第33話 

「ぴーぴー」

「ぴー? ぴーー!!」



 平原をシルフィードに乗った冒険者たちが駆けていく。ピヨドリヨンに乗るのは冒険者として基本スキルなようで、皆がそれぞれの相棒の背中に乗っていた。

 俺以外……


「この戦いが終わったら俺も一人で乗れるようになろうかなぁ……」



 グロリアの腰につかまりながら、思わずぼやく。調べたところ騎乗スキル自体は覚えるのはそう大変ではない。

 42時間ほどピヨドリヨンに一人で乗っていれば身につくようで、あとは才能でどこまでうまく操れるか、彼らに好かれるかといったところなようだ。


「今のシンジのセリフはチー牛たちの間ではフラグと言うらしいな」

「あ、確かに……てか、そんな言葉もエルフに伝わってるのか……」



 そういうフラグだったら結婚しようとか言った方がまだ死んでも諦めがつくね。まあ、死ぬ気はないけどさ。

 昨日のマリーさんとグロリアのやり取りを見て思う。



 当たり前だけど死んだら悲しむ人がいるんだよね。だったら、俺はなるべくみんなを生きて返せるように頑張らないと。


 ともに走っている冒険者と最後にグロリアを見てそう決意していると、違和感にきづく。



「ちょっと機嫌が悪そうだけどどうしたの?」

「別に……ただ、私はシンジと乗ってると一緒に旅をしている感じがして好きだったが、シンジはそうでなかったんだなと思っただけだ」

「なっ……」


 ちょっとかわいすぎないか、このエルフ。俺はいまなら許されるかなとぎゅーっと腰を掴む手に力を入れる。



「ごめん、俺もこうしているの好きだよ。やっぱりピヨドリヨンに乗れるようになるのあきらめようかな」

「ふん。万が一の時もある。とりあえずは乗れるようにしておいた方がいいだろう。それより……魔物たちがきたようだな。街に近づいてきたら面倒だ。殺るぞ!!」



 遠目に見えるのはゴブリンだろうか? こんな平地で珍しいなとおもっていると、さっそく戦いがはじまっていく。



「はっはっは、我が剣の糧になるがいい!!」

「あんまり突っ込むな、リードハルト!? 今、遠距離攻撃中だぞ!?」



 一人で突っ込んでいったリードハルトをよそに、そんなこんなで矢が飛び、魔法が飛び、あっという間にゴブリンの集団が駆逐されていく。


 そうだよね……ゲームや、漫画ではよく噛ませ犬扱いされるCランク冒険者だけど、実際はそこそこのキャリアを積んでいる中堅の冒険者なのだ。優秀に決まっている。


 そう思って一息ついた時だった。はるか前方から巨大な何かが近づいてくるのがわかる。

 そして、それは徐々にその姿を現していく。



「あれは……スライム? だけど、大きすぎない!?」

「まさか……スライムキングか!!」


 なにそれ、名前が反対だったらスク〇ニにむっちゃ怒られそうなんだけど……しかし、そんな軽口を叩けるような雰囲気ではない。

 他の冒険者たちもピヨドリヨンたちをとめて、険しい顔をしている。てか、異世界ウィキにすら書かれていなかったイレギュラーじゃないか!!



++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


『スライムキング』


 スライムたちが種の存続の危機を感じたときに全員で一体化し現れるイレギュラーな魔物。王であり、騎士であり、民である。

 全てのスライムたちの意識が混同しているため、種を存続することにしか頭がいっていない。


弱点 なし


確定ドロップアイテム

スライムゼリー、スライムキングの核


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

 まさか、『朽ちた世界樹の森』のスライムたちがにげるために合体したのか?



「まずいぞ、あんなのが街にきたら……」

「スライムキングはBランク上位の魔物……く、本命の前にこんなのが来るとは?」

「って、リードハルトつっこもうとするな!! 死ぬぞ」



 冒険者たちがざわついていく。彼の言う通りキングスライム……じゃなかった。スライムキングは偶然か故意なのか、街の方へ向かってきていた。

 このままではまずい。やつらは三メートルくらいの高さのあり、横幅は家一軒分ある。あんなのが来たら世界樹の前に街が滅んでしまう。



「シンジ……いったん降りてくれ。私が行く。幸いに今の私とあいつならば相性がいい。勝つさ」

「ベロニカ!? でも……」

「私はシンジを信じたのに、お前は信じてくれないのか? 忘れたのか、私にはウィンディーネ様の加護がある」



 心配しながら彼女の腰から手を放すと、すさまじい勢いでスライムキングへと駆け出していく。


「ウィンディーネの加護よ!!」



 グロリアが叫ぶとその体が輝くと徐々に水色のオーラを纏っていく。そして、スライムキングがその体の一部を触手の様に引き延ばすも、すさまじい反射神経でそれ掴んでグロリアが笑った。



「ウィンディーネは水を支配している精霊だ。そして、貴様の体の大半の酸も水分だろう?」

『スラ―――!!』


 スライムキングの体がどんどん圧縮されていき、やがてパンっとはじけ飛ぶ。そしれまばゆい光と共にドロップアイテムが落下していく。


「ふむ、こんなものか……とはいえ、この姿は魔力の消費が激しいな……」

「うおおお、グロリアさんすげえ!!」

「これがBランク冒険者の力かよ」


 冒険者たちが騒ぐのも無理はないだろう。だけど、俺はおもう。あんなにもつよいはずの魔物が逃げるなんて「朽ちた世界樹の森」はどうなっているんだろうかと

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