第51話 作戦会議

「それでは……、会議はどこでしましょうか?」


 シャーロットは勢いよく音頭を取ったが、会議をする場所がないことに気づいてキョトンとする。

 

 リビング、応接室は改装中で使えない。

 どこで会議をしようかと考えていると、ミルフィがポンと手を叩いた。


「あ、そうだ。お兄ちゃんの部屋はどうでしょう?」

 

 俺の部屋は学院の寮暮らしになったことで使われていない。

 自分が家を出た後に整理されているので、会議に使っても問題ない。


「さすが、ミルフィ。それではアルの部屋へ行きましょう」


 シャーロットは妙なテンションになっている。

 会議をすることより、俺の部屋が気になっているようだ。


 

「あら、とてもスッキリしていますわね」


 俺の部屋に入ると、シャーロットは少しがっかりした表情を見せる。


 俺の部屋には家具以外、全ての荷物は学院寮に持っていったので何も置いていない。


 ……何を期待していたんだろう?

 

「シャーロ、会議をするのでしょう?」


 カリーナの言葉にシャーロットはハッとする。

 目的を思い出したようだ。


「ごめんなさい。早速、明日の作戦会議をいたしましょう」


 シャーロットが司会進行役で会議が始まった。

 俺とシャーロット、カリーナ、ミルフィと母さんの5人で、俺の小さな机を囲う。

 流石に、6畳くらいの部屋に5人は狭いな。


 会議をするのが初めから決まっていたのか、カリーナはすっと机に筆記用具を広げた。

 カリーナが書記をしてくれるようだ。

 

「まずは、どんな商品を作るのか、その担当者は誰なのかを決めましょう」


 まずは、俺が既存の商品を伝える。

 シャーロットやカリーナも、俺が作る和菓子のレシピをある程度知っているので分担して作ることが可能だ。

 氷室が新しくなったことで、ラインナップを増やせることができる。


 作ることが可能な追加のメニューを伝え、それらは俺が担当することになった。


「ケーキを出すことはできないかしら?」


 シャーロットの提案に、俺たちは難色を示す。

 ケーキは出したい。

 けれど、今の日中の気温だと店頭に置いておくのが難しい。


 こちらでは、ケーキは作ったら直ぐに出して食べる習慣なので、保存を前提にしていない。

 なぜか、それを無視して向いの店はケーキを売っている。

 常連さんがクリームに酸味を感じて食べるのを直ぐにやめたと言っていたから、かなりやばい状態なのだろう。

 

「ガラスのショーケースがあればなあ……」

「アル、ガラスのショーケースってどのようなものでしょうか?」

 

 俺がぼそっとした呟きにカリーナが反応した。

 前の世界では当たり前にあったものだが、こちらの世界には無い。

 何て表現したらいいものか。

 

「うーん、そうですね。ガラスで密閉した棚みたいなものに氷室をくっつけたようなものです」

「ガラスの棚に氷室をくっつける……」


 カリーナは思考を巡らせる。

 俺のヒントからガラスのショーケースを想像するのは難しいようだ。


「あ、そうだ。カリーナ、紙とペンを貸してくれる?」

「はい、どうぞ」


 言葉で説明するより、絵を描いた方がわかりやすいだろう。

 俺はガラスケースの部分と、冷やす装置を紙に描いて皆に見せた。


「ここがガラスケースで、下に冷やす装置をくっつけてガラスケースに送れば、中が冷えてケーキなどを保存することが可能かなと。お客さんからも商品が見えて見栄えもいいと思います」

「なるほど……。ちょっと失礼いたしますわ」


 カリーナは俺の描いた絵を持って部屋の外へ出ていった。

 従業員と話し込んでいるのが聞こえたので、それを実現しようとしているのがわかった。


 ふと振り向くと、シャーロットがじーっと俺を見ているのがわかった。


「シャーロ? どうかしました?」

「え? いえ、何でもないですわ」


 何でもないような感じではなかったが、まあいいか。


「失礼しました」


 従業員との話が終わって、カリーナが部屋に戻ってきた。

 カリーナは、大きな商談を成立させかのような、とてもやる気に満ちた表情をしている。

 

「アルの提案、実現できそうですわ。ですが、明日は無理そうなので数日ください」

「え、数日で?」

「はい。多少は試行錯誤しないといけないですが、数日あればお店に納入できるでしょう」


 あれだけの説明でそんなに直ぐに動けるものだろうか?

 カリーナの行動力には感心する。

 カリーナは調理の腕も凄いが、商人としての才が素晴らしい。

 

「カリーナさん、そんなにしていただけて嬉しいのですが……」


 母さんが心配そうな表情を見せながら、話しかけてきた。

 

 氷室も新しくしてくれて、ガラスのショーケースを導入となれば莫大な費用が必要だ。

 お金のことが気になるのだろう。

 俺もそうだ。


「カリーナ、これらの費用のことだけど」

「あ、お構いなく。わたくしたちの先行投資ということで、これらの費用は全て当商会持ちとさせていただきます」

 

 カリーナの説明によると、ガラスのショーケースのアイデア料だけでもお釣りが出るくらいらしい。

 ビスコート商会の全店で運用したいらしく、逆に俺の許可が欲しいと求められた。

 これからケーキの切り分け販売が可能ということになれば、このくらいの先行投資は安すぎるくらいらしい。


 提供できる商品の幅が広がったことにより、その後も議論がさらに白熱した。

 どんなケーキにするのか、他にも何かできないか、話題が盛りだくさんで時間を忘れて会議が続いていった。

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