第24話 カステラのお披露目
俺とカリーナが席につくと、ティーカップとカトラリーが置かれていく。
ティーカップは陶器製で、可憐な花々が描かれていて上品さがある。
……前世でも、今世でもこんなティーカップ、使ったことがないよ。
ティーカップに紅茶が注がれると、シャーロットが先に紅茶を一口飲む。
それを見て、カリーナがティーカップを取り紅茶を口にした。
カリーナも慣れているようで、優雅さを感じられた。
俺も、カリーナに続いて紅茶が入ったティーカップを持ち上げる。
しかし、左手がブルブル震えて、なかなかティーカップを口へ近づけることができない。
「アル、多少無作法でも大丈夫ですわよ。このような場は初めてでしょう?」
それを見かねたシャーロットは優しい表情で俺に声をかけてくれた。
「は、はい」
「うふふ。大丈夫ですわよ。もしお茶をこぼしてしまっても、給仕の者がフォローしてくれますから。マナーに関してはこれから慣れていけばいいですよ」
「カリーナはこういう場は慣れているのですか?」
「ええ、もちろんですとも。貴族の方々との取引もございますから、小さい頃から経験していますわ」
二人にフォローされたからか、なんとか紅茶を一口飲むことができた。
しかし、高級な紅茶を味わう余裕なんてなかった。
……二口目は何とか味わおう。
「そういえば、アルはどのようなお菓子を持ってこられたのかしら?」
シャーロットの楽しみは俺が持ってきたお茶菓子のようだ。
「はい、見てのお楽しみです。俺も二人のお菓子が楽しみです」
「うふふ。では、給仕の者に持ってこさせましょうか」
シャーロットはそう言うと、メイドたちに目配せをする。
すると、3つのお菓子がワゴンで運ばれきた。
一つは俺のカステラ。
もう一つは苺のショートケーキで、もう一つは……ムースケーキのようだ。
「カ……、いいえ綺麗なお菓子ですわね」
「ええ、黄色い生地のケーキなんて初めて見ましたわ。これは何というお菓子ですか?」
「はい。これはカステラというお菓子です」
「カステラ……、初めて聞く名前ですね。名前の由来は何かしら?」
「えーと、なんというか……」
……何て答えよう?
「昔、カスティラという国があったらしく……、えーと……、ごめんなさい。それくらいしか覚えていないです。小さい頃に知ったお菓子なので」
カステラは室町時代の終わりくらいに初めてポルトガル人が上陸して、その頃に伝えられたと言われている。
カスティラという王国のパンを献上されたことから、それをカステラと命名されたという説があると聞いたことがある。
ただ、今のカステラは献上されたものとは違い、長崎で独自に開発されたものらしい。
だが、そんなことをシャーロットとカリーナに説明しても伝わらないと思う。
「カスティラ……、聞いたことがない国ですわね。そんな国あったかしら?」
「ごめんなさい。もしかしたら聞き間違えたかもしれません」
「そう、残念ですわ。お祖父様に聞いてその国へ連れていってもらおうと思ったのですけれど」
カリーナの行動力というか、行動範囲が半端ない。
カリーナは商売に有益と思うと遠い国でも行ってしまいそうだ。
本当に、迂闊なことは言えないね。
次からは、しっかりと設定を練り込んでおこう。
まずは、俺のカステラからを取り分けてもらい、テーブルに置かれていく。
「では、お召し上がりください」
カステラがシャーロットとカリーナに行き届くと、俺は手のひらを差し出した。
「ええ、いただきますわ」
「はい、わたくしも」
シャーロットとカリーナはカステラをナイフで一口サイズに切り、フォークで口の中に入れた。
その瞬間、二人の顔が緩む。
「う〜ん、卵の旨みがしっかりしていて、甘みも丁度よくて美味しいですわ。このようなお菓子もあるのですね。驚きました」
「ええ、とても美味しいですわ。紅茶に合う甘さで、お茶の会にピッタリですわね」
「そう言っていただけて嬉しいです」
シャーロットとカリーナは、頬を紅色に染めてとても柔らかい表情をしている。
美味しいものを食べた後の幸せそうな二人の顔を見られて、俺は大満足だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます