第26話 お祭り
俺たちは食堂から場所をうつして、サハギンたちが暴れている川の近くにテーブルをおいてウィンディーネ様に食事をしてもらっていた。
『うまい、うまいのじゃ!! サハギンにこんな調理方法があったとは!! おぬしら天才か!!』
「おお、精霊様が俺の料理でこんなに喜んでくれるなんて……!! は、『精霊様も喜ぶ食堂』これをキャッチフレーズにすれば話題になって金持ちになれるかも!!」
おいしそうなにおいにつられたウィンディーネ様は店主の作った料理を食べて幸せそうに笑っている。
サシミだけでなく、サハギンのアクアパッツァはもちろんのこと、サハギンの煮つけなどが並べられている。
そして、ヌシがいるとどこからか話を聞きつけたらしきここの村人たちが遠巻きに見つめている。
今がチャンスかな……
「ウィンディーネ様気に入っていただき何よりです。せっかくのごちそうです。私たちも一緒にわけてはいただけないでしょうか?」
『むう……別に構わぬが……貴様らはサハギンはたべないじゃろ?』
ウィンディーネ様の表情にわずかだけど、寂しさが混じっていたのはきっと気のせいではないだろう。
食事は一人でするよりも誰かと一緒に取った方が楽しいし、おいしいからね。
「では、私もいただこうか。ウィンディーネ様、隣を失礼します」
「うふふ、外で食べるのもまた一興ですわー!!」
待ってましたとばかりにグロリアとマリンさんがも席に座って料理に口をつけて感嘆の声をあげる。
『なっおぬしら……まつのじゃ!! サハギンのサシミもいいが塩もあうのじゃぞ!!』
二人に驚いていたウィンディーネ様だが得意げに食べ方の指導まではじめた。そして、それを見ていた村の子供の一人がこっちによってくる。
ろくに食事をしていないからか頬がこけている。
「ねえ……サハギンって魔物だよね? 食べれるの?」
『ああ、おいしいのじゃ。お前もたべてみるかの?」
子供の言葉に気をよくしたのか、ウィンディーネ様がサシミのささったナイフを差し出すと少年はどうしようか迷っていたがおなかが可愛らしい音を立てて空腹を強調した。
「坊や、だめよ!! それは精霊様だから食べられるのであって……」
「いただきます!!」」
母親の制止も遅く子供はすでにサハギンのサシミを食して大きく目を見開いていた。
「うわぁーーー、ママすごいおいしいよ!!」
「え、でも……」
「大丈夫だよ。魔物は適切な調理方法をすればちゃんとおいしく食べられるんだ。現にあの二人もたべているでしょ?」
心配している母親においしそうにたべているグロリアとマリンさんを指さす。そんな二人を見て村人たちがざわざわとさわぎはじめる。
「でも、あの子はエルフだろ?」
「いやいや、あっちの冒険者の嬢ちゃんはしょっちゅうこの村に食べに来ていた子じゃないか。いけるんじゃないか?」
「俺はもう限界だ……魚がとれないからろくに飯をくってないんだ。あんなにうまそうなものを食えるなら死んでもいい!!」
そうして料理の乗ったテーブルに村人たちがおそるおそるたけど近づいていき……徐々に料理に口をつける人たちが増えてくる。
『ふん、別にたべてもいいがわらわの分がなくなるな……貴様らよ、材料をやるから、さっさとつくるのじゃ!!』
彼女が何かを詠唱すると川の水の一部が泳いでいたサハギンごと大きな球体と化してそのまま宙にういたと思うと、そのまま圧縮させておしつぶす。
グロいな!!
人間でやったら血肉にまみれたエグイ水球になるが、幸いサハギンは魔物であり、大量の『サハギンの魚肉』が降り注いでいくだけだった。
「うおおお、ヌシ様すげーーー!! 俺たちもがんばるぞーー!!」
「仕方ねえ、俺も手伝ってやるぜ。サハギンの調理方法を教えてくれ」
そうして店主を筆頭に村の料理人によるサハギン料理がふるまわれそれはまるでお祭りの用にもりあがるのだった。
『人の子よ、感謝しているぞ」
サハギン料理を食べながら騒いでいる村人たち少し遠くで見つめていると、ウィンディーネ様に声をかけられた。
また、口元にソースがついてる……
「いえいえ、その代わりをこの村を守ってくだされば……」
『もちろん構わぬ。じゃが二つの質問にこたえよ』
「別にかまいませんが……」
また、難題を頼まれるのだろうかと身構えていると、彼女が口にしたのは予想外の問いだった。
『なぜ村の住人たちにもサハギン料理をたべさせるように誘導したんじゃ? おぬしならば別の方法で食糧問題を解決できたんじゃないかのう?』
まあ、それはある。正直な話彼女に様々なサハギン料理を食べてもらってお祭りを開催するだけでもよかっただろう。
だけど、俺は『異世界ウィキ』で彼女の寂しさを知ったからそれを緩和させてあげたかった……とは転生者であることを隠しているため言うことはできないんだよな。ごまかすか。
「はは、買いかぶりすぎですよ。それに……おいしいものがあったらみんなで一緒に食べたくありませんか? 一人だけで食べるよりも誰かと共有した方がよいでしょう?」
そう、俺がはぐれ魔牛をたべてあんなにおいしいと思ったのはグロリアと一緒にたべたからだろう。
だから寂しそうな顔をしているウィンディーネ様もみんなと一緒に食べればしあわせになるんじゃないかと思ったのだ。
『ふん……おぬしは生意気じゃのう……そして、優しい……あやつに似ておるな』
彼女は一瞬嬉しそうに笑ったのは気のせいではないだろう。それだけで頑張った甲斐があるってものだ。
『まあいい。二つ目の質問じゃ。おぬし……チー牛じゃな?」
「え?」
全然誤魔化せないで正体がばれたんだけど……
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