第35話 vs世界樹
異世界ウィキの地図を使って操られているゴブリンやスライムたちから身を隠しながら奥へと進んでいく。
「本当に便利だな、そのスキル。まさか、一度も魔物と会うことすらないとは……」
「うん、だけど、ボスまでは避けられないからね……」
当初は旅をするだけだと思っていたからよかったがこういうボス戦の時だけは自分の非力さが悔しい。
俺が思わず手を握りしめているとグロリアが優しく微笑む。
「パーティーは役割分担だ。前線で戦うのはわたしの役目だ。気にする必要はない」
「でも……」
「それでも不満だというのなら今度私がたっぷり稽古をつけてやろう。Bランクの冒険者の教えだ。きついかもしれないが弱音を吐くなよ」
「ああ、頼む」
グロリアの軽口で少し気が楽になるのを感じる。そして、俺は意を決して『朽ちた世界樹の森』の最後の???の魔物である世界樹を見る。
それは強大な樹だった。口があるでもなく目があるでもない。ただの樹。それがただづんでいるだけなのだ。
じっくりみようとスキルを使いながら、『世界樹』をのぞいた時だった。
「うお!?」
ぞくりと首筋が寒くなり、圧倒的なプレッシャーに襲われて思わず吐き気を催す。おそらく、俺という存在を意識した……『世界樹』にとってはそれだけだったのだろう。それでこのざまだ。これがAランクの魔物なのか……
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『世界樹』
かつてはドライヤードという名の精霊だったが、魔王の魔力を浴びたせいで暴走してしまった。
その体は植物と非常に似ているが、枝と根で捕らえたものの魔力と生命力を奪い、操ることができる。火には弱いが、森全体が焼け野原になるので注意。
弱点 火
確定ドロップアイテム
堕ちたドライヤードの魂
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あれ……火が弱点だけど、ここでは火を使えないって致命的では? 冷や汗を垂らしている間にも『世界樹』の無数の枝が伸びてこちらへと襲い掛かって来る。
「数が多いな!!」
「けど、この距離ならなんとか……」
二人で力を合わせて、枝たちを受け流すと、いくつかは森の木々に突き刺さり、そのままないかを吸いつくそうとうごめく。
「まさか栄養をうばっているのか!!」
試しに枝を切り裂くと透明な液体をまき散らしながらちぎれる。なんなのだろうと、調べてみると生命力のようだ。
魔物や人だけじゃない、植物からも奪えるのか……。
「急がないとまずいかも……こいつ植物からも力を奪えるみたいだ」
「シンジ……この枝は思った以上に強力なようだな……」
グロリアの持つ剣を見るとさきほど枝をいなしただけだというのに刃がぼろぼろになっていた。
彼女の剣もBランクの冒険者がつかうものでありそれなりに業物である。俺の剣が無事なのはドワーフの技術が使われた魔剣だったからこそ無事だったに過ぎないのだ。
だけど、今は俺が持っていても、役にたたないんだよね……
「ねえ、グロリアなら枝を切り抜けてあいつの元にいくことにはできるかな……」
「魔法で身体能力をあげればできるとは思うが……まさか……」
「じゃあ、武器を交換しよう。多分あの木の中には生命力の水がたくさんあるはず。それを操ればダメージを与えられるはずだ」
俺の言いたいことがわかったグロリアの顔に迷いが浮かぶ。
「大丈夫だよ、俺の異世界ウィキには相手の行動パターンものっているんだ。だから攻撃が当たったりはしない」
「わかった……だが、無茶はするなよ」
「無茶はするよ、突っ込むのがグロリアの仕事だけど、俺にも少しでも敵の注意を引き付ける仕事があるからね……」
「わかった……生きて帰るぞ」
にやりと笑ってグロリアと剣を交換した俺はそのまま『世界樹』の前で剣をふるう。
もちろんだけど、異世界ウィキに相手の行動パターンを知る方法はない。いや、あるかもしれないけど、今の俺ではレベルが足りなくて見えない。
だけど、そのくらい言っておかないと彼女が俺をおいては行ってくれなそうだったから嘘をつかせてもらった。
グロリアの方に何本もの枝が行き、おまけ程度に俺の方にも枝たちがおそってくる。すこしでも彼女の助けになればいいけれど……
俺は震える体をおさえつけながらせまってくる枝と対峙するのだった。
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