第29話 あらたな依頼
「ええー、それで川のヌシ様と出会ったんですか? すごい幸運ですねぇ……」
レイズちゃんの驚きの声を聞きながら護衛任務の報告を終える。あのお祭り騒ぎの翌日に俺たちは護衛の商人とともにこの街に戻ってきた。
そして、今冒険者ギルドで依頼終了の手続きを行っているのだ。このあとはケインさんたちと打ち上げと称して飲む予定があるので楽しみである。
「あ、そうだ。よかったらお二人も今度『朽ちた世界樹の森』の探索をしてくれませんか? それだけ強ければ安心ですし」
「私たちがヌシを倒したから冒険者たちに色々と調べさせているのか。確かにエリクシルの草原などが見るかればこの街ももっと発展するかもしれないな」
「ええ!! そして、冒険者さんたちが増えれば私たちのお給料もアップするんです!! えへへ、牛串食べ放題とかしてみたいんですよ……」
「そっかー、イビルスパイダーは偶然倒しただけだけど、みんなが喜んでくれてよかったよ」
こちらとしては火の粉を払っただけだが、この街に活気が出るのはいいことだと思う。自分の旅で感謝されるのはうれしいものだ。
???の魔物もまだ一体いるし『朽ちた世界樹の森』の奥地をみてみるのもいいかもしれない。ファンタジーっぽい風景もみれるかもだしね。
「グロリア、つぎの依頼は『朽ちた世界樹の森』の探索にしよっか?」
「ああ、そうだ……」
「わー、シンジさんありがとうございます!! これはギルドの依頼ですからね、昇進のための評価にも色が付きますよ」
レイズちゃんに言葉をさえぎられて、ちょっとムッとするグロリア。なだめようとしたタイミングで満面の笑みをうかべているレイズちゃんに手をにぎられたものだから、そのやわらかい感触と人肌に思わずデレっとしてしまう。
多分、こういうスキンシップが人気の秘訣なんだろうなぁ……
などと思っていると隣から殺気にも似た鋭い視線を感じた。
「ふぅん、かわいい女の子に頼られて随分と嬉しそうじゃないか?」
「いや、これは男の本能というか……」
「別にいいんじゃないか? 私たちはただの冒険者パーティーだからな。シンジが誰にデレデレしようが関係ない」
あきらかにどうでもよくなさそうな表情でグロリアが唇を尖らしている。俺が助けをもとめるようにレイズちゃんをみると苦笑しながら口を開く。
「ふふふ、グロリアさんはシンジさんのことが大事なんですね。だったら、ちゃんと言葉だけでなくスキンシップも大事ですよ。また、耳をさわらせてあげたらどうですか?」
「な……なんで私がシンジに耳を触らせたことを知っているんだ!?」
「え? 冗談で言ったんですが、本当に触らせたんですね……でしたら、今後は私もこういうのは控えますのでご安心ください」
「なっ……かまをかけたのか……」
「いや、これはグロリアが墓穴を掘ったんだと思うよ……」
余裕たっぷりのレイズちゃんに悔しそうに耳をピクピクとしているグロリア。なんだか申し訳なくなってきたな……
「グロリア、そろそろケインさんたちの方へ行こう。おなかもすいてきたでしょ」
「ああ、そうだな……」
一瞬こちらをにらんだかと思うとなぜか顔を赤くすると手が引っ張られる。え、これって……
「なんだ? レイズに握られるのはよくて私はだめなのか?」
「いや……嬉しいです……」
「うふふ、これからもお二人の活躍を楽しみにしていますよ」
レイズちゃんへの対抗心だろうけど、まるで恋人のように手をつないできたグロリアに思わず俺も顔が真っ赤になってくる。
にやにやとこちらを見送っているレイズちゃんを恨めしそうに見てからケインさんたちの所へと向かおうと一歩踏み出した時だった。
ガタン
と大きな音を立てて冒険者ギルドの扉がひらくとそこには確かリードハルトという冒険者が息も絶え絶えに入って来る。
「お、リードハルトじゃねえか、どうしたんだ? そんなぼろぼろで?」
「森で落とし穴にでもひっかかったか? そういえばルードは……」
話しかけてくる冒険者たちを無視して、リードハルトはそのまま受付に行き一言。
「緊急事態だ。森の奥にヌシを超える魔物がいた]
その一言で冒険者ギルド全体がざわりとさわがしくなるのだった。
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