第33話 学院祭のお菓子作り
学院祭の出し物が決まり、俺たちは和風喫茶を開くための準備を始めた。
マドレーゼから和風喫茶に出す紅茶を教えてもらい、それに合ったお菓子を考える必要がある。
本当は緑茶も欲しいところだが、茶揉みの体験があるものの、その道具の作り方を知らない。
和菓子には緑茶が一番合うのだけれど、紅茶も合わないという訳ではない。
羊羹や大福、お団子や最中、カステラなどが合うとされている。
今日はシャーロットたちが俺の部屋に来て、お菓子の試食会をする日だ。
もうすでに全員集まっている。
「アル、お願いされたものを持っていきましたわ」
「もう、シャーロット様がそのようなことをされなくても、使用人に任せれば……」
「マドレーゼ、大丈夫ですわ。わたくしが直接持ってきた方が効率的ですし、あまり機密情報を外に漏らしたくはありません」
「シャーロット様がそうおっしゃるのであれば……」
マドレーゼは納得しきっていないようだが、シャーロットが言ったことを受け入れた。
貴族の世界では物の運搬を本人が行うことはほとんどしないらしい。
基本、使用人のような下働きの者に全て任せるのがこちらの世界では常識のようだ。
俺がシャーロットに頼んだのは寒天だ。
シャーロットが開発したものを使わせてもらいたいと頼んだら、快く了承してくれた。
まあ、寒天の量はそれほど多くない。
数キログラムといったところか。
でも、1キログラム以上の物を王女に持たせるのは畏れ多いらしい。
俺には理解できない常識だ。
って、俺が取りに行けばよかったのか。
反省、反省。
「それで、この寒天を使ってどのようなお菓子を作るのかしら?」
シャーロットは俺の目をじっと見つめながら質問してきた。
「えっと、羊羹というものを作ります」
「ヨウカン?」
またまたカリーナとマドレーゼがハモって首を傾げる。
しかし、シャーロットはそれほど驚いていないようだ。
「ええ、寒天を液状にして、この前作ったこし餡を混ぜ合わせて型に入れ、冷やした物です。つるっとした食感で美味しいですよ」
「かなりシンプルな作り方ですね。しかし、それだけでは物足りないような気がしますわ」
「カリーナの言う通り、それだけでも美味しいのですが、栗を中に入れてみたり、混ぜ合わせるときに別の食材も入れて味のレパートリーを増やすのもいいですね」
そう聞いて、カリーナはいろいろと考え込む。
今回は俺一人で作るのではなく、みんなでお菓子を作っていきたい。
ベースだけを教えて、みんなで意見を出し合って工夫したお菓子を和風喫茶で提供したいと思っている。
今回、和風喫茶で出すお菓子はそれだけではない。
しばらく俺は、シャーロットの研究所に通い、上新粉やもち粉、白玉粉を開発をした。
それで作れるようになったのは、お団子や最中である。
お団子は赤白緑の3色団子。
赤は桜に近い色の花を見つけて塩漬けにしたもの、緑はその花の葉の塩漬けやヨモギなどで風味をつけたものを生地に混ぜ込んで作る予定だ。
……本当は桜がいいんだけどね。
みたらし団子も作りたかったのだけれど、醤油がない。
大豆はあるのだから、醤油を作ることは可能なのだが、俺には醤油を作るノウハウがない。
残念だ。
最中は、もち粉をこねて蒸してから薄く伸ばしたものを焼いて皮を作り、それを合わせて中に餡子をはさんだものだ。
最中の皮のサクッとした食感がまたたまらないんだよね。
話し合いの結果、和風喫茶で提供するメニューは羊羹、3色団子、最中、カステラに決まった。
厨房係のカリーナはレシピを覚えて、俺のお菓子を再現しようと必死の様子だった。
カリーナは技術の吸収が早いから、俺は直ぐに抜かれそうだ。
でも、切磋琢磨できる人がいることは俺にとって望ましい。
もっともっと努力して、たくさんの人が満足してくれるお菓子を作っていきたいからね。
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