第31話 責任の有無
冒険者ギルドの裏手にある訓練場で俺はCランクの冒険者たちにとある助言をしていた。
「うおおお、すげえ。本当にスキルを使えるのようになったぞ!!」
「はっはは、この力があれば俺はもっと上へ行ける!! すごいな!!」
「まあ、俺にわかるのは取得条件は初級スキルだけだけどね……」
そう、彼らに適したスキルの覚醒条件を教えて個々の戦力アップをはかったのであえる。
喜んでくれている彼らをよそにグロリアが少し離れたところで、複雑そうな顔で見守ってくれているのがわかった。
ああ、わかってるよ……
「すげえ……けど……ちょっとずるいよな……」
「ああ、それにもっとこの力で俺たちを強化してくれればリリィだって死なずにすんだんじゃ……それにルードだって帰ってこれたかもしれない……」
何とも言えない顔をした冒険者たちの声が聞こえてくる。
このスキルは便利すぎるのだ。そうすれば良く思われることだけではないのはわかっていた。
確かに俺がこの情報をもっと早く伝えていれば冒険者たちの生存率は上がっていただろう。それに俺がわかるのはスキルの取得条件だけではない、地図や口コミなど様々な情報だって手に入るのだ。
だけど、それを公開すれば俺は冒険者ギルドなり国に管理下におかれて自由に冒険をできなくなってしまう。俺はこの世界では自由に生きていきたいのだ。
これはわがままなのだろうか?
「シンジといったな……」
心の中で逡巡しているとリードハルトが声をかけてくる。確か彼は相棒を『世界樹』に襲われたばかりだ。
思わず身がまえてしまう。だけど、彼の行動は予想外のものだった。
「切り札であるユニークスキルを教えてまでの協力、感謝する。おかげで俺はさらに強くなれた」
そう、まるで騎士のように膝をついて礼をのべたのである。
「君は俺を責めないのか? 俺がもっと早く教えてくれればルードって人は……」
「? 何をいっているのだ。俺たちは冒険者だぞ。富と名声を得るチャンスのかわりに死ぬことを覚悟した人間だ。仲間や自分がぶじにかえってこれない可能性があることなど冒険者ギルドに入った時から理解している」
リードハルトは周りに聞こえるように大声を張り上げた。
「貴公らが彼に求めているのはノブレスオブリージュというやつか? はっ、くだらんな!! 俺たちは貴族じゃない。その日暮らしの冒険者である。そのような高尚な精神はもっていないさ。この中にわざわざ他人に良い狩場をおしえるやつはいるか? 冒険の果てに得た財宝を対して仲良くもないわかたやつは? いないよなぁ? そういうことだ。自由人である我々にはそんな責任はない。ゆえに責められる道理もないのだ」
リードハルトの言葉で不満そうな冒険者たちも押し黙る。よそ者の俺の言葉ではなくともに冒険者としてこの街を支えてきた彼の言葉は突き刺さったのだろう。
「リードハルトさん……ありがとう」
「なんのことだ? 感謝するのはこちらの方だ。この礼は必ず返す」
ウインクを返すリードハルトさんに別れをつげて俺は次の目的地へと向かう。冒険者には俺のスキルを口止めをしておいたが、うわさにはなってしまうだろう。この戦いが終わったら言い訳を考えないと……
そう思ってると、手を握られる。
「……ああいうときは私を頼れ」
「ふふ、グロリアが心配してくれたのも知ってるよ。ありがとう」
俺を助けようとしてくれたのに、リードハルトに先手を取られて少しすねているようだ。可愛い。
「わかっているのならばいい。それで次はどうするんだ?」
「まずはローニさんに言って冒険者用の武器と防具を売ってもらって……どこかで薬草の買い出しかな……」
気難しい? ローニと知り合いとレイズちゃんに話したら冒険者ギルドから買い付けを頼まれたのである。ついでだから薬草も普段お世話になっているところにおねがいできるかもと一緒に依頼をうけたのだ。
そして、次はグロリアと目的地へと進む。
★★
「イビルスパイダーよりも強い魔物ですって……? ふざけんじゃないわよ!!」
ボッタクリン商会のイザベルは悲鳴にも近い声をあげた。魔物とシンジに脅された(彼女は勝手にそう思っている)ショックで寝込んでいたが、元気になったのである。
「どうしますか? 商会からは避難するように手紙がとどいてますが……」
「はー、そんなんだからあなたは三流なのよ」
部下の言葉をイザベルは鼻で笑う。確かに命を気にするのならばさっさと移動するのがベストだろう。
おそらくだがいくつかの商会はもうすでに撤退をしているはず……だが、イザベルは違った。彼女には野心があった。
「おそらく冒険者ギルドは何とかしようと手を打っているはず……薬草はもちろんエリクシルとか戦闘で使いそうなものをこの街の商会から片っ端から買い占めなさい。多少は相場よりも高くてもかまわないわ。そして、うちでは定価の二倍で売るの。そうすれば、以前の損失もまかなえるはず……」
そして部下を買い出しにいかせてお気に入りの紅茶を淹れながら己の勝利と商売の神に感謝の祈りをささげる。
「イザベル様、冒険者ギルドお使いを頼まれたという冒険者がやってきました。どうしますか?」
「うふふ、読み通りね。いいわ。私が交渉しましょう」
そうして、満面の笑みを浮かべるイザベル。彼女が使いの冒険者を見て大きな悲鳴をあげるのことになるのはまだ誰も知らない。
生ガキに当たって小説更新している余裕がなかったです……
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