第8話 お菓子屋のお手伝い
両親の前でお菓子を作って以来、俺も店でお菓子を作るようになった。
前世ではお菓子を作った事がある人なら簡単にできそうなレシピを父さんに教えた。
父さんはレシピの多さに驚いたが、そんなのは序の口である。
お菓子なんてピンからキリまである。ケーキだけでもどのくらいの種類があるのだろうか?
ショートケーキ1つにしても使う果実が違ったり、装飾の仕方が違ったりと何種類もある。
……やばい、そんなことを考えていたらよだれが溢れ出そうだ。
流石にウチの店ではケーキを作る設備がない。大富豪の店ならば揃える事が可能だろうが。
今は焼き菓子を中心に商品展開をしている。基本焼くだけなので、それほどコストはかかっていない。
「アルはすごいな。どうやったらこんな発想ができるようになるんだ?」
父さんは不思議そうに俺の顔を見てくる。
「うーん、どうやって、って……」
どう答えればいいのだろうか、返せる答えが見つからない。
レシピは全て前世で知ったものだ。小さな子供がこの世界では未知のレシピを次々と披露していったら不思議がられるだろう。簡単なものならと父さんにレシピを教えたが、この世界では簡単ではないようなので、もう少し自重した方が良さそうだ。
俺はなんとか言葉を濁してその場をやり過ごした。
お菓子ができあがれば、できあがったお菓子を売り場の棚に品出ししていく。俺は作ったお菓子が並べられると、前世のことを思い出してしまった。
前世の俺の家は和菓子屋だった。小さい頃は絶対にお菓子を触らせてくれなかった。
まあ、それが当たり前なのだが。
唯一、手伝いができたのはお菓子の品出しだった。親父が作ったお菓子を慎重に運んで、ガラスケースの中に入れていった。
……懐かしいな。
それに比べて、今の店のレイアウトが質素だ。ただ木の棒で組んだ棚にお皿やバスケットに入れたお菓子を並べていく。
この世界には包装という文化がないのでお菓子を直に渡している。衛生管理というものもほとんどなく、他人が触った食べ物を受け取っても気になる人は一人もいなかった。
せめてトングのようなものがあればと思ったが、父さんには理解してもらえなかった。
店の掃除は父さんの手伝いを始めた時からずっと続けている。初めて掃除をした時は、どうしてそこまでするのかと不思議がられたが、今ではすっかり当たり前になっている。
あとはどうやって売り場の見栄えを良くしていくかだ。
「父さん、綺麗な布ってある?」
「綺麗な布? うーん、いくつかあったような気がするが、何に使うんだ?」
「うん、ちょっと売り場の棚を綺麗に見せようと思って」
「ふーん、わかった。ちょっと待ってろ」
父さんはそう言うと、物置の中に入っていった。
部屋中が茶色一色になっているので、棚の上くらいは色鮮やかにしたい。それによって清潔感が増すので、見栄えは良くなるはずだ。いくらこの世界の人たちの衛生観念が低いからといっても違いはわかるだろう。
しばらくすると、父さんは物置から大きさの異なる布を何枚か持ってきてくれた。
何かに使った余り布だと思うが、布の大きさは問題ない。
「アル、こんなんでいいか?」
「うん、ありがとう」
俺は父さんから布を受け取ると、黄色や赤の無地の布や、チェックが入った布など、サイズを調整しながら売り場の棚に敷いていった。
「ほう、布を敷くと大分雰囲気が変わるな」
「そうでしょ。ここに並べると、お菓子がより美味しいそうに見えるはずだよ」
父さんは綺麗に彩られた棚を見て、眉間に皺を寄せる。そこにお菓子が置かれている様子を想像しているようだ。
しかし、父さんは実際にお菓子が置かれていないと実感が湧かないようだ。明日の朝まで我慢だね。
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