第32話 守るべきもの
「イザベルさんやっぱりいい人だな。まさか格安で薬草とかを売ってくれるなんて……」
しかも周辺で値上げしている近隣の商会からまで買い付けて協力してくれたようなのだ。彼女こそが正義の商人だろう。
おかげでお金もだいぶ余ったのでCランクの冒険者以外にもいろいろと装備が渡せそうだとレイズちゃんが喜んでいた。
「ああ、そうだな……ただ、顔色が悪かったのが心配だ」
「そうだね、今度サハギン料理でも差し入れようか」
冒険者ギルドに報告して、感謝されながら俺たちは帰路につく。とりあえずは今日できる事はやりきったはずだ。
あとは実際どうなっているかだろう。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
『世界樹』
かつてはドライヤードという名の精霊だったが、魔王の魔力を浴びたせいで暴走してしまった。
チー牛によって討伐されたが、植物の生命力は異常だ。いまだその身は健在だともいわれている。
その証拠にこの周囲にはエリクシルという特殊な薬草がはえている。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
このように実際遭遇していないからか、一般的な情報しか調べることができない。ゲームとかだと木って火とかが弱点だとは思うんだけどどうなんだろうね。もうちょっと朽ちた世界樹の森の口コミを調べてみれば何かつかめるかもしれない。
「今戻ったぞ」
「ただいまー」
「二人ともおかえりーー、うちでご飯食べるの久しぶりだね」
宿に戻ると美味しそうな料理の香りと満面の笑みでリリーちゃんが出迎えてくれる。守りたいこの笑顔、いや、守らなきゃだよね。
「二人とも帰ってきたのね、じゃあ、朽ちた世界樹の森の話は知っているわよね、いつ避難するのかしら?」
「それはもちろん……知ってますけど……避難って?」
「悪いが私たちは出て行かないぞ。だって、お前はこの街を離れるつもりはないだろう?」
何かを言いたそうなマリーさんを睨みつけるグロリア。二人の間にぴしりと何かが生じた気がする。
「わかってるでしょ、私はもう仲間を失いたくないの。幸いにもあなたはこの街に愛着はないでしょ。リリーの預け先はすでに手配してあるの。そこまで護衛のお金は払うわ。だから……」
「やはり、お前はこの街をでないんだな?」
「我がままだとはわかってるわ。でもこの宿はあの人とこの子との思い出がたくさんつまっているんですもの」
マリーさんがグロリアから目をそらし申し訳なさそうにしながらも壁をなでる。そこにはリリーちゃんの身長を図っていたであろう、傷がいくつも刻まれていた。
おそらく今は亡き旦那さんとリリーちゃんの成長を喜んでいたのだろう。
「気持ちはわかるさ……」
「だったら……」
「だからこそだ。私ももう、仲間を失いたくはないし、この宿には思い出があるんだ。大切な仲間が大切な人と共に楽しそうに相談して宿屋を作ってて……何回も泊まったんだ。長命種である私にとっては大した時間ではないと思うかもしれないが、大切な思い出なんだよ」
「そんなこと言われたら……何もいえなくなるじゃないのよ、馬鹿……絶対帰ってきなさいよ」
「当たり前だ。私は帰って来るさ。だから、あれを作ってくれ。この宿ができたときに皆で食べたお前の得意料理をな」
「手間もかかるし、材料費だってかかるのよ……注文したからには来れなかったとか絶対許さないんだから」
グロリアの言葉にマリーさんが涙ぐみながらも抱き着く。俺はそれを見つめてきょとんとしているリリーちゃんに声をかける。
「お母さんとグロリアは忙しいみたいだから、先にご飯をたべてようか?」
「うん、わかったー。今日は魔牛のシチューだよ。とってもおいしいの!!」
くぐもった声をあげる二人を背に俺は明日の任務に改めて気合をいれるのだった。
最近ユニコーンオーバーロードをはじめました。はやくドスケベエルフの里に行きたい……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます