第30話 緊急会議

「ヌシを超える魔物だって? マジかよ!?」

「だって、ヌシってBランクなんでしょう? それよりつよいって……どうするのよ」



 ギルド長に呼ばれて奥に入っていったリードハルトの言葉で冒険者ギルドが一気に騒がしくなっていく。それほどに大事なのだろう。

 この光景は前世での地震や災害が起きたときのことを思いだす。そして、そんなときに人が頼るのはなんだろうか? 力を持つ存在だろう。



「Bランク冒険者がいるんだ。なんとかなるんじゃ?」

「でも、一人だぜ」

「それによそ者な上にエルフだ。命を懸けてまで戦ってくれるかなんて……」

「……」



 このギルドでもっとも力を持つBランク冒険者であるグロリアへ視線が集まっていくのを感じ、彼女は無言でそれを受け止めていた。

 その顔は無表情ではたから見たら何を考えているのかわからないせいで冷たく見えるかもしれない。だけど、俺は……異世界に来てからずっと一緒にいた俺にはわかった。

 彼女は心優しい上に親友もこの街にいるのだ。なにを考えてどうしたいよ思っているかなんて俺にはわかる。



「グロリア……俺もスキルを使ってできる限りのサポートをするよ。だから頑張ろう」

「シンジ……だが……命の危機もあるんだぞ」

「俺はグロリアの相棒なんだ。楽しいことは一緒に楽しんで、大変な苦労は一緒にわかちあいたい……そう思ってたんだけど片思いだったかな?」

「ありがとう……頼りにしているぞ」



 彼女の手を握りしめると力強く握り返してくれる。俺の力がどう役に立つかはわからない。だけど、俺は俺でできる事をしたいと思うのだ。



「申し訳ありません、Cランク以上の冒険者さんと、実際にイビルスパイダーと戦ったシンジさん、ギルド長がお呼びですので個室へ来ていただけますか?」



 慌てて走ってきたレイズちゃんが大声で呼びかける。おそらく実力者を呼んだ中に自分の名前があることに違和感を覚えつつも個室へ向かうのだった。



☆☆


 ケインさんたちを含めた冒険者たちが一室に集められていた。


「以上がリードハルトさんによる『朽ちた世界樹の森』の報告となります。その特徴からおそらくですが、魔物の正体はかつてこの地を滅ぼしかけた『世界樹』かその眷属かと思われます」


 冒険者ギルドの長である五十歳くらいの男性の言葉に集まってきた冒険者たちがシーンとなる。それほど恐ろしい相手なのだろうか?

 というかさ……『世界樹』って敵なの? 聖剣〇説とかだとむっちゃ人類の味方なんだけど……



「シンジは知らないようだが言っておくが、『世界樹』はかつての精霊が暴走して生まれた存在だ。癒しの力を持つ植物で、生き物を苗床にしては栄養を補給していたらしい。まあ、その恩恵として土壌が豊かになりエリクシルなどが生息するようになったんだがな……」

「なるほどね……良くも悪くも植物なのか……」



 おそらく『世界樹』には敵意も善意もないのだろう。ただ生きるために栄養を取っているだけなのだから……

 だけど、それに巻き込まれる俺たちはたまったもんじゃない。



「みなさんにはこれからどうするかを決めていただきたい。現段階では『世界樹』は森から出てくる様子はありません。今ならば逃げれば間に合うでしょう。ですが、いつこの街が襲われるか予断を許されない状況です。我々には戦うことを強制する権利はありません。ですが、我がままを言わせていただければ力を貸していただきたい」



 ギルド長の言葉に集められた冒険者たちが押し黙る。皆が皆いきなりのことに困惑しているのだろう。



「むろん我々も真っ向から戦えと言っているわけではありません。あなた方には『朽ちた世界樹の森』で『世界樹』の様子を見てきてほしいのです。私たちの方で王都に騎士団の応援も呼んでいます。ただ、到着はいつになるかわかりませんが……」



 申し訳なさそうにギルド長が告げる中グロリアが声をあげる。



「敵の戦力はどれくらいだと想定しているんだ?」

「ヌシを倒しているのです。おそらくは……Bランク上位……伝承の通りならばAランクの可能性もあります」

「でも、まっこうから戦う必要はなく探索なんだよね? だったら……」

「いいんだな、シンジ」



 こちらに気を遣うグロリアに笑顔でうなづくと彼女は申し訳なさそうに、だけれど安心したように微笑んで俺の手を握った。



「俺とグロリアはその任務に参加します」

「ああ、私としても友のいる街だ。見捨てるわけつもりはない」



 その声を聞いてか元からそのつもりだったかはわからないが、何人かの冒険者が声をあげる。



「まさかよそ者だけにかっこいいことをさせるわけにはいくまいよ、序列11位であるこのリードハルトこそがこの街の顔なのだからな」

「はは、Dランクのシンジにかっこつけられて黙っていられるかよ、なあ、マリン」

「そうですわね。それにお二人にはもっと美味しいものも教えていただかないといけませんもの」


 リードハルトとかいう冒険者と、ケインさん、マリンさんが立ち上がり、それに他の冒険者が続きその場に合計十人が残った。



「みなさん……ありがとうございます。それではさっそく明日探索にいっていただきます。街で買いたいものがあればギルドの名前を出してくれればこちらで負担しますので」

「気にしないでいただきたい。貴公らにとってここが故郷であるように私にとってもここは故郷なのだから」



 震える声で頭をさげるギルド長となぜかしきるリードハルト。そして、みなが明日の準備をしにいくために部屋を出ようとするのを制止する。

 俺にはまだやれることがあるのだ。



「みんなちょっと待って。すこしでも生存率をあげるために、ちょっと俺の話を聞いてくれないかな?」

「シンジ……まさか……」



 もちろん、リスクはわかっている。だけど、俺は彼らにも異世界ウィキの情報を教えてようと思うのだ。

 俺は旅人に過ぎないけれど、それでもこの世界の住人になったのだ。だから、故郷を守りたいと思う彼らの力になりたいのである。

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