第34話 和風喫茶開店前

 世の中、資本力って大事だね。

 王立製菓学院のトップ4で俺以外は金持ちだ。

 いや、クラスで俺以外は金持ちだ。


 何を言いたいか?


 学院祭当日、和風喫茶をする部屋に来てみたら俺の想像を超えた部屋が出来上がっていた。

 カリーナが障子に使用する和紙も製紙業者に掛け合って開発してくれたらしい。

 申し訳ないと思っていたが、新しい商品を開発させてもらえたと製紙業者が大喜びしていたので気にする必要はないと、カリーナが言っていた。

 開発経費はそこそこかかったが、王国中に和風の喫茶店を展開することを考えたら安い投資らしい。


 金銭感覚が庶民の俺とは全然違う。

 お金持ちの考えることってよくわからないな。


 なんとなくわかることは、たくさん投資するから、それに見合ったリターンを得られるのだなということ。

 ただ「頑張りました!」だけでは大きな利益が得られなのだなと感じさせられた。


 俺は部屋隣接する更衣室でマドレーゼが用意してくれた和菓子屋の作業着に着替える。

 まさかこっちの世界で、またこの服を着られるなんて思ってもいなかったよ。


 白い七分袖のジンベイに袖を通し、小豆色のショートエプロンをキュッと締め付ける。

 最後に、同じ白色の和帽子を身につけて準備完了だ。


「よし!」


 俺は両手でパチっと頬を叩く。


 こうするといつも気合が入るんだよね。


 前世ぶりの和菓子屋だ。

 俺の心臓がバクバクいっている。

 緊張ではない。

 心が躍っているのだ。


 更衣室を出ると、予想外の光景を目にして、その気合が一瞬で吹っ飛んだ。


「アル、おはようございます。どうですか? 似合いますか?」


 俺の心臓がバクバクからドキドキに変わる。


「に、似合います。似合いすぎます……」


 俺にボキャブラリを求められても困る。

 気の利いたセリフなんて出てこないよ。


 銀髪美少女が着ているのは、和服とメイド服を掛け合わせたものだ。

 ベースは青系の矢絣模様の和服で、スカートは膝が隠れるくらいの長さで、ふわっとしていて裏地の裾にフリルが付いている。

 そこにヒラヒラのレースがついたエプロンをつけて、さながら和洋折衷といったところか。


 この世界にはストッキングがないので、代わりに薄手の白い長めの靴下を履いている。

 流石に素足を見せるのはNGということでそうなったが、それでも……。


 ……だめだ、だめだ、だめだ、邪な気持ちでシャーロットを見てはいけない!


 俺は深呼吸をして精神を落ち着かせる。


 マドレーゼが、俺が描いた和服のイラストを参考にデザインして、専属の針子に最高品質の素材を使って和風メイド服を作らせたそうだ。


 だがしかし、ここまで破壊力が凄いとは想像以上だ。


 マドレーゼも色違いの同じ服を着ているのだが、髪ロール部屋に和風メイド服って……。


 王女様と公爵令嬢にこんな服を着させても大丈夫なのだろうか?


「アル、どうしたのですか? 顔が赤いですわよ」

「あ、いや、その……。シャーロの姿が……」

「わたくしの姿がどうしたのですか?」

「き、綺麗です」

「あら、嬉しいですわ。うふふ」


 シャーロットはニヤけ顔で俺の顔をジロジロと見てくる。

 俺のあたふたした顔を見て楽しんでいるようだ。


「あら、カリーナも素敵ですわね」


 カリーナが更衣室から出てくると、シャーロットの目線はカリーナに向く。

 やっとシャーロットの攻めが終わって俺はホッと息を吐いた。


「おまたせしました」


 カリーナは厨房役なので、俺と同じ服装をしている。

 頭は和帽子ではなく、三角巾を用意した。


 カリーナの髪型はいつもツインテールなのだが、今日は三角巾をかぶるので髪の毛を後ろで結んでいる。

 

「カリーナ、素敵ですわ。とても似合っていますよ」

「ありがとうございます。シャーロット様にお褒めいただけて光栄です」


 カリーナの服装はシンプルだが、清楚さと清潔感が感じられる。


「あら、でもエプロンの掛け方がちょっと違いますわ」


 シャーロットがすっと、カリーナが身につけているエプロンの位置を正し、紐を手慣れたような手つきで結び直す。

 

 ……なんだろう、こんな光景知っている。見たことがあるような……。


 俺の頭の中にふわふわとした光景が浮かんできたが、それが何なのかよくわからなかった。

 

 ……でも、何か懐かしい感じがする。


「アル、何をぼーっとしていますの? 始まりますわよ」


 シャーロットがそう言うと、俺はハッと我に帰るとザワザワと外が賑わってきているのがわかった。


「は、はい。では、和風喫茶開店しますね。みんな頑張りましょう」

「はい!」

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