第22話 ウォーレムの村

「なあ……サハギンは食べないのか……」

「うん、ちょっと他の使い方があるからね」



 すっかり魔物食に興味をもったらしきグロリアがしょぼんとしているのを横目に俺たちはウォーレムの村についた。

 ここは小さいが市場などもあって活気づいているはずなんだけど……



「さびれてない? え、なんかみんな元気がないんだけど」

「確かに……いつもこういう感じなのか?」

 


 市場だというのに人通りは少なく、開いている店もあまりない。

 馬車に乗っている時に聞いた話とのあまりの違いに驚いていると、ケインさんも驚いた様子であたりを見回す。



「そんな……いつもはここら辺は魚を取った漁師とそれを買いに来た商人たちでにぎわっているんだよ」

「そうですわね……私が食べるはずの海鮮も売ってませんわ!!」



 いや、まだマリンさんのじゃないでしょと思いつつ、それぞれ分かれて情報収集することにした。

 とりあえず、俺たちは口コミを調べながら感じのよさそうなお店を選ぶ。


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ルックの海鮮屋

 地元の老舗の海鮮食堂。元々は劇団員だったが、売れなかったから故郷に帰って食堂を継いだ。目利きの腕と優れた包丁さばき、パフォーマンスと看板娘の存在で人気なお店。

 

〇他の町では食べると二倍くらいする量の海鮮がもられている海鮮丼がコスパ最高。ただし店主がうざい。

〇サシミというチー牛が生み出した料理がうまい。ただし、店主がうざい

〇生のサカナを食すなんて野蛮ですわ。店主は個性的でおもしろいですわ。

〇…訂正しますわ。生のサカナ最高ですわ!! このために生きてるって言っても過言ではありませんわぁぁぁぁ!!


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 となんか聞き覚えのある特徴的な口調の口コミもある店に入ると四十歳くらいの男性と俺と同い年くらいの女の子がでむかえてくれた。



「いらっしゃいませー……」

「ん、お客さんか……悪いが最近は魚がとれなくてね……ろくなものを出せないんだよ」



 二人とも無茶苦茶元気がないな!! 看板娘すら看板になっていないんだけど、むしろ食欲を失うような悲壮感を漂わせている。



「客が誰もいないな……シンジ、これはさすがにおかしいんじゃないか?」

「一体何があったんですか?」

「それがですね。川が魔物たちのせいで荒れてて、魚がぜんぜんとれなくなってしまったんです……」

「それにいつもはヌシ様が守ってくれているのに、最近姿をみないんだ。ああ、わかってる……食堂として失格だって言うんだろ……この責任は俺がとる。ちょっと漁にいってくるわ。チラッ」

「「え?」」



 腕まくりをしながらも店をでようとするも店主はこちらをチラチラとみてくる。そして……



「そんな……お父さんがいなくなったらこのお店はどうするのよ!! ああ、誰か魔物たちを倒し、川の奥にいるヌシ様の様子を見てくれる強い冒険者さんがいれば……チラッ」

「「……」」

 


 食堂を出ようとする父(一歩も進んでいない)を必死に止めながらこちらをチラチラと見つめる少女。

 なんか頭痛くなってきた……



「魔物があばれて魚がとれなくなったのはヌシってやつが原因なのかな? 俺たちがみてこようか?」

「本当か、ありがとう!! このままじゃ俺だけじゃない。この村の産業が崩壊してしまうんだ」

「お願いします。冒険者さんたちヌシの様子をみてきてはいただけないでしょうか?」



 土下座をせんばかりに頭をさげてくる二人。その様子を見ながら複雑そうな表情でグロリアがささやく。



「いいのか、シンジ……? 水の中はサハギンなども多い。まともに探索するとしたらかなり大変だぞ」

「うーん……困ってる人は見過ごしたくないし、それに……みずのなかにはいらなくてもヌシを見つける方法があるんだ」

「流石だな、シンジ。そういう優しい所は嫌いじゃない。だけど、少し甘いな」



 にやりと笑ったグロリアは今度は店主たちの方を振り向くと、主人に向けて感情のない声で言った。



「では、今回のこれは冒険者への依頼ということでいいな? この街には冒険者ギルドはないんもで私が契約書を作るからちょっと待っててくれ」

「あ、やっぱりそうなるかぁ……ただではいけないか……」



 ああ、そうだよね……ゲームでよくあるサブイベみたいなおつかいじゃないんだ。俺たちはいきているんだもんな。ちゃんとこういう時はお金をもらわないと……グロリアの存在に感謝するのだった。

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