第53話 妹への打ち明け
「ふわぁ〜」
やっと明るくなってきた空を見ながら、俺は大きなあくびをした。
一時間くらいしか寝ていないので、非常に眠い。
シャーロットたちと会議を始めたのだが、打ち合わせが終わるとお菓子談義になり、解散したのは明け方だった。
女子トークというのはどの世界でも共通のようだ。
「お兄ちゃん、おはよう」
「ミルフィ、おはよう」
ミルフィはすっきりとした表情で表に出てきた。
ミルフィと母さんは、早めに退散できたから、しっかりと睡眠が取れたようで安心する。
「眠たそうだね」
「まあね」
「ふふ」
ミルフィは意味ありげに苦笑する。
「どうした?」
「お兄ちゃんは、どっちを選ぶの?」
「は!?」
「だって、何の理由もなしに王女様や商会のお嬢様があんなことしないでしょ?」
ミルフィの言うことはもっともだ。
何の理由もなしに、俺のためにこれほどお金と時間をかけてくれるとは思えないだろう。
しかし、俺とシャーロットとは婚約が決まっている。
俺のピンチにシャーロットが駆けつけたということは理解できる。
カリーナは……。
友人としてきてくれて、どちらかというと商会のためになるから動いているような気がする。
……まあ、いずれ話すことになるしな。
俺は一呼吸入れて、真剣な顔でミルフィに向き合った。
「誰にも言うなよ」
「え? もう決めてるの?」
「決めてるというより、決まってる。俺はシャーロット王女と婚約をすることになっているんだ」
「え!? そうなの?」
ミルフィは驚いたような、嬉しいような、複雑な表情を見せた。
俺がシャーロットかカリーナのどちらに好意を寄せているのかを聞きたかっただけなのに、もう婚約が決まっているは思わないだろう。
とはいえ、婚約が決まっているが、そこまでのハードルがかなり高い。
一番は身分差だ。
最低でも俺が貴族になる資格を得なくてはいけない。
だから、王国が推進する菓子事業で大きな貢献をしていくことが俺の課題なのだ。
「お兄ちゃん?」
「決まってはいるけど、いろいろと障害があってね」
「でもするんでしょ? したいんでしょ?」
「うん。したい」
「じゃあ、頑張らなきゃ。私もお兄ちゃんを応援するから、ね」
「ああ、ありがとう」
可愛い妹から応援されたら、兄として頑張らない訳にはいかない。
すぐには無理でも、研鑽を重ねて一歩ずつ進んでいければ何とかなるだろう。
俺一人で抱え込む必要もない。
シャーロットと相談しながら未来へ向かっていければ大丈夫だよね。
妹とそんな会話をしていると、ちらほらお客さんの姿が目に入った。
開店時間まで、まだかなりの時間がある。
それほどお菓子を楽しみにしているお客さんがいるとわかったら、余計にやる気がでてきた。
「よし、今日の仕込みを始めようか」
「うん」
俺と妹が厨房に入ると、シャーロットたちも準備を整えて待機していた。
「アル、おはよう」
「おはよう、シャーロ……」
妹とシャーロットのことを話していたから意識してしまった。
意識をすればするほど、俺の胸がドキドキしてくる。
「アル、どうかしました?」
「あ、いえ。今日も頑張りましょう」
「ええ、もちろんですわ」
……シャーロットのことが気になるけど、今はお店のことに集中しよう。
俺は下っ腹にぐっと力を入れて、気持ちを入れ直した。
今日からケーキの切り売り販売も行う。
仕込みの量は今までの倍以上だ。
俺はいつも通り和菓子を担当し、シャーロットとカリーナはケーキ作りに専念してもらうつもりだ。
ミルフィと母さん、カリーナの従業員たちにはそれぞれの補助をしてもらう。
作業が始まり、下準備が終わると、一斉にカッカッカと泡立てきがボウルに当たる音が響き始めた。
皆、一つも無駄がないように、きめ細やかな動作で黙々と作業に集中している。
雰囲気が臨戦体制のようで、身が引き締まる感じだ。
しばらくすると、焼き作業が始まり、ケーキのスポンジが焼ける香り、饅頭が蒸しあがる香りなど香ばしい、甘い香りが充満してきた。
その香りは厨房内にとどまらず、外にも漏れているようで外が騒がしくなった。
早くお菓子を食べたいという悲鳴が聞こえてくるようだ。
和菓子職人の異世界転生 藤野玲 @taasama0079
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