第18話 実力試験の妨害工作

 翌日、第一回の実力試験が行われる。


 入学して早々に試験があるとは思わなかった。

 でも、俺は常にお菓子を作っているし、勉強も欠かさず行っているから問題はない。


 一方、他の生徒たちは青白い顔をしている。

 合格が決まってから今日に至るまで何もやっていなかったのだろう。

 御愁傷様である。


 学院のカリキュラムは座学と調理実習があるが、試験は調理試験のみが行われる。 

 衛生管理やお店の経営理論などは知っていて当たり前の領域らしい。

 そこで競わせる気はないようだ。


「アルフレッドさん、試験は第二調理室で行われるそうです。皆集まっているので急いでください」

「はい、わかりました。ありがとうございます」


 寮から教室へ向かう途中、俺は知らない男子生徒から声をかけられ、言われた通りに第二調理室へ向かった。


 しかし、第二調理室に着くと、そこには誰もいなかった。


 ……準備室かな?


 準備室に行ってみたが、やはり誰もいない。


 ガラガラガラ、ガチャ!


 ドアが閉められ、外から鍵をかけられてしまった。


 ……何で内側に鍵がないの!?


 ドンドンと扉を叩いたが誰も反応してくれない。完全に閉じ込められてしまった。


 ……どうしよう、試験が始まっちゃう。


◇◆◇


「君、こんなところで何をしているのだ?」


 しばらく大人しく待っていると、別のクラスの教師がやってきた。


「中にいたら鍵を閉められてしまいまして……」

「そうか、不運だったな」


 閉じ込められたのは不運だったが、たまたま別のクラスの教師が準備室を開けてくれたのは幸運だ。


 それほど時間が経っていないはずだから、挽回は可能だ。


 俺は急いで第一調理室へ向かった。



「先生、すみません。遅くなりました」

「アルフレッド君、遅いぞ。早く試験に取り掛かりなさい。今回の作品テーマは『自由』だ」


 案の定、調理室に着くと試験はすでに始まっていた。


「おお、遅れて試験に来るなんて、主席様は随分と自信があるようで」

「まさか、俺たちに負けるなんてなよな……」

「あははは」


 俺に嫌味を言ってきたのはモルブランとその取り巻きの男子生徒たちだった。

 その中に、先ほど嘘の情報を伝えてきた男子生徒も一緒にいる。


 ……グルだったのか。


「アル、どうしましたの? 大丈夫ですか?」


 自分が使う調理台に来ると、カリーナが心配そうに近づいてきた。


「ちょっと騙されてしまって……」


 俺はモルブランたちの方をちらっと見る。


「あー、災難でしたわね」

「まぁ、そんなに時間が経っている訳じゃないので何とかなりますよ」

「そうね。わたくし、手加減なんてしませんからね」

「もちろんです」


 俺とカリーナでエールを送り合ったあと、俺はお菓子の材料を取りにいった。


 ……え? 何もない?


 食材置き場に来ると、そこにはほとんど食料が残っていなかった。


「あははは、どうした? 俺たちに懇願すれば食材を分けてあげないこともないぞ」


 モルブランたちの調理台の上に大量の食材が置かれている。

 お菓子を作るためにそんな量の食材は必要ないはずだ。


 食材置き場を見渡してもほとんどの食材がなくなっている。お菓子作りに欠かせない小麦粉すら残っていない。


 ……どうすればいいんだ? このままではお菓子が作れないぞ。


 俺は腕を組んで考え込む。しかし、考えたところで食材が出てくるわけではない……。


「何だ、あれ?」


 ふと顔を上げると、蓋が半開きになった2つの木箱がに入った。


 何もないよりはマシだと思い、俺は近づいて、1つ目の木箱の蓋を開ける。


「え!? これって小豆だよな?」


 1つ目の木箱の中には小豆色の豆が詰まっていた。

 

 この世界では、何故か小豆は食用として使われていない。

 なので、誰も見向きもしなかったのだろう。


 俺にとっては好都合だ。


 俺は小豆色の豆を一粒つまんで、口の中に入れる。


 ……ああ、これは品質の良い小豆だ。


 前世ではちゃんと目利きをして、和菓子にあった小豆を仕入れていた。

 

 だからわかる。

 

 ……一体誰が小豆の品種改良をしたんだろう?


 いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 いくら小豆があってもそれだけでは何もできない。


「もう一つの方は……」


 もう一つの木箱の蓋を開けると、そこには白い粒状のものが詰まっていた。


「お米だ!」


 間髪入れず、俺は米をかじる。


「ああ、これはもち米だ。しかも前世で食べたもち米に近い。これならアレを作れるぞ」


 どうして品種改良された小豆やもち米がここにあるかは疑問だったが、それどころではない。


 俺は二つの食材を抱え、俺は調理台へ戻った。


「おいおい、あんなのでまともなお菓子が作れるのかよ?」

「あいつ、自暴自棄になったんじゃないか?」

「やったあ、今回は平民に負けることはないぞ」


 和菓子を作ることができると思うと、胸が高鳴って仕方がない。

 俺に対して否定的な声が聞こえてきたが、余計な雑音は全く気にならなかった。


 ……モルブランありがとう。お陰で和菓子が作れるよ!


 俺は自然と顔がニヤけてしまう。


「その材料でお菓子を作るのですか? その様子だと、勝算があるように見受けられますが……」


 カリーナが心配そうに声をかけてきた。


 この食材の価値を知っている者は誰もいないだろう。

 心配されて当然だ。


 でも大丈夫。


「はい。これでお菓子を作ります。ご心配ありがとうございます」

「アル……。貴方は、その食材を選んだのですね」

「え、あ、はい。もうこれしか食材が残っていなかったので。でも、何とかなりますよ」

「そ、そうですか……」


 シャーロットも驚いた顔をして俺に声をかけてきたが、カリーナとはちょっと驚きの雰囲気が違うように感じた。


 ……なんだろう?

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