第10話 王立製菓学院へ
あっという間に10年が経ち、王立製菓学院入学試験当日を迎えた。
王立製菓学院は貴族エリアにあり、俺は平民エリアと貴族エリアの境に向かって歩き始めた。
俺の家の周りは、いつも買い物をする人たちで賑わっているのだが、朝が早いためか一人も外を出歩いていなく、新鮮な感じがした。
エリアの境では、兵士が監視をしている。通行許可証を兵士に見せることで貴族エリアに入ることが許される。
何の問題もなく平民エリアを抜けると、そこには別世界が広がっていた。
周りの建物の作りが平民エリアとは雲泥の差がある。
綺麗に保たれた建物や道、街頭などもしっかりと整備されていて、前世の世界に近いくらいのクオリティを感じた。
できれば、俺もこちら側の環境で暮らしたいと思うが、叶わぬ願いだろう。
街並みは碁盤の目のように整えられていて、平坦な土地なので王立製菓学院の校舎がはっきりと見えた。
以前、お城だと思っていた建物は王立製菓学院の校舎だったようだ。
王国が建てたものだから自然とそうなるものだと、俺は自分を無理やり納得させて門に向かって歩き始める。
「おい、止まれ!」
「何の用だ?」
王立製菓学院に辿り着き、門を潜ろうとすると、俺は警備の兵士に止められた。
「えーと、僕はここの受験生です」
俺はごそごそと鞄の中を漁り、受験票を取り出した。
「うーん? 間違いないな。通るといい」
兵士が怪訝な表情を見せながら道を開ける。こんな中流階級の息子が王立の学院に来るなんてありえないのだろう。辺りを見ても同類が一人もいない。俺は小さく背中を丸めながら学校の敷地内に足を踏み入れた。
俺はボッチだなとつくづく思う。知り合いどうしが仲良く会話している。一人でいるのは俺くらいだ。あと場違いだ! 周りの人と俺とでは服装が違いすぎる。逆目立ちしている。
「おい、お前。何しにきた? お前のような貧乏人が来る場所ではないぞ!」
……貧乏人? 中流階級程度だと貧乏人扱いされるのか……。
俺が振り向くと、この中で一番豪華な衣装を身に纏った学生が目に入った。しかも、取り巻きを二人も連れている。
「……」
俺はどう返事すればいいか判断に迷う。
「モルブラン様、この学院に身分は関係ございませんわ」
俺が困っていると、一人の令嬢が仲裁に入ってくれた。透き通った白銀の髪がヒラヒラと風に舞い、貴賓あふれる美少女。彼女は絶対に住む世界が違うお嬢様のようだ。
「おお、シャーロット王女。これは失礼いたしました」
……王女?
シャーロット王女はモルブランの呼びかけに対して怪訝そうな表情を見せる。
「モルブラン様、ここではその言い方はよしてくださいと申しておりましたが……」
「いえいえ、貴女様は次期王となられるお方。将来の伴侶として讃えるのは当然ではないですか」
「……ふぅ、もういいですわ。くれぐれも学院内では権威を振りかざさないでくださいませ」
シャーロットは何を言っても無駄と感じたのか、ふぅっと息を吐いて、その場を離れていった。
モルブランは頭を下げて、シャーロットを見送る。態度はシャーロットの言葉に従ったように見えるが、顔が笑っていた。あまりいい感じはしない。
「ふん、命拾いしたな。今後、俺様の視界に入らないように!」
シャーロットの姿が視界から消えると、モルブランは元の態度に戻って俺に忠告をしてきた。
「……」
俺はあまりの態度の変化に呆れて言葉が出てこなかった。
その後は、嫌な目線を向けられたものの、俺のような中流階級の息子に声をかける貴族はいなく無事に試験会場へ向かうことができた。
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