第42話 帰寮
俺はシャーロットと馬車に乗って学院の寮へ向かっている。
……シャーロットの婚約者になって馬車に二人きりって、緊張するよな。
「アル、今日はいろいろとありがとう」
「うん。こちらこそありがとう。でも、今日はいろいろありすぎて疲れたよ」
「ごめんなさいね。私もこんなに急に話が進むとは思ってもいなかったもので」
シャーロットはすぐに婚約者が欲しいとは思っていなかったようだ。
だが、俺の話を両親に話しているシャーロットの姿は恋する乙女にしか見えなかったのだろう。
この世界では、貴族の令嬢がこの歳で婚約者がいないことはありえないらしい。
早急に婚約者を探さなければと、親心で動いた結果のようだ。
しかし、王女様が俺の婚約者か……。想像もしてなかったよ。
「アル、取り敢えず学院では今まで通りでお願いしますね。正式な発表があるまでは学友ということでいきましょう」
「はい、わかりました」
シャーロットの言う通り、そんなに畏まらず今まで通りに過ごせばいいよね。
とは言ったものの、寮に戻ると変化があった。
「よう、今日から君の護衛役を勤めることになったシュルツだ。よろしくな」
「は、はい。よろしくお願いします」
「将来的には俺が家臣にかるかもしれないんだ。そんなに畏まらなくてもいいぞ」
「は、はい」
シュルツは元々シャーロットの護衛騎士の一人で、国王陛下の部屋の門番をしていた人だ。
雰囲気が貴族っぽくなく、とても気さくな感じだ。
「それと、俺は元々平民だ。姫様は貴族と平民、分け隔てなく接してくださる。そのお陰もあって護衛騎士になれたんだ。あんな奴が姫様の婚約者候補であることに腹立たしく思っていたが、君が奴を失脚させてくれたことに感謝している。俺だけじゃない、他の護衛騎士たちも同じ気持ちだ」
俺は平民出身の騎士が多いことに驚いた。
昔は平民が騎士になれることは滅多になかったらしいが、近年は功績によって騎士として採用される平民が増えているらしい。
特に、シャーロットの人をみる目が素晴らしく、適材適所の人事采配のお陰で王国の発展が目まぐるしいようだ。
「シュルツさん、シャーロット様の婚約者は僕でよかったのでしょうか?」
「姫様の行動を見ていれば明らかだよ。俺たちは姫様の幸せを願っている。君なら姫様を幸せにしてくれるって信じているさ」
俺がシャーロットを幸せに……。
こっちの世界のことも貴族社会のことも知らない俺が、どこまでできるのだろうか?
「そんなに重く考えなくてもいい。平民から貴族になるって大変だからな。俺も実感している。その辺はちゃんとフォローするから安心しろ。それより、君のお菓子を食べさせてくれないか?」
「あ、はい。いいですよ」
俺はテーブルに置いてあったせんべいが入った籠をシュルツに見せる。
シュルツは一枚のせんべいを手にとって、そのまま一気に口の中に入れた。
一口サイズではないのだけれど……。
シュルツがポリポリと美味しそうな音を立てるので、俺もせんべいを口にした。
「う〜ん、うまいな。こんなの食べたことないぞ。この表面に塗ってあるのは何だ? 塩じゃないよな?」
シュルツはもう一枚のせんべいを手にして観察する。
「醤油を表面に塗っているんです。しかも焼く前に」
「ショウユ? 聞いたことがないな。そんな調味料があるんだな」
「シャーロット様が開発した調味料なので、まだ市場には出回っていません」
「姫様が……。へぇ、姫様はこんなこともやられていたのか」
シュルツが言うには、シャーロットは幼少期から王国の農業改革に関わっていたそうだ。
当初は、今までにない農業のやり方に周りは困惑していたが、年を重ねるごとに収穫量が増えていき、王国中にそのやり方が浸透していった。
今では品種改良をして、他国にはない農作物も生産していて、セイクリッド王国は農業大国として世界に知らしめている。
シャーロットはどうやって農業の知識を得たのだろうか?
どちらかというと、前の世界の農業に近い気がする。
農業が発展している国は他にあるのだろうか?
……う〜ん。考えてもしかたがないかな。
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