第27話

『まあいい。二つ目の質問じゃ。おぬし……チー牛じゃな?』

「え?」



 ごまかしたはずがいきなり正体がばれてしまい思わず間の抜けた声をあげてしまった。



「いや、俺は……」

『嘘は好かんぞ、チー牛よ。魔物を喰らうというこの世界の常識にとらわれぬ発想。わらわの欲しいものを的確に見つけたのはおそらく「ちーとスキル」とやらの力じゃろう』



 すげえ、全部ばれている……グロリアが実態を持っている精霊はすごいといっていたが、本当みたいだ。

 俺はあたりを見回して誰もいないことを確認する。



「……はい、俺は異世界から来ました。そして、この世界を旅しています」

『やはりそうか……おぬしはかつて「荒ぶる水妃」と呼ばれ暴れる事しか知らなかったわらわを救ってくれたあいつと似ている気がしたんじゃ』



 彼女が言っているあいつとはおそらく、ウィキにあったチー牛のことだろう。俺と同じ転生者に救われているとは奇妙な縁を感じる。

 てか、通り名かっこいいな!!



『あいつは破壊することしか知らなかったわらわに、だれかといることの楽しさを教えてくれた。魔物を料理したときの味を教えてくれたんじゃ……あやつと一緒にいるときはこんな風に騒いだりもしたものじゃ。なつかしいのう……』



 かつてのチー牛との思い出をかみしめているのか、優しく村人たちを見つめているウィンディーネ様。



『おぬしはこの世界で何をしたいんじゃ? その力で何を成す?』

「俺はこの世界を好きに旅したいと思っています。こんな風に釣りをしたりとか、あとは魔牛のような美味しいご飯をたべたりとかエルフの里に行ったりとかいろいろとやりたいと思っています」



 あと……俺の力で困っているひとを救いたいって言うのはなんだか気恥ずかしくて言えなかった。

 彼女のような精霊からしたら俺の力はまだまだだろう。だけど、俺の異世界ウィキで悩んでいる人(精霊だけど)がいるのならばこんな風に救いたいって思ったんだ。



『旅か……いい目的じゃのう……おぬしはあやつと同じことを言うのじゃな……じゃが、あやつの場合は名声が邪魔をしおった……そこのエルフよ、わらわはこやつに害を加えるつもりはない。じゃから安心するがよい」

「なっ……気づかれていましたか……」

「うおおおお!?」



 一応周りは見回していたのに、全然に気づかなかった。気配を消していたのか、木の後ろから現れたグロリアに思わず情けない声をあげてしまった。



『新たなチー牛よ、ここはおぬしのいた世界と違って安全ではないぞ。じゃからわらわからの餞別をやろう。エルフよ、手を握るがよい』

「まさか……わかりました。お言葉に甘えます」



 グロリアとウィンディーネ様が手を握りあうと、まばゆい水色の光がグロリアを包む。そして、まるで神にでも祈るかのように目をつぶる。さらにその輝きが強くなる。

 全身を輝かせるグロリアは神秘的でとても美しかった。



「これは何を……」

『わらわの力を貸したんじゃ。これでこのエルフは水の精霊の力を出せる。おぬしらの旅に役立つじゃろう』

「実態を持つ精霊と契約できることはめったにないんだ。この力でシンジを守れるな」



 得意げに掌で水球をつくるグロリア。よくわからないけどパワーアップしたようだ。

 だけどさ……俺は思考えたことを聞く。



「よかったらウィンディーネ様も俺たちの旅に来ませんか? もしも目立つのが嫌って言うのなら身を隠す方法なら俺が探しますよ」



 昔の話をするときの彼女はとっても楽しそうだった。だから再び旅をしたいんじゃないかと思ったのだ。彼女の思い出の人のようには振る舞えないけれど、信用できると思ったのだ。

 だけど、ウィンディーネ様はその首を横に振る。



『その言葉はうれしい……じゃが、わらわにはあいつに託された願いがあるんじゃ。あのまま放置されていたらわしも知らんと思ったが、こやつらはわらわと一緒に食事も楽しんでくれたからの……また、守ってやろうと思うんじゃ』

「そうですか……わかりました」



 俺はかつてのチー牛と彼女がどんな約束をしたのかは知らない。だけど、彼女にとってはとっても大事なものなのだろう。

 ならば無理強いはできない。



『最後におぬしらに警告じゃ。世界樹の周辺で何かが起きておる……わらわがはじめてあったときに消耗していたのもそのせいなのじゃ」

「え、単におなかが減っていたわけじゃないんですか?」

『せ、せいれいがそんな情けない状態になるはずないじゃろ!!」



 顔を真っ赤にするウィンディーネ様だった。だけど、世界樹か……そういえばまだ『異世界ウィキ』で???の魔物がいたな……









 これにて魚釣り編終わりです。


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