第40話 国王陛下のお部屋

 貴族たちがざわざわと会話をしながら国王の間から出ていく。

 宰相派は終わりだの、王国のお世継ぎはどうするのだの様々な会話が耳に入ってきた。


 俺はその流れに飲み込まれないように端っこで待機する。


 俺は貴族とすれ違うたびにゾワゾワっと血の気が引けるというか、なんとも言えない不快感に襲われた。

 貴族の目が怖い。

 人を見下すような、不快感を露わにして俺を睨んでくる。

 生きた心地がしなかった。


 国王の間から貴族たちが退出すると、執事姿をした白髭のお爺さんが近づいてきた。


 雰囲気はとても紳士な感じで、物腰が柔らかそうだ。


「アルフレッド様、お待たせいたしました。国王陛下のお部屋へご案内します」


 執事はそう言うと、一度俺に対して一礼をした。


「は、はい。よろしくお願いいたします」


 俺が返事をすると、執事は柔らかい笑顔を見せて、くるっと向きを変え進み始めた。

 俺は執事の後についていく。


 国王陛下の自室へ行く途中、いくつか部屋があったが、部屋の扉の前では騎士が2人ずつ警備していた。

 

 俺が今歩いているエリアは王族とそれに近しい者たちしか入れないところらしい。


 近づくと、騎士たちは鋭い眼を俺に向けてくる。

 先ほどの貴族たちとは違った眼差しだが、怖いものは怖い。


「その者が例の少年か?」

「さようでございます」


 さらに騎士の一人が近づいてきて細かく俺の顔を舐め回すように見る。

 鋭い眼光が、毛穴の一つ一つを細かくチェックしているかのようだ。


 ……怖い。顔が怖いですよ!


「は、はじめまして。アルフレッドと申します」


 俺は苦笑いをしながら軽く両手を上げる。

 「私は無害です」アピールだ。

 

「ああ、すまなかったな。特に他意はない。姫様のお気に入りがどのような少年か気になっていたものでな」

「そ、そうですか……」

「そう緊張するな。陛下がお待ちだ。中に入るがよい」

「はい。ありがとうございます」


 そう言うと、二人の騎士が同時に両開きの扉に手をかける。

 ぎーっと高級そうな音を立てながら豪華な扉を手前に引いていった。


 赤い生地に金色の刺繍入りのカーペットが見え、その先には国王陛下と王妃様、シャーロットの姿が目に入った。

 あと、一人だけかっこいい騎士服を着た男性がやや後方に国王陛下を警備するかのように立っていた。


 騎士の人から「さあ前へ」という目配せをもらい、俺は絨毯に足を踏み入れた。


 ……何、このふわふわ絨毯!?


 まるでサッカー場の芝生を踏んでいるみたいだ。

 いやいや、芝よりかなりきめが細かい。

 

「陛下、アルフレッド様をお連れいたしました」


 俺が国王陛下の部屋に入り、少し進むと執事が声を発した。

 振り向くと、執事は控えめな場所にとどまり深く頭を下げていた。

 

「ご苦労だった。下がって良いぞ」

「はい。かしこまりました」


 執事は、会釈をすると部屋から退出していった。


「さあ、もう少し近くにきておくれ」

「は、はい」


 俺は慌ててもう数歩前へ進んだ。


「もう、アルったら。そんなにガチガチにならなくても大丈夫ですわ」


 シャーロットが国王陛下の左隣でクスクスと笑みを見せる。


 シャーロットのお陰か、視界がはっきりして国王陛下のお顔をしっかりと見ることができた。

 

「改めて、よく来てくれた」

「アルフレッドです。よ、よろしくお願い申し上げます」

「堅苦しい挨拶はよい。それよりも菓子の話だ」

「お菓子ですか?」

「そうだ。さっきの件は大丈夫であろうな?」

「はい。陛下のお好きなお酒を教えていただければ、さらに良いものをご提供できるかと思います」

「そうか、頼んだぞ」


 国王陛下の顔がニヤけている。

 相当楽しみにしているようだ。


 国王陛下が秘書に目配せをすると、すでに用意していたのか、国王陛下のお酒リストを手に取って持ってきた。

 

 用意周到だ。いつ用意したんだろう?


「さて、ここへ其方を呼んだのは菓子の話をするためではない」


 そう言って、国王陛下が目配せすると家臣のものたちは部屋から退出していく。

 

 ……どんな重要事項を聞かされるんだろう?

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