第3話 はじめてのお散歩
初めて家の外。ガラス越しから見えなかった景色が広がっていく。
「うにゃぁ、うにゃぁ」
「あらあら、ごきげんね」
レンガ作りの建物がずらっと綺麗に整理されいるかのように並んでいて、白い石畳の道を辿っていくと小さくお城のようなものが見えた。
俺が住んでいるところは商店街のようなところで、いろいろなお店が立ち並んでいる。人通りも多く、とても賑わっていた。
母さんはお城とは反対の方向へ進んでいく。
次はどこへ連れて行ってくれるのかワクワクする。
家から5分ほど進むと景色が変わって、簡素な建物が目立つようになってきた。
近くには噴水があって、その周りには仮設のお店がいくつもある。先ほどよりも人が多く、気をつけなければ俺が体当たりされそうだ。
母さんは俺を必死に庇いながら人混みの中を掻き分けて進んでいく。
露店には串焼きの肉だったり、簡単なツマミだったり、焼きたてのパンなどが売られていた。
肉の焼ける香ばしい匂いを嗅ぐと食欲がそそられる。
今の俺は母乳しか飲めないので、今は我慢するしかない。大きくなったら買いにこよう。
さらに進んでいくと、生鮮市場が見えてきた。
野菜や果物がふんだんに並べられている。
見たところ、野菜や果物は前世の世界のものとそれほど変わりはなさそうだ。見慣れたものみると、何故か安心する。
「いらっしゃい。おや、息子さんかね?」
「ええ、息子のアルフレッドよ」
「そうかい、可愛いねぇ」
母さんは果物でお菓子の材料を買うようだ。
特にベリー系の果物を次々と手に取っていく。
……タルトケーキでも作るのかな?
真っ先に頭に浮かんだのはベリー系をミックスしたタルトケーキだ。クッキー生地の上に、苺やブルベリーなどを砂糖漬けにしたものや、ジャムのようにしたものをのせて焼いたもの。
「あら、息子さんが……」
「あー、お腹がすいたのかな?」
母さんは布巾のようなもので俺の口もとをゴシゴシと拭った。
どうやら、美味しいものを想像していて俺の口から唾液が溢れ出ていたようだ。
「はいはい、ご飯にしましょうね。それじゃ、これでお願いします」
「はいよ。大丈夫? 持てる?」
「ええ、大丈夫よ」
母さんは布袋に入った果物を受け取ると、人気が少ない場所まで移動した。
「はい、おまたせ」
母さんは周りから見えないように右胸を出して、俺の顔を胸に押し付けた。
……おいしい!
相当お腹が空いていたのか、俺はごくごく母乳を飲んでいく。漂ってくるお肉の匂いを堪能しながら。
母乳を飲んでお腹がいっぱいになったのか、俺は意識がもうろうとしてきた。瞼が重たい……。
次に目を覚ました時、俺はベビーベッドの上に寝かされていた。いつもの85個のシミが見えた。
今回、外の世界を見ることができたのは大収穫だ。この国は食べ物が豊富で一見貧しそうに見えるが、そこにいる人々の表情は明るかったので決して悪い場所ではないだろう。
いろいろと思考を巡らせていると、また瞼が重くなってきた。やはり、赤子では体力が心許ない。俺はあま〜い香りを堪能しながら再び眠りについた。
「アル〜、ご飯にしましょうね」
数ヶ月後の朝食、俺の目の前におかゆのようなものが出された。離乳食だ。
ここでは、お米ではなくパンが主食となっている。おかゆのようなものはパンを細かくちぎって、味の薄いスープでゆがいたものだった。
とにかく味気ない。具もない。ないないないだ。
歯が生えそろってきたので、せめて固形物を食べたい。
とりあえず、味のしない朝食を食べると俺は眠りにつく。それは体力を温存して家の中を探検するためだ。
「あら、もう寝ちゃったわね。うふふ、お腹いっぱいになったのかしら?」
……狸寝入りだ。さあさあ、安心して早く行くとよい……。
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