第49話 応援?
「お兄ちゃん、お饅頭がなくなりそうだよ」
「大丈夫、もうすぐ新しいのが蒸し上がるよ」
お客さんの流れがこちらに傾いたかと思ったら、一気に流れてきた。
逆に向かいの店の列が目減りしていっている。
こんなにも早く流れが変わるとは思ってもいなかった。
朝仕込んだお菓子が飛ぶように売れていて、追加でお菓子を作らないといけないほどの大忙しだった。
嬉しい想定外だ。
しかし、食材の量が心もたない。
今日の分は何とかなるが、明日以降の分が不安だ。
「ありがとうございました」
日が落ちると、やっと客足が引いてくれた。
昼過ぎに母さんが帰ってきて、3人で何とか店を回しすことができた。
「はあ〜」
「お兄ちゃん、大丈夫? 疲れた?」
俺が下を向いてため息をつくと、ミルフィが心配そうに俺に声をかける。
「あ、いや、そんなに疲れてはいないけど、食材がね……」
俺は食材が入っていた袋を見つめる。
明日のオープンはまかなえると思っていたが、食材がすっからかんだ。
「どうしましょう、今から食材を揃えるといっても、この時間だと店がやってないわ」
母さんが頬杖をつきながら難しそうな顔をみせる。
こちらの世界にコンビニやスーパーなんてない。
基本、日が落ちれば、どの仕事も終了だ。
店なんて営業していない。
しかも、この食材は特殊なものなので普通の店では手に入れることが難しい。
王立製菓学院の自分の寮へ行けば食材があるのだけれど、この時間だと寮にも入れないよね。
……どうしよう。
「あれ、お客さんかな?」
人影が見えたので、ミルフィが店の入り口に駆け寄る。
まだ灯りがついていたので、店が営業中だと思ったのだろうか。
「申し訳ございません、本日完売で……。あ、カリーナさん。え、お兄ちゃんに?」
急にミルフィの声のトーンが上がった。
誰だろうと、俺も店の入り口に行くと、そこにはカリーナの姿があった。
「カリーナ、どうしてここに?」
「アル、ごきげんよう。いろいろとお困りでいらっしゃると思いましたから、応援に参りましたわ」
カリーナは優雅な佇まいで、学院にいる時と少し違った雰囲気を纏っていた。
お仕事モードって感じだ。
後ろには、ビスコート商会の従業員らしき人たちが何人も控えている。
単に応援にきた訳ではなさそうだ。
「アル、食材を運び入れてもよろしいかしら」
「食材?」
「ええ、今日は大盛況だったのでしょう? 食材が無くなって大変ではないかと思って、お持ちいたしました」
「あ、ありがとう。じゃあ、こちらに」
俺は流れのままに返事をして、店の食糧庫を案内する。
カリーナが食糧庫の場所を確認すると、自分の従業員に目配せをした。
すると、従業員たちはカリーナの意を汲んで大量の食材を食糧庫に運び入れ始めた。
食材の量が半端ないことに俺は驚く。
今日使った食材の10日分もあるのではないだろうか。
しかも、もち米や小豆もある。
……あれ、ということは?
「アル、きちゃった!」
カリーナの従業員たちの後ろから、テンションが高い声と満面の笑顔でシャーロットが顔を出した。
「シャーロ!? 何でここに?」
俺は想定外のことに両目を見開く。
「きちゃった」って昭和のトレンディードラマのセリフかよ!
アレ昭和だったっけ?
俺は深呼吸をして、呼吸を整えてから、シャーロットの顔を見る。
「シャーロ、よく許可がおりましたね。わざわざ食材を送るためにご一緒されるなんて」
「違いますわよ、アル」
「え?」
意味がわからない。
周りを見渡すと、シャーロットの護衛騎士たちが目に入った。
護衛騎士たちは一様にして青白い顔色をしている。
気が気じゃないという感じだ。
……ここに来るだけでも大変なことなのに、それ以上何をするの?
シュルツと目が合うと、俺は「どういうこと?」って感じに目線を飛ばした。
シュルツからは「知らん、とにかく頑張れ」的な目線を返されてしまった。
……はあ、何を頑張れというのだろうか。
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