第5話 冒険者ギルドとグロリア

 指定された建物には『冒険者ギルド』という看板が掲げられていた。窓からちらっと中をのぞくと、冒険者らしきガラの悪そうな人間が酒をかっくらっているのが見える。



「うおおおお、漫画やアニメで見た冒険者ギルドだぁぁぁぁ!!」

「なんだあいつ……? いきなり叫び出したぞ」

「ねー、ママー。あの人なんであんなところで騒いでるの?」

「しっ!! みちゃいけません!!」



 ついついうれしさのあまり声が出てしまったらしい。だけど、仕方ないだろう。異世界といえば冒険者ギルドなのである。



「何を騒いでいるんだ? 冒険者ギルドなんてそんなに物珍しいものでもないだろう?」



 扉が開いたかと思ったら出てきたのはグロリアさんだ。時間通りの来たと思ったのだがどうやら待たせてしまったようだ。それにしても……最初に会った時とは全然雰囲気が違くて驚いた。


 長い髪は編みこまれており、何かの枝で作られたバレッタで止められており、服装はレースのついたワンピースが先ほどの女騎士といった服装とのギャップもあいまってなんとも美しい。

 やっばいな、これ!! 見目美しいエルフだからこそ皮鎧とは違った魅力がある。

 


「ああ、これは……気にするな、シンジと会うと言ったらこんな格好させられただけで……」

「すごい……綺麗だ……」

「なっ!? くださらないことをいっていないでさっさといくぞ」



 ついつい本音がこぼれていたようだ。からかわれたと思ったのか、グロリアさんが扉を開けて入ってしまったのであわててついていきながらさっと異世界ウィキでチェックする。


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【冒険者ギルド】


 冒険者たちは集う集会。冒険者のランクは上から『チー牛、A、B、C、D、E』となっている。

 トネリコの街では『朽ちた世界樹の森』が近いこともあり、薬草採取や魔牛の捕獲、商人の護衛などの依頼が多く、魔物もゴブリンやスライムばかりためそこまで強い冒険者はあまりいない。初心者向けだといえるだろう。

 ただし、Cランク以上の冒険者がいける個室には注意すること。一種の治外法権になっており、冒険者同士の秘密の取引、大人の男女の逢瀬はもちろんのこと、暗殺なども行われることがある。


〇受付のレイズちゃんがむっちゃ可愛い。

●初心者だったら最初にレイズちゃんに聞くといろいろと親切に説明してくれるのでおすすめ。

〇とりあえず最初は薬草採取がベスト。『朽ちた世界樹の森』の奥には絶対にいくな……

●もう、残業したくないよう……

〇俺がCランク? テメェわかってねぇだろ! 俺は! スペシャルで!2000回で!模擬戦なんだよォ!


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 人の行き来が多いからかなりコメントが多い。そして、ざっと目を通した限り初心者には優しそうだ。

 こうして色々な情報が手に入るのはありがたい。落ち着いたら冒険者になるのもいいかもしれないな。



「それでよーー、ゴブリンどもが奇襲をかけてきやがったからぼこぼこにしてやったんだよ」

「あー、俺もスキルとかさっさとおぼえてえなぁ……冒険者一年やっててまだ剣術だけだぜ……」

「くっそ、あの商店ぼったくってないか?」


 ガラの悪い人間や、ガタイのいい人間がそんなことを話しているのをついつい聞き耳を立ててしまう。

 いいね、ゴブリンとかスキルとかが日常会話ででてくるというだけでむっちゃ楽しくなる。それに当たり前のように剣や鎧などを皆がみにつけているというのにも素敵だ。

 

 キラキラとしている目で冒険者たちを見つめていると、スキンヘッドのガラのあるイ男と目があった。そして、そいつはいやらしい笑みを浮かべると……



「おいおい、何見てんだぁ? 俺様にガンつけたんだ見物料をもらおうか」

「おおお!! チンピラ冒険者だぁぁぁぁ!! まじでこんなのがいるんだ!! やっぱりファンタジーすごいよ!!」



 まさしくテンプレートといった感じでからんできたスキンヘッドの冒険者に俺は思わず感動してしまった。



「なんだ、てめえ、喧嘩うってんのか?」



 しばらく固まっていたスキン君だったがなぜか頭に青筋をたてて俺をにらみつけてくる。

 やばい……つい、テンションあがりすぎて煽るようなことをいってしまった。



「ごめん、君の言動があまりにもかませっぽかったから……」

「お前喧嘩うってんのか!?」

「私の友人に何か用かな?」



 威勢の良いスキンヘッド君だったが、無表情なグロリアを見ると即座に逃げ出した。



「ひぇ……可愛らしい恰好をしていたからきづかなかったがお前は剣姫グロリア!!  すいませんでしたぁぁぁ」

「あのグロリアが人間をかばっただと……?」

「というかグロリアって友達がいたのか……」



 もしかして、彼女ってかなり強いのか……? でも、この人初対面の時に毒草を食べて死にそうになってたしなぁ……



「何か言いたそうだな……?」

「いえ、なんでもないです」



 俺ってば結構おもったことが表情にでるのかな?

 じとーーっとした目で俺を睨んだ後にグロリアさんは受付嬢に声をかける。



「ならいいが……すまない、個室を頼む。人払いをしておいてくれ」

「え……あの人間嫌いのグロリアさんが誰かと一緒に個室を……? しかも、お相手は男性だなんて……?」

「いいから。あと、料理も適当に持ってきてくれ」



 受付嬢から鍵を受け取ったグロリアさんはなぜか顔を真っ赤にすると、やたらと急いで俺の腕をつかんで個室にはいる。

 冷たく細い指の感触がなんとも心地よい。



 個室には高そうな大理石製のテーブルとイス、そしてなぜかベッドがあるちょっと豪華な部屋だった。

 本来は商談や打ち合わせで使うのだろう。



「シンジありがとう。君のおかげで私の友人の命は助かった。それで……そのお礼をしたいと思う」

「いや、別にそんな改まって言わなくても大丈夫だよ。でお礼ならちょっと耳を触らしてもらったらうれしいなーくらいだし……」

「……っ」



 耳を触れると言ったとたんになぜかグロリアの顔が再び赤くなる。もしかしてだけど、特別な意味があるんだろうか?

 ちょっと嫌な予感がした俺がウィキで検索すると先ほどグロリアさんに触れたからか、用語集にエルフの項目がふえていた。


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【エルフ】


 大抵は森の中で暮らしており、生真面目かつプライドや選民意識が強い傾向にあるためめったに外には出てこない。主食は草食だが、肉が食べれないわけではない。

 また、種族として妖精に近いため魔力は高い。まれに外に出る好奇心旺盛なエルフがおり、人間と仲良くなることも。

 ただし異種族であるため文化の違いは理解すること。例えば長い耳はエルフにとってとても大切なものであり、家族や親しいものにしか触らせることはない。

 とある人間が酒に酔った勢いで耳を触って殺されたという逸話はあまりに有名である。


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「……」


 やばい、やばい、やらかした。俺は何回耳に触りたいっていったんだ? そりゃあ顔を赤くするわ。絶対怒っているじゃん。

 そういえばウィキになにか書いてあったな……


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ただし、Cランク以上の冒険者がいける個室には注意すること。一種の治外法権になっており、冒険者同士の秘密の取引、大人の男女の逢瀬はもちろんのこと、『暗殺など』も行われることがある。

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 さぁーーっと血の気が引いていくのがわかる。この個室はいわば治外法権なのであろう。

 グロリアは俺を殺すつもりなのではないだろうか? ご飯をおごってくれるのは薬草をめぐんでくれたせめてもの冥土の土産なのかもしれない。



「それでははじめるとするとか……」



 グロリアがそうつぶやいて耳にかかっていた髪をかきあげると同時に俺は即座に行動に移す。上位の冒険者である彼女からすれば俺を瞬殺することなんて楽勝だろう。

 ならば先手必勝だ。



「実は俺は異世界から来た人間で、エルフにとって耳がそんなに大事なものだとはしらなかったんですぅぅぅ」

「なっ……」


 そう、ジャパニーズ土下座である。ファンタジー世界で通じるかどうかわからないが、敵意がないことはわかってくれるはずだ。というか異世界とかいっちゃったけど頭のおかしい人間だとおもわれたかな……

 そう、おそるおそる顔をみあげると、なぜか彼女は俺を驚きの目でみつめている。そして、一言……



「シンジはチー牛だったのか?」


 なんで俺はばかにされてるんだ?



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