第28話 森の奥にあるもの

 『朽ちた世界樹の森』の奥深くに二人の人影があった。



「にしもお前さんも災難じゃねえか、こんなところの調査なんてな」

「ふふ、この前の賭けで随分と損したからな。それに……ギルド直属の依頼だ。序列十一位であるこのリードハルトが行く価値があるというものだ」



 リードハルトと呼ばれた青年の偉そうな言葉に答えるのは三十歳後半の壮年の男だ。鉄の鎧に身を包み、頬には古傷のある強面である。



「なんだよ、序列って……それに十一位って……小さな辺境にすぎないうちはBランクはグロリアしかいないし、Cランクは俺とお前を含め十人だからCランク最下位じゃねえか……」

「ふふルードよ、貴公は序列五位である。いつか追い抜いて序列十位になってみせよう」

「しかたねえなぁ……お前の大好きな模擬戦に付き合ってやるよ」



 リードハルトの言葉にルードは苦笑しながらもどこか楽しそうだ。ベテラン冒険者である彼からすれば、ひよっこから面倒を見てきたリードハルトの成長はうれしいのである。

 そんなふうに話しながらもスライムやゴブリンを屠りながら森の奥地へ進む。



「しかし、この森はしょっちゅう来ていたが奥地へ行くのは初めてだな、ルードは経験があるのか?」

「ああ、それな……ヌシを見つけたのが昔の俺たちのパーティーなんだよ……」

「それは失礼した……」



 ヌシ……イビルスパイダーの凶暴さをリードはいまだに覚えている。当時新人だった彼を連れた仲間たちはみんな死んでしまった。

 面倒見がよく優しい人たちだった。だから、彼を逃がすために犠牲になってしまったのだ。

 そして、この辺境の地でBランクの魔物がいるというのは大騒ぎになった結果、奥には入るなという暗黙ルールができたのだ。



「気を遣うんじゃねえよ。んなことよりせっかくグロリアたちがヌシを倒してくれたんだ。これからは奥の探索で忙しくなるぞ」

「ああ、なにがおきるかわからない未知の領域である。これこそ、冒険者の本懐といえよう!!」



 冒険者たちの中には探求心が強い人間も多い。これからはしばらくは奥地の探索がメインになるだろう。

 だからこそ未知の魔物や、危険なものがないかを経験豊富な二人が調べているのだ。『異世界ウィキ』のようなチートスキルは普通の人間は持っていないのだから……



「む……これは……?」

「おいおい、なんでこいつがここにもいるんだよ……」



 そこにいるのは額に大きな古傷のあるイビルスパイダーだった。しかも、植物の枝に体全体を絡みつかれており、かすかな呼吸をしているだけで瀕死だとわかる。



「まさかグロリアたちが虚偽の申告をしたというのか、いや、だがシンジとやらあの瞳は嘘をついているようではなかった……」

「おそらく番がいたんだろうよ。イビルスパイダーのドロップアイテム何てそうそう手に入らねえ、そしてこっちが本当のヌシだ。この傷には覚えがあるからな……」

「まさか……」



 シンジたちが戦ったイビルスパイダーがどれだけ強敵だったかは二人ともわからない。だがヌシとよばれていたこいつよりも強いことはないだろう。

 そして、この近くにはヌシを捕食している化け物がいるということになる。



「リードハルト一旦引くぞ、これは想定外だ」

「ああ、そうだな……」



 ルードは踵をかえすときにヌシの傷を見て思わず眉を顰め過去を思い出す。いや、思い出してしまった。

 それは未知の敵が潜んでいる状況では致命的だった。



「ルード」

「くそがぁぁ!!」



 暗闇の奥底からいきなり飛んできた触手のような枯れ木の枝がルードの足にからみつく。

 リードハルトの方は枝をとっさに剣で切り払っており、あわててこちらにやってくるのが目に入る。



「今たすけ……」

「うるせえ、いいからいけ!!」

「だが、それでは貴公が……」

「二人ともつかまってどうすんだよ!! はは、喜べってのこれでお前が序列十位とやらだぞ」

「く……すまない」



 悲痛に満ちた表情を浮かべこちらに背を向けるリードハルトを見送り、すさまじ勢いで引きづられながらもルードは思う。


 ああ、リーダーたちもこんな気持ちだったのかなぁ……と


 そして、彼の意識は消えていった。

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