第12話 VSイビルスパイダー

「あいつの弱点は火だ。甲殻は魔法への耐性があるみたい。生半可な魔法じゃ通じないから気を付けて」

「さすがだな、シンジ。ならば私の今もてる最強の魔法を使わせてもらおう。紅蓮の炎よ、我が敵を焼き払わん!!」


 作戦を決めた俺たちは大声をはりあげてイビルスパイダーに攻撃をしかける。轟音と共に炎の球がイビルスパイダーに直撃してあたりに煙が舞おどる。



「大丈夫か、イザベラさん」

「ひっ、なんであなたがここにいるんですか!?」



 よほど怖い目にあったのだろう、イザベラさんが悲鳴をあげている。


 俺を見て悲鳴を上げたような気がしたけどきっと動転しているんだろう、だって、俺と彼女は商売をしただけだし……しかも、無茶苦茶サービスしてもらったし、むしろ関係は良いはずだ。

 そんな彼女を守るようにして剣を構えて煙が晴れてみた光景に俺は思わずうめき声をあげる。



「弱点をついて、ほぼ無傷だって……?」

「これが……森の主、イビルスパイダーか、まさかここまでとはな……」

「キシャーーー!!」



 驚愕している俺たちを獲物と認識したのか、体の表面がすこし焦げた程度のイビルスパイダーはその複眼で俺たちをにらみつけるのだった。


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『イビルスパイダー』


 『朽ちた世界樹の森』のヌシともいわれる魔物。奥地を拠点としており主に迷い込んだ人間やゴブリンを喰らっている。刃物はおろか魔法すらもはじく強力な外殻に包まれている。

 


弱点 炎による攻撃、および外殻に覆われていない部位


ドロップアイテム

イビルスパイダーの外殻 レアリティC


レアドロップ

イビルスパイダーの糸 レアリティB

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 この森の主ともいえるイビルスパイダーと対峙した俺とグロリアは顔を見合わせる。



「グロリア!! 例の作戦で行くよ!!」

「ああ、まかせろ!! シルフィード!!」



 グロリアが口笛を吹いてやってきたシルフィードに向けて、乱暴にイザベラを放り投げると器用に背中にのせてそのまま走り出す。 



「ピー―!!」

「きゃあ、ちょっと?」

「シルフィード、こっちだ!!」



 俺もあわてて駆け出すと異世界ウィキの地図を見ながら、イビルスパイダーを誘導する。

 


「キシャーーー!!」

「氷よ、我が敵を捕らえよ!! く、時間稼ぐにもならないのか」



 グロリアの手から放たれた氷の蔓がイビルスパイダーの足に絡みつくが、ものともせずにカシャカシャと不気味な足音を放ちながら迫って来る。


 いや、まじでこわいな、これ!!


 だけど、少し余裕があるのは、先ほど覚えたばかりの『とんずら』で逃げ足が速くなっているからだろう。



「た、助けてくれたのはうれしいですけど、何か手はあるんですかぁ?」

「ああ、もうちょっとだけ辛抱してね。見えた!! あれが俺たちを助けてくれるんだ」

「え? あれって……ひぃぃぃぃ、ゴブリンじゃないですかぁぁぁ」



 必死にシルフィードに縋りついているイザベラさんに安心させるように笑って、目的地を指さすと、ゴブリンたちの拠点が見えた。

 木で作られた簡易的な建物であり、見張りのゴブリンもこちらに気づいたのか騒いでいる声が聞こえる。



「ゴブゴブ!!」



 イビルスパイダーにびびったゴブリンたちが逃げながら放った矢がこちらに飛んでくる中、それでも彼らの巣へと向かうと、イザベラさんが悲鳴をあげる。



「な、なんで魔物の所につこっむんですか? 頭おかしいんじゃないですか? エルフさんも何とかいってくださいよ!!」

「私はシンジを信じる。それだけだ」



 なかなかひどいことを言われたが仕方ないだろう。冷静に考えれば、魔物に襲われているのに違う魔物の巣に行くなんて挟み撃ちにされに行くようなものだからね……

 だけど、ここに来たことにはちゃんと意味があるのだ。



「グロリア、いまだ!! ここに落とし穴があるから飛んで!!」

「ああ、わかった。シルフィード」

「ピー―!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!?」



 俺が指さしたところはよく見ると不自然に地面がデコボコとしているのがみえる。とはいえ、じっくりとみないときづかなかっただろう。

 これも異世界ウィキの地図に書いてあった情報である。



「キシャーーー!!?」



 案の定イビルスパイダーが地面を踏みぬくとそのまま崩れて落下していく。元々下は洞窟だったのか、かなりの深さのようで、すさまじい音がして落下したイビルスパイダーはピクピクと苦しそうに動いている。

 今がチャンスだ。



「イザベラさん、必ず戻って来るから待っててね」

「行くぞ、シンジ。炎よ、我らが剣に宿れ」

「すごい、これが魔法剣か!!」



 グロリアの詠唱と共に、俺と彼女の剣に炎が宿る。刀身に炎がまとわりついてゆらりとする光景はまるで映画のワンシーンのような感じだが、感動している場合ではない。

 俺たちは剣を突き立てるようにして構えてそのままイビルスパイダーの落ちた穴へと飛び降りる。



「キシャーーー―!!!!」



 高い所から落下し威力が上がった炎をまとった剣がイビルスパイダーの甲殻を貫いて内部を焼いていく。

 痛みに苦しむイビルスパイダーが暴れて振り落とされそうになるところを何とかこらえる。



「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「くっ、さすがに内部を焼き払えばこいつも……」



 グロリアの剣の炎の威力が増していくが、それでもなおイビルスパイダーの手はとまらない。

 俺も必死にしがみつきながら剣を奥へと押し込む。どっちが先に力尽きるか、根競べがはじまるとおもったときだった。

 何やら粘液質な液体が大量におちてくるのだった。



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