第39話 献上品のリクエスト
「よく参られた。噂は娘のシャーロットより聞いている。とても奇抜な菓子作るそうだな」
「は、はい」
何故、お菓子の話題から入るのか、イマイチ理解できない。
それだけのために俺は国王陛下に呼ばれた訳ではないと思うのだが。
「国王陛下、こちらを」
執事のような格好した人がお皿の上にお菓子を載せて持ってきた。
せんべいだ。
「ほう。これは干物かね?」
「いいえ、それは焼き菓子でございます」
「焼き菓子? そのような菓子があるのだな。どれ……」
国王陛下はせんべいを一切れ摘み上げ、それを口元に持っていく。
「陛下、そのようなもの食べてはなりませぬ!」
50代くらいのおじさんだろうか、身体中に装飾品を身につけた、一際派手な者が声をかけた。
それに連動して、周囲がザワザワとしてくる。
「よい。すでに娘のシャーロットも食べている。問題なかろう」
「しかし、もしものことがあれば……」
国王陛下は鋭い眼光で黙らせる。
周りも静まり返ると、国王陛下はひょいとせんべいを口の中にいれると、ボリボリとせんべいを噛み砕く音が響き渡った。
「美味い! 菓子とは甘い食べ物だと思っていたが、このような菓子もあるのだな」
国王陛下は手が止まらず、次々とせんべいを口に入れていく。
目を閉じながら味わい、せんべいを噛み砕く音がなくなるまで何度も噛んでいた。
さてもう一つと、国王陛下は皿に手をやるが、指さきにせんべいがない。
せんべいは今ので最後だと気づくと、国王陛下は少し寂しそうな表情を見せた。
国王陛下は顔を俺に向けて、「もう無いのか?」と訴えてきた。
俺は「もう無いです」と言いたげな表情を見せると、国王陛下は軽く息を吐いた。
国王陛下は腕を組み、左手で顎を触る。
何か熟考しているようだ。
しばらくすると、国王陛下は、はっと顔を上げ、何かを思いついたような顔をした。
「あ、あー、アルフレッド。献上品の菓子は美味であった。それでだな、其方に酒の席に合う菓子を作ってもらいたいのだが、どうであろう?」
俺の意思を伺っているように聞こえるが、国王陛下の言葉が絶対なのはわかっている。
拒否なんてできるはずがない。
「は、はい。畏まりました」
俺が了承すると、国王陛下は満足したような笑顔を見せた。
お酒の席に合うお菓子……。
こちらの世界にあるお酒はワインやウィスキーに近いものしかない。
それほど種類はなく、度数もかなり強めだ。
ワインであればチーズやチョコレートという選択肢があるが、国王陛下はせんべいを気に入っている様子なので甘くないお菓子がよさそうだ。
国王陛下は俺から言質を取ると、すっと表情を固めた。
今までの和やかな雰囲気から、一気に緊張の雰囲気に変わった。
俺は貴族たちの後方へ案内され、その様子を眺めることになった。
その中に、顔中汗だくになった一人の大臣ぽい貴族が目に入った。
「では、重大発表をする。シャーロット王女の婚約者候補のモルブランだが、王立製菓学院での素行に問題があり、候補から外すことにする」
「そ、それは……」
「バブリージオ、どうかしたかね?」
「い、いえ、なんでもございません。愚息が大変失礼いたしました」
どうやら汗だくになっていたのは、モルブランの父親のようだ。
息子の醜態に対して思うことがあるのだろうか、バブリージオは両手を強く握って感情を抑え込もうとしていた。
「案ずるな、其方に責任を取らせるつもりはない。しっかりと、其方の息子に言い聞かせておくように」
「はい。寛大なお言葉、誠にありがとうございます」
息子の醜態で、バブリージオは宰相の地位から下されるのではないか不安だったようで、国王陛下の言葉を聞いて少し安堵したように見えた。
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