第41話 新しい婚約者候補?
「さて、立ち話も疲れるだろう。そちらで話そうじゃないか」
部屋から家臣たちがいなくなると、国王陛下たちは執務机から応接用のソファーへ向かいはじめた。
国王陛下と王妃様はそれぞれ一人用のソファーに座り、シャーロットはその向かいの2、3人掛けのソファーに座った。
俺の席はシャーロットのとなりのようだ。
「何をしている。座ってくれ」
「は、はい」
俺は慌てて返事をして、シャーロットと少し距離をとってソファーに腰を下ろした。
「もうアルったら……」
距離をとったはずなのに、シャーロットが俺との距離を詰めてくる。
逃げようとすると、ガッチリと俺の左腕を掴んできた。
「シャーロット?」
「……」
シャーロットは笑みを返すだけで何も言わない。
「……わかった。ちゃんと話を聞くよ」
「うん」
デジャブってやつか?
昔、同じようなことがあったような……。だが、全く思い出せない。
国王陛下と王妃様は生暖かい表情で俺たちを見ている。
大事なことを話すはずなのに、この空気感は何だろう?
「アルフレッド、其方はシャーロットのことをどう思っている?」
「素敵な王女様だと思います」
「いや、そういうことを聞いているのではなくて、異性としてどう思っているのか聞いているのだ」
国王陛下の言葉と同時に腕の締め付けがキュッと強まった。
「どうって……、初めて会った時はとても可憐で一目で目を奪われてしまいました。いろいろなことに気を配れてとても素敵な女性だと思います」
そう言うとシャーロットの腕の力がさらに強まった。
「そうか、わかった。シャーロット、いいのだな?」
国王陛下の問いにシャーロットが頷いた。
「では、シャーロットとアルフレッドの婚約を認める。公の発表はシャーロットの卒業以降とする」
「ま、待ってください。私がシャーロットと婚約ですか?」
「嫌かね?」
「嫌ではありません。ですが……」
「其方の気になっていることはわかっておる。身分差の問題であろう?」
俺は国王陛下の言葉に頷く。
「だからこそ、貴族たちの前で小芝居までしてそなたに酒の席に合う菓子を要求したのだ」
「あら、お酒に合うお菓子は前々から欲していたではありませんか?」
「余計なことを言わなくてよろしい」
「そうでしたわね。うふふ」
「貴族たちが納得いく実績を其方に積んでいってもらいたいのだ」
「実績ですか……」
「其方の力量なら不可能ではないと思うが、どうだろうか?」
俺は一度目を瞑る。
俺の腕越しにシャーロットの脈の音が伝わってきた。
シャーロットがどのような心境であるかも……。
シャーロットの支えになりたいという気持ちはある。
でも、貴族として生活していく自信はまだない。
モルブランみたいな貴族がたくさんいると思うと、やっていけるか不安になるのだ。
……それでも、覚悟を決めないと。
俺は目を開けて、真剣な眼差しで国王陛下を見た。
「わかりました。シャーロットとの婚約、お受けいたします」
「おお、そうか。よく決断してくれた。シャーロット?」
気がつくと、シャーロットは大粒の涙をこぼしていた。
俺の手とシャーロットの手がかなり濡れていた。
「ごめんなさい。うれしくて、うれしくて……」
俺は何て声をかければいいかわからなかったので、シャーロットの手を握ってあげることしかできなかった。
それでも、俺の気持ちが伝わったのかシャーロットは落ち着きを取り戻していった。
「突然、取り乱してしまいまして申し訳ありませんでした」
「気にしていないよな?」
「あ、はい」
「アル、ありがとう」
シャーロットの笑顔を見て俺たちはホッと胸を撫で下ろした。
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