第52話 反撃開始!
「お店を開けますよ!」
ミルフィが店の入り口のカーテンを開けると、窓の外にはかなりの行列ができていた。
向いの行列と同じくらいの列だ。
「いらっしゃいませ」
ミルフィが明るい声で挨拶をすると、一人、また一人と客が店内に入ってくる。
開店早々から店内が賑やかになった。
「アル坊、おはよう。今日も来たぞ。お? 人が増えておらんか?」
いつもの常連のおじいさんが今日も一番に来店してくれた。
本当にありがたいお客様である。
「はい。俺の通っている学院のクラスメイトです。応援に来てくれました」
「ほう。めちゃくちゃめんこいのう。で、どっちなんじゃ?」
常連のお爺さんが「秘密にするぞ」と言いながら聞き耳を立ててくる。
「いや、それはちょっと」
「お、そうかそうか」
教えるのを拒否したが、俺がシャーロットに目線を送ったのがわかってしまったようだ。
たった一瞬だったのに、それを逃さないなんて……。
「わしはアル坊を応援しておるぞ。頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
俺は常連のお爺さんから生温かな笑みで応援された。
……もう婚約が決まっているのだけれどね。
「あのう、すみません。これは何のお菓子ですか?」
「あ、はい。こちらは水羊羹といいます。ツルッとした透明の生地に、餡子を入れました」
俺の説明にお客さんはキョトンとする。
説明してもわからないよね。
「では、お一つ試食してみますか?」
「いいんですか?」
「はい」
俺はお客さんに試食用の水羊羹をわたす。
お客さんはひとつまみでひょいと口の中に水羊羹を入れた。
口の中に入れた瞬間、そのままシュルッと水羊羹が喉を通っていくのがわかった。
「うん、……え、えええ! 何これ? 食べ物だよね?」
うん、水羊羹は食べ物だ。
飲み物ではない。
だが、気持ちはわかる。
俺も試食した時に、自分で作っておきながら同じ反応をした。
「店員さん、これ10個ください!」
「はい。まいどあり!」
水羊羹を味わう前に飲み込んでしまったので、1つでは物足りないのだろ。
何個も食べたくなるよね。
「アル、完成いたしましたわ」
数日後、一旦ビスコート商会に戻っていたカリーナがガラスのショーケースと共に戻ってきた。
想像通りのガラスのショーケースで俺は目を見張る。
手前がガラスの引き戸になっていて、前世で見たものとあまり変わらない。
ガラスのショーケースのしたは、鉄製の箱が付属している。
ここに氷を入れてショーケースを冷やす仕組みになっている。
「カリーナ、ありがとう」
「どういたしまして。それより、どこに設置いたしましょうか?」
ガラスのショーケースはカウンターとしても機能する。
だから、俺は今あるカウンターをどかして、そこに設置すること、運用方法を提案した。
「なるほど、そう使うのですね。物は作りましたが、どう使うのか疑問に思っていたのです」
カウンター係がガラスのショーケースからケーキを出して、お客さんに渡すだけなのだけれど、こちらの世界では新しい手法のようだ。
商品をディスプレイさせながら売るという発想は全くなかったらしい。
「お兄ちゃん、どうやってケーキをお渡しするの?」
ケーキ販売なんて初めてだから、ミルフィもどうしていいかわからないようだ。
「大丈夫ですわ。これを用意いたしましたから」
シャーロットが得意げな顔で、量産したケーキ箱の束を皆に見せた。
この世界に羊皮紙ではない紙は存在するが、まだまだ高価なので紙単体ではあまり流通していない。
シャーロットはどうやってこれほどの量の紙を用意したんだろう?
「シャーロ、良い案だけれど、予算的に大丈夫なの?」
「ええ、もちろん。わたくしが製紙用の木を植林させて、大量生産していますもの」
「でも、急にそんなに大量の紙を
「それは大丈夫ですわ。当商会がしっかりとコントロールしていますから」
カリーナが言うには、これから市場に流すらしい。
製紙用の木を植林する場所も増やし、製紙業も王国で発展させようと計画しているようだ。
その宣伝としても、ケーキ箱は丁度良いらしい。
「では、ケーキ担当はシャーロ、カリーナでいいですか?」
「ええ、任せてください!」
「わかりましたわ」
準備が整い、二人はやる気満々だ。
ラインナップにケーキが加わり、明日からはさらに忙しくなりそうだ。
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