットの服装を見ればこれから何処へ行くかは想像ができる。


「はい。大丈夫です」


 俺が返事をすると、シャーロットは嬉しそうに微笑んだ。


「では、よろしくお願いしますね」

「はい。直ぐ支度をしますので」

「わかりましたわ。こちらでお待ちしますわね」

「姫様……」


 護衛兵士はシャーロットが平然と俺の部屋に入っていくのを見て戸惑った表情を見せる。


 王女様が平民男性の部屋に入ること自体、外聞が悪いのだろう。


 シャーロットがお構いなしに俺の部屋に入っていくのを見て、護衛兵士たちは仕方なしに、周囲を警戒しながら部屋の中に入ってきた。


「あら、これは何かしら?」


 シャーロットは俺の部屋を見渡してあるものに気づく。


 それはせんべいだ。


 本当はうるち米で作りたかったのだが、できるだけうるち米に近い米を厳選してせんべいを試作してみた。


 試作品は基本的に俺のおやつだ。


「アル、食べてもいいかしら?」

「姫様、そのような得体の知れないものを召し上がられては……」

「大丈夫ですわ」


 シャーロットは護衛兵士の言葉を無視して、一口サイズに割れていたせんべいをひょいと口に入れた。


 あ、俺の食べかけと言いたかったが、既に遅し。

 しかも、護衛兵士たちの前でそのようなことを言ってしまったどうなることか。


「うーん、美味しいですわ。いくつもあったらやめられなくなりそうですわね」


 そう言いながら、シャーロットは護衛兵士の目を盗んでもう一口せんべいを口にした。


「アル、どうかなさいました? 顔が赤いですよ」


 シャーロットは俺の顔をじっと見ながら首を傾げる。

 

「あ、いえ、何でもないです。支度をしてきます」


 自分の思考が読まれないうちに、俺は慌てて寝室へ駆け込んだ。

 


 支度が済むと、シャーロットに案内され、学院の裏門へ向かう。


 裏門には、豪華な馬車とあまり装飾されていない馬車と、十数人の騎士たちが待機していた。


「では、こちらにお乗りくださいませ」


 俺が案内された馬車は豪華じゃない方の馬車だ。


 流石に、王女様と同じ馬車とはいかないだろう。

 

 あと、同乗者誰もいなくて少し寂しい。



 しばらくすると、馬車が動き出し、久々に学院の敷地外へ出る。


 向かう先は王宮のようだ。

 この先に大きな建物が見える。


 王宮までは学院からほぼ一本道。

 馬車で30分ほどで到着した。


 王宮は学院より数倍も豪華だった。

 写真でしか見たことがないが、デンマークのお城に似ている。

 王宮は湖の真ん中にあり、大きな橋が正門に向かってかかっていた。

 

 馬車は大きな橋を渡り、厳重警備されている正門を潜っていく。

 王宮の入り口には騎士や兵士、執事や侍女らしいひとたちが待機していた。


「おかえりなさいませ。シャーロット王女殿下」

「ただいまもどりました」


 シャーロットは優雅に馬車を降り、出迎えてくれた人たちに向かって優雅に一礼をした。


 俺はシャーロットが王宮に入るところを見届けてから王宮内に案内される。

 

 王宮内の床は赤い絨毯で敷き詰められている。

 絨毯には、どうやって染めたかと不思議に思うような金の糸で刺繍が入っている。

 その絨毯に足跡をかき消されながら俺は兵士の後に続いて進んでいった。


 案内されるまま、辿り着いたのは王国の間だった。


 ……なぜ?


 国王の間に入ると、国王陛下、王妃様、宰相、護衛の騎士たちが待機していた。


 王国の重鎮たちに囲まれて、俺は入り口から玉座まで進まなくてはいけない。


 貴族達の目線が怖い。

 モルブラン何十人もいるかのようだ。


 俺の足がガクガク震えて、なかなか一歩目が踏み出せない。


 しかし、恐る恐る前の方を見ると、シャーロットの姿が見えた。

 シャーロットは俺と目が合うとニッコリと笑顔を見せた。

 俺に向けて「大丈夫よ」と言ってくれているようだ。


 俺はシャーロットの顔を見て頷き、一歩目を踏み出した。

 

 一歩踏み出したら、あとは惰性で進んでいくだけだ。


 足が震えそうになるが、何とか堪えて進んでいった。


 俺がある程度玉座に近づくと、兵士? 王宮の偉そうな人が目配せする。


 そこで止まれということのようだ。


 俺は素直にその場に止まり、跪いた。


「アルフレッドと申したか。顔をあげよ」


 顔をあげると、シャーロットの父、国王陛下の顔が目に入った。


 学院祭の時とは全然雰囲気が違う。

 声のトーンも低めで、お腹にずしーっと重く響いてきた。

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