第48話 新商品販売
店を開けると、いつもの常連さんが待ってましたとばかりに店内に入ってくる。
「アル坊、おはよう。今日も来たぞ。お? 新しいお菓子かね?」
「はい。お口に合うかどうか……」
俺基準では和菓子が好きで美味しく感じるが、人によってはそうでもないかもしれない。
前世では、洋菓子がブームになって和菓子があまり売れない時期も経験している。
和菓子が受け入れられるか不安で仕方がない。
「ほう、これが作った新しいお菓子か。綺麗じゃのう。それでは」
常連のお爺さんが一つ、また一つと新商品を手に取っていく。
それにつられてか、他の常連さんたちも次々と新商品を手に取っていき、お会計を済ませると、満足そうな笑顔で帰っていった。
「お兄ちゃん、今日も昨日と同じだね」
「うん、そうだね」
常連さんたちが帰ってしまうと、昨日と同じ閑古鳥状態だ。
俺たちは向かいの行列を眺めながらお客さんを待つ。
「暇だなあ〜」
「そうだね。お客さんこないね」
ぼうっと眺めていたら、ふと、長い列から抜けた男性がこちらにやってくるのが目に入った。
行列に並ぶのが嫌になったのだろうか?
「お邪魔します」
店に入ってきた男性は、俺の父親と同じくらいの年代の人だった。
服装からも、中流階級の人だと思う。
「いらっしゃいませ。はい、こちらをどうぞ」
ミルフィが挨拶をすると、お菓子を入れるトレイをお客さんに渡す。
「あ、ありがとう」
俺の店はトレイに自分の好きなお菓子を入れていくセルフ方式だ。
常連さんたちは慣れているので、勧めなくても自分でトレイを持っていってくれる。
それ以外のお客さんはあまりこのシステムに馴染みがないみたいで、よく戸惑われる。
まあ、そんなにいろいろな種類のお菓子を買うという習慣がもともと無かったからね。
「えーと、これは何ですか?」
「はい、これは苺大福といいます。中に苺と甘い餡子が入っています」
「アンコ?」
お客さんは首を傾げる。
この世界に餡子が存在していなかったから、通じるわけがない。
餡子を知っているのは、俺のお菓子を食べたことがある人だけだ。
「えーと、豆をすり潰してこしたものに砂糖を混ぜた感じのものです」
「へえー。この周りの白いのは?」
「もちもちとした食感の生地で包んでいます」
「もちもち?」
……もちもちとした食感も普通の人には通じないよね。
「こちらはサービスいたしますから、試食してみませんか?」
俺は小皿に苺大福をのせて、お客さんに差し出した。
「え、食べていいんですか?」
「はい、どうぞ」
お客さんは苺大福を受け取ると、右手で摘み上げ、がぶりと口の中に含んだ。
「うっ……」
お客さんは目を見開き、言葉にできない感情をどう表現していいかわからないという表情を見せた。
言葉よりも、苺大福を味わいたいのか、言葉を出すのを諦めて黙々と食べている。
食べ終わると、期待をしたような目でお客さんは俺を見る。
「美味しかったです。いや、本当に美味しいです。これはいくらですか?」
「はい、1個銅貨5枚です」
銅貨1枚が大体、日本円にして100円くらい。
なので、苺大福はちょっと高めで500円だ。
こちらの方では、原材料費が高いので仕方がない。
ちなみに、饅頭は1個、銅貨1枚、どら焼きは銅貨2枚、カステラは一切れ銅貨1枚だ。
カステラはまとめて売ろうとしたが、より多くの人に楽しんでもらいたくて全て切り分けて売ることにした。
「銅貨5枚ですか!?」
「え、高いですか?」
「いえいえ、安すぎます。こんなに美味しくて銅貨5枚だなんて」
お客さんは、破格の値段に驚き、苺大福を5個、饅頭を10個を買い上げていった。
合計金額は銅貨35枚だ。
「値段、安すぎたかな?」
「うーん、よくわからないけど、お兄ちゃんがいいならいいんじゃない?」
お客さんが満足そうにして店を出ていくと、それを見た別のお客さんが一人、また一人とこちらに足を運び始めた。
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