第35話 和風喫茶オープン


 学院祭開始の合図を確認すると、和風喫茶オープンだ。


 部屋の扉を開けると異様な光景を目に入ってきた。


 予想以上の行列。

 しかも全て貴族だ。


 しかし、その列に違和感を感じる。

 その原因は最前列にいたイケオジと絶世の美女の夫婦である。

 

 他の貴族の人たちは何故か皆、その二人から一様に距離をとっている。

 

 二人の服装は豪華だが、一応抑えてきました感を漂わせている。

 全く抑えていないのだけれど……。


 ただ、夫人の顔を見てすぐにシャーロットの母親だとわかった。

 透き通った白銀の髪、整った顔立ち、醸し出す雰囲気はシャーロットによく似ている。

 

「お、お父様!?」


 それを見たシャーロットは思わず声を上げる。

 

「しー! シャーロット、声が大きい。今日は忍びだ」


 はっと思ったシャーロットは直ぐに両手を口に当てるが、あまり意味はなかったと思う。

 

 このイケオジはシャーロットの父親で間違いない。

 ということは、目の前のイケオジはセイグリッド王国の現国王陛下である。


 お忍びで来ている?

 まだバレていないと思っている?


 もうバレバレだからね。


「それでは和風喫茶、開店です。お父様、どうぞお入りください」

「うん? 君は私の父親ではないぞ?」

「あ、いえ、申し訳ございません。ではどうお呼びすれば?」

「コホン。まあよい。また後ほど話をしよう。それでは失礼するぞ」

「わたくしは、貴方の作るお菓子を楽しみにしていましたわよ。うふふ」


 そう言いながら、国王陛下と王妃様はシャーロットに案内されながら店内に入っていく。

 両親を誘導するシャーロットがとても嬉しそうだ。

 3人の様子を見て、とても仲の良い家族なのだなと感じた。


 それに続いて、並んでいた貴族の方々が恐る恐る店内に入っていく。


 さすがに、国王陛下と王妃様がいらっしゃる部屋に入るのは緊張するよね。

 


 和風喫茶がオープンすると、俺は急いで厨房に戻る。


 シャーロットとマドレーゼが次々とオーダーをとってくる。


 特に、給仕するのは初めてなのに、シャーロットの手際が良すぎる。

 かなり様になっている。

 

 どこで習ったのだろうか?


 と、考えている余裕などない。

 次々と入ってくるオーダーに対応しないといけない。


 俺とカリーナは急ピッチでお菓子の用意をしていく。

 といっても、事前にお菓子を作っているのでそれほど大変ではない。

 氷室から冷やしておいたお菓子をとりだし、切り分けて配膳していくだけだ。


 だが、意外と注文される量が多いので少々心許ない。

 なので、俺は材料を取り出し、追加のお菓子を作る準備も並行して行なっていった。

 


「シャーロット様、1番卓のお菓子の準備ができました」


 お菓子の準備が整うと、お菓子をお盆の上に乗せてカウンターに置いた。

 

「はい!」


 シャーロットが元気に返事をして、カウンターに近づいてくる。

 シャーロットの売り子姿がとても可愛い。


「あら、今日はシャーロではないんですね」


 シャーロットは少し不満気味な表情を見せる。


「さ、さすがに、ここでは呼べませんよ」

「それもそうね」


 シャーロットは周りにわからないように、俺に向かって舌を出してウィンクした。


「もう」

 

 俺はそう言いながら軽く息を吐いた。


「シャーロット様はいつもよりテンションが高いですわね」

「ええ。こんなシャーロを見るのは新鮮ですね」


 と、呑気に会話をしている余裕はなかった。

 次々と入ってきたオーダーを捌かないといけない。

 

 俺とカリーナは急いで厨房に戻り、作業にもどった。


 

 店が満員になり、しばらくするとオーダーが止まった。

 それは、店内にいるお客は皆貴族。上品にお茶とお菓子を楽しむので、時間がゆっくりと流れているからだった。


 

「アル、お父様が呼んでいるわ。いいかしら?」

「え? あ、はい」


 突然、俺は国王陛下から呼び出された。

 何を言われるのだろうか?


 ……こ、こわいなぁ……。


 

「はじめまして。わたくしはアルフレッドと申します」


 俺は1番卓に近づき、ガチガチになって棒読みのような自己紹介をする。

 畏れ多くて、国王陛下の顔をしっかりと見ることもできなかった。

 

「そう緊張しなくてもよい。今日はお忍びだ」


 そう言われても、俺は平民で国王陛下なんて雲の上の存在だ。

 前世でもない。あるわけがない。

 緊張しない方がおかしいよ。

 

 しかも他の貴族たちがこちらに注目している。


 国王陛下の一言で俺の人生がどう変わるかなんてわからないんだよ?

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