第36話
駆ける、駆ける。グロリアはシンジに借りた剣を握りしめて、『世界樹』の枝を切り刻みながら全速力で走っていた。
後ろではシンジが戦っている音が聞こえてくるが、長くはもたないだろう。
「ばか……お前が嘘をついているくらいわかるんだぞ」
シンジは生きるためならばその能力を出し惜しみするタイプではなく自分には心を許してくれていると思う。そんな彼は最初に『世界樹』が枝を伸ばしていた時に驚いていた。
つまりは行動パターンがわかるというのは嘘なのだろう。
「まったく、なんでそんなにかっこつけるんだ」
枝が頬をかすめ血がたれるがグロリアの速度は一向に落ちない。もちろん彼女とてなぜ彼がなぜあんなうそをついたかなんてわかっている。
今もゴブリンたちと戦っている冒険者や、宿で待つリリーたち、そして、彼女たちを守ろうとしている自分の為だろう。
もしも、誰かが死んだりすれば彼は自分の責任だと思うだろう。
「ならば、私はお前が気負うことなく旅を続けられるように頑張るだけだ!! ウィンディーネの加護よ!!」
襲ってくる枝の密度が上がったのを確認したグロリアは、ウィンディーネの力を借りて、足元に水を発生させると同時に爆破させて、一気に加速する。
魔力の負担が大きく、ごそりと精神力が削られていく気がしたがきにしているよゆうはなかった。
「うおおおおおお」
枝がグロリアを貫こうと襲ってきて、何本かすめるが体をよじりなんとか致命傷を避ける。そして、その刃が『世界樹』が届きそのまま貫くと、樹皮の間から生命の水があふれてくる。
「この水を……私にものにする!!」
あふれでる生命の水に触れて支配下に置こうとしたときだった。すさまじい抵抗と共に逆にウィンディーネの力が奪われそうになってしまう。
「腐っても精霊というわけか……だが……私とてエルフだ。負けるわけにはいかんのだ!!」
グロリアは必死に精神を振り絞って相手を支配しようとするのだった。
☆☆
俺が必死に枝と戦っている時だった。グロリアから借りた剣はもはや無事な部分がなくなるくらいぼろぼろになっており、こちらの体も傷だらけになっていた。絶対絶命かと思った時だった。枝たちの動きがいきなり鈍り始めたのだ。
『世界樹』の方を見るとグロリアが必死に何かをしているのが見える。彼女のおかげで鈍くなったのだろう。
ならば俺にも何かできる事があるはずである。
「こんなことなら魔法とか何かを覚えておけばよかった……」
後悔してももう遅いが、迷っている時間はない。俺も『世界樹』のそばへと近づくと、それどころではないのか枝の抵抗はおとなしくなっている。
全力をもってグロリアの剣をふるい表面の樹皮に傷をつけるも、刃が砕けちる。彼女にあやまりながら、俺はその切断部分を前に火打石をつける。
グロリアが魔法で火をおこせるから使わなかったが、冒険者となって一応買っておいた初心者セットである。
キーンキーンと音が鳴り、火花が散ると一瞬だが、『世界樹』がうごめきこちらに向けて枝をのばしてくる。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
「シンジ!? だが、いまだ!!」
情けなく転がりながら枝の攻撃をさける。
もちろん最初っから火がつく事なんて期待してない。だけど、『世界樹』には意思があり、本能的に火を恐れて精神を乱してしまったのだ。
そして、その隙は戦っている最中では致命的なものになる。
「これでどうだーーー!!」
グロリアが叫ぶ声を上げると同時に世界樹の内部から大量の水が暴発するようにして破裂した。
さすがに倒したよね……
俺はようやく一息つくのだった。
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