第25話 ご馳走を作ろう

「というわけで……川のヌシであるウィンディーネ様の機嫌をよくするためにもみんなにも協力してもらいたいんですが大丈夫でしょうか?」



 村に戻った俺たちは食堂の店主と、ケインさん、マリンさんを集めてウィンディーネに話した内容について説明していた。



「お祭りか……そういえば、爺さんが言ってたけど、ここが観光地になる前はヌシへの感謝のお祭りとかやってたらしいなぁ……なんでもその年で採れた一番質のいいサハギンを調理して川にお供えしているといつの間にかなくなっていたらしい。観光業が忙しくなってからはそれもなくなったらしいが……」

「おそらく、それが原因で拗ねてしまったんだろうな……精霊は決して便利な道具ではないんだ。感謝の気持ちを忘れればその守護もなくなって当然だ」

「おお、さすがはエルフのねーちゃんだ。詳しいな」

「ん……ああ……」



 店主に褒められてとても気まずそうにそうに顔をそむけるグロリア。さっきウィンディーネ様にぼろくそに言われていたからなぁ……

 本当は聞きだしたのは俺だけど彼女の名誉のためにも黙っておこう。



「もう、原因を突き止めるとはさすが期待のルーキーだな。それで、俺とマリンはなにをすればいいんだ?」

「私たちの戦うことや採取は得意ですけど、料理などはからきしでしてよ!!」



 どや顔でいうことかな? とつっこみたくなるが仮にも先輩だしね。それよりもやってもらうことがある。



「ケインさんとマリンさんはサハギンを倒して『サハギンの魚肉』を拾ってください」

「別に構わないけど水の中のサハギンは二人じゃちょっときついぜ」

「あら、そんなの私の雷魔法で一発ですわ」

「どうやって、『魚肉』を拾うんだよ……これだから脳筋魔法使いは……」

「誰が脳筋ですの!! 高貴なる私に失礼ですわよ!!」

「別に水中のサハギンじゃなくても大丈夫だからね……」



 口喧嘩をはじめた二人を放っておいて、食堂の店主とグロリアの方に話をすすめることにする。



「店主さんはケインさんたちが持ってくる『サハギンの魚肉』の調理をお願いできますか?」

「もちろん、協力はするが『サハギンの魚肉』なんて料理したことないぞ……」

「あれ? 食材に触れると調理方法って浮かんできませんか?」

「ああ、食材ならな……だけど、魔物の肉は食材ではないだろう?」



 ああ、そうか……グロリアがそうだったようにこの世界の人間にとっては魔物の肉はあくまでドロップアイテムにすぎないんだ。だから料理スキルをもっていてもわからないのだ。

 そして、俺がわかるのは『異世界ウィキ』と料理スキルのおかげなのかもしれない。『異世界ウィキ』が調理方法の可能性を示し、料理スキルが補填する。この二つが相乗効果を発揮したのだろう。



「それに関しては大丈夫です。俺の方で調理方法はわかります。グロリアもサハギン狩りと、そうだね、エルフと精霊は近い存在らしいし味見をお願いしてもいいかな?」

「ああ、任せてくれ!! いや、別にサハギンが食べたいというわけではないからな!!」


 グロリアが一瞬嬉しそうな顔をしたのを俺は見逃さなかった。








 そうして、半日がたちグロリアやケインさんたちがドロップしてきたサハギンの魚肉を調理していた。



「なるほど、じゃあ、こういうのはどうだ?」

「流石です、無茶苦茶いい匂いがしますね」



 店主さんは言動こそ多少あれなところはあるものの料理の腕は確かなようで、俺がこういう料理を作りたいというと、的確なアドバイスをして、熟練の手つきで包丁さばきを見してくれた。



「今回のは食材の特徴を残すのに凝ってみたんだ。どうだい。エルフの嬢ちゃん」

「すごい!! サシミの時にあったサハギン特有の臭みがなくなっているぞ!! それなのにサハギン特有の歯ごたえは失われていない!!」



 歓喜の声を上げながら食レポしているのはサハギンのアクアパッツァを味見しているグロリアである。


「ふふ、すばらしい。トマトソースがサハギンの臭みをなくし、白ワインが独特の甘みを引き立てている。そのうえ、ほろほろと口の中でとろける魚肉がなんとも美味しい……」



 彼女はすでに何種類ものサハギン料理をくちにしておりすっかり評論家のようになっている。

 そして、変化はそれだけではなかった。



「本当に美味しいですわ!! 店主、これをレギュラーメニューにしましょう!!」

「お前……それ、サハギンだぞ……さっきまで戦ってたんだぞ」

「うるさいですわね、あなたもたべてみなさいな!!」

「おいやめ……うまいな……」



 グロリアがあまりに美味しそうに食べるものだから、元々海鮮にうえていたマリンさんが興味をもって食べ始めて、今まさにケインさんに布教しているところだった。



「最初は魔物を食うのか……とうたがっていたが、サハギン料理いけるな……」

「ですね……案外新しい名物になるかもしれません」

「ああ、どうあれ店に活気が戻るのはうれしいよ」



 すこし騒がしくなった店内に店主が嬉しそうな顔をしていた時だった。ばたんと扉が開いて娘さんがやってくる。



「お父さん大変だよ!! 変わったお客さんがやってきて……」

「おい、どうしたんだ。今日はお店は休みって言ってあるだろ」



 店主が娘さんを注意した時だった。彼女の背後から一風変わった……体が水の様に透き通った幼女がやってきてこういった。



『わらわに内緒で美味しそうなものを作ってずるいぞ。たべさせんか!!』



 そう、やってきたのはウィンディーネ様だったのだ。

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