第32話 学院祭の話し合い②

 次に話し合うのは内装について。


 床の間に掛け軸、障子や襖、畳がある部屋を記憶に残っている通りに描いてみる。

 日本でよく見る和室である。

 

「自然を感じる素晴らしい部屋ですわね」

「ええ、周辺の国でも見たことがない建築様式ですわ」


 カリーナとマドレーゼは物珍しそうに俺の描いた絵を見ていたが、シャーロットだけは違った。


「アル、これはどちらの国の建築物かしら? どこでこのようなものを知ったのかしら?」


 シャーロットはじーっと俺の目を見る。

 表情が目を逸らさないでと語っているようで、俺はシャーロットから目を離すことができなかった。


「あ、えーっと、あの……その……」


 シャーロットに返す言葉がなかなか思い浮かばない。

 どうやって言い訳をすればいいのか……。


「……まあいいわ。あまり詮索をするのは失礼でしたわね。ごめんなさいね」


 シャーロットは必要以上に迫ってこなかったので、俺は軽く息を吐く。


 シャーロットは、これ以上質問しないと言っているが、目がまだ知りたいと訴えている。

 

 ……そんな目で見られても、どう答えていいか考えがまとまらないよ。

 

 気を取り直して、俺たちは内装の相談をしていく。


 こちらの世界では靴を脱いで座るという習慣がないので、畳は却下された。

 なので、テーブル席でお客様を迎える形になる。


 テーブルの形を和風っぽくデザインすればどうかとカリーナから提案があったので、その案を採用した。


「では、次はメニューかしら?」


 シャーロットはやる気満々で、積極的に話し合いの進行役をする。


「喫茶店ということでしたら、紅茶を数種類用意する必要があるかしら?」

「紅茶でしたらわたくしがご用意いたしますわ」


 カリーナの質問に、マドレーゼが反応した。

 この中で一番紅茶に詳しいのはマドレーゼのようだ。

 

「では、マドレーゼにお願いしますね」

「はい、シャーロット様」


 お茶については問題なさそうだ。


 

 続いて、お菓子について話し合う。

 

「お菓子については、自分が知っているお菓子のレシピをみなさんにお教えします」

「本当ですか!?」

 

 一番にピクっと反応したのはカリーナだった。

 カリーナはいつも俺が作ったお菓子を再現しようと、日夜努力している。

 しかし、独学では限界があり行き詰まっていたようだ。


「はい。秘密にする必要はないので、お教えしますよ」

「アル、ありがとう」


 カリーナは満面の笑顔を見せて、お礼を言った。


「では、お菓子についてはアルの部屋でってことでよろしいかしら?」

「へ!?」

「また俺の部屋ですか? 研究所もあることですし……」

「いいえ、アルの部屋がいいですわ」


 シャーロットはなぜか、少し不機嫌そうな表情を見せる。

 

 ……え? 俺、何か変なこと言ったかな?


「……はい。わかりました。俺の部屋でやります」


 結局、俺はシャーロットの圧力に負けてしまった。


「よろしい。うふふ」


 シャーロットは何故か、満足そうな表情を見せる。


 ……何を企んでいるのか読めなくて、先が怖いよ。



「はい、では最後に役割分担を決めますね」


 シャーロットは空気を切り替えて、話し合いを進める。


 役割分担といっても、お菓子を作る係と配膳をする係だけ。

 そんなに難しいことではない。はず。


「わたくし、配膳係をしたいと思いますの」

「え!? シャーロット様にそのような……」


 一番驚いた反応をしたのはマドレーゼだった。

 

 貴族がメイド服など使用人が着るような服を着ることはないようで、マドレーゼは「王女様にそのような服を着させる訳にはいかない」と言いたかったようだ。


「マドレーゼ、ここは学院です。身分は関係ないですわ」

「ですが」


 シャーロットは譲らないという表情をしている。

 本当に面白い王女様だ。


「…………。シャーロット様が配膳係をされるというのであれば、わたくしも配膳係を担当いたしますわ」


 マドレーゼはものすごく意を決した表情を見せた。

 俺にとっては、そんなに大変なことのように思えないのだが、貴族の令嬢にとっては決意を込めなければいけないほど大きなことなのね。


 しかし、王女様と公爵令嬢がメイド服を……。


 個人的には見てみたいのだが、何か胸騒ぎがするのは気のせいだろうか?

 嫌な騒動が起きなければいいのだが……。

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