第4話 ボッタクリン商会と異世界ウィキ
「ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です」
「ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です」
「そう、だますのはお客だけじゃないわ。自分もだますのよ」
従業員たちが店訓を復唱しているのを聞いて一人の少女が満足そうに頷いていた。
この少女はボッタクリン商会の最年少支部長であるイザベラ=ボッタクリンである。彼女はボッタクリン商会の商会長の娘であるが、決してコネだけでこの地位になったわけではない。
この店舗の支部長になってから常に最高の売り上げを上げている才女なのだ。といっても真っ当な手段ではない。
「知恵のないものからは安く買いたたき、金しかないものには高値で売る。これはまっとうな商売よ!!」
「「「はい!!」」」
イザベラの言葉にまるでゴーレムのように同じ返事をする従業員たち。そんな中一人だけ、異を唱える者がいた。
「で、ですが……このようなやり方がばれれば、うちの商会の評判が一気に落ちてしまいますよ。異常に利益をあげているうちの店に王都から視察が入るという噂もあるのですよ!!」
「だからちゃんと私がだます……いえ、特別な商談をする相手は選んでいるでしょう? この鑑定スキルを使ってね」
バカにするような笑みを浮かべたイザベラの右目がまばゆい光を放つ。これが彼女のスキル『鑑定眼』である。みたものの効果とアイテム名を見極めることができるユニークスキルである。人間の情報こそ鑑定できないものの身に着けているものを鑑定することで、その人間が金持ちか否かくらいの判断はできる。
彼女はこのスキルを悪用し、だませそうな人間から、高価な薬草などのアイテムを安い値段で買い取り、逆に安い商品を高値で売る。といいういわゆるぼったくり商法で儲けているのだ。
「ですが……」
「あなた……最近子供が産まれたらしいわね。もしも、この商会の売り上げがおちて給料が下がったら大変じゃないかしら? それに……私は反抗的な従業員をやとうほど器は大きくないのよね」
「う……も、もうしわけありません……ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です!!」
「そう、あなたたちは余計なことは何も考えずに私に従っておけばいいのよ」
店員が一瞬逡巡したあとに娘と妻の顔が浮かんだのか商訓を叫ぶのを見てイザベラはにやりと笑う。
まったく大した根性もないくせに私の天才的な商売を邪魔すんじゃないわよ。私はこんなところでは終わらないわ。
いずれ父を超えて、ボッタクリン商会を支配して見せる。
野心に満ちた目で王都の方を睨みつけていると、扉が開いて一人の少年が入ってきた。外国の人間なのか黒髪の特に特徴のない人間だ。
身に着けているものは……布の服に、そこらへんに売っているブロンズナイフか……初心者冒険者が薬草かドロップアイテムをうりにきたってところかしら。
すぐに興味をうしなったイザベラだったが、次の言葉によってその態度をいっぺんさせることになる。
「あの……エリクシルを売りに来たのですが」
ゴブリンが宝剣をしょってきたと……イザベラは満面の笑みを浮かべるのだった。
「それで……このエリクシルを買い取っていただきたいのですが……」
「はい……エリクシルですか。うーん、こちらはエリクシルモドキではないでしょうか? ご存じかはわかりませんが、エリクシルにそっくりの毒草もあるんです」
部下が人好きする笑みを浮かべながら特別なお客へのテンプレ対応をするのを見て、イザベラは満足そうにうなづく。
エリクシルとエリクシルモドキは見慣れた人間でも迷う。強く言えば初心者ならば騙せるだろうそう思っていたのが、少年は予想外の行動に出た。
「いえ、エリクシルモドキはこっちですね。これはエリクシルで間違いありませんよ」
「え? 両方とも同じ薬草じゃ……」
「うーん、じゃあ、よその店にいこうかな……」
カバンからエリクシルモドキをだして諭すように部下に説明していた少年がぼそりと呟くのをイザベラは聞き逃さなかった。部下はわかっていないようだが、鑑定スキルを持っているイザベラには違いがわかった。
まずい……相手は私と同じ鑑定スキル持ちか!!
商会は信用が大事だ。多少むちゃくちゃをやってもイザベラの店が許されているのは数少ない鑑定スキルを持っている自分がいるからだ。
このまま彼が出て行って、うちの店でエリクシルをエリクシルモドキだと判断したとばれたら一気に我が商会の信頼はがた落ちとなるだろう。
カツンカツン
と足で合図をする。これはエリクシルで買い取れと言う合図である。
「……大変申し訳ありません。こちらエリクシルで間違いのないようです。さっそく買い取らせていただきますね」
「ああ、よかったー。ちゃんと買い取ってもらえるんですね」
少年が再び席に座ったのを見てイザベラは安堵する。そして、彼を脳内にあるまっとうに商売すべき客リストにいれることを決めた時だった。
「それでは、三十万ゴールドでいかがでしょうか?」
「あれ、相場って五十万ゴールドじゃ……?」
「んんっ!!」
部下の言葉に思わずイザベラは思わず悲鳴をあげた。三十万は初見の何も知らない客用のぼったくり価格である。
目の前の少年はあきらかに市場での相場がわかっているのだ。鑑定スキルを持っている相手なのだからちゃんと適正価格をいうくらいは自分で考えろといいたいが……
う……じぶんで物事を考える人間はやめていったわね……
そういう人間はイザベラの方針にたえれず何人もがさっており、今は目の前の部下の様に無能だが言うことを聞く人間しか残っていなかったのだ。
「それに確か……ボッタクリン商会の相場でも四十八万って書いてあるんだけどなぁ……」
少年が何やら空中を睨みながらぼそりと言っているのを聞いてイザベラは血の気が引いた。
だって、普通ならばありえないのだ。市場の相場を知っているだけでなくボッタクリン商会の相場を知っているなんて……ありえるとしたら同じボッタクリン商会の人間か、各商会の相場を把握して適正に商売をしているか調べに来た国の人間だろう。
そして、彼の顔にイザベラは見覚えはなかった。答えは一つである。
「失礼しました!! この者はまだ新人なんです!! 私は支店長のイザベラと申します。代わりにあなたのお相手をさせていただきます」
「え……イザベラ様……?」
困惑している部下を押しのけてあわてて少年の向かいに座るイザベラ。目の前の少年が驚いているが気にしている余裕はなかった。
もしも、調査に来た国の人間にぼったくりがばれれば、自分は終わるのだ。すでにエリクシルモドキだと言って買おうとしたこと、安値で買おうとしたことと二回も失態をおかしている。
このまま彼を返してボッタクリン商会が問題ありと判断され、免許を取り消させられる可能性もある。
「お客様はこの街では見ない顔ですがどちらの方からやってらっしゃったのですか?」
「え? ああ、あっちのほうからですねー」
彼が指さしたのは『朽ちた世界樹の森』であり、その先には王都がある。やはり王都からの調査員ということで間違いはないだろう。だが、あえて正体を名言しないということはまだ交渉の余地があるということだ。
だったら……
「今日は暑いですねぇ♡……よかったらですが、これからこの街を案内いたしますよぉ♡ おすすめのお店もいくつかあるんです。よかったらご一緒しませんかぁ♡」
胸元のボタンをさっと外して、谷間を強調するように腕でおしあげながら彼に微笑む。正直はずかしいし、もちろんそんな経験もない。だが、手段は選んではいられなかった。
イザベラは自分の容姿には自信がある。多少の効果は望めるはずだ。そう思ったのだが……
「すいません、この後は友人と約束がありますので……」
「あ、そうなんですね……」
決死の誘惑も交わされたイザベラは必死に頭を回転させて最後の手段に出る。
「それではエリクシールは一枚七十万ゴールドで買わせていただきますね」
「え? そんなに高値で……」
「はい、うちのものがいろいろと迷惑をかけてしまったおわびですぅ♡ それにこの街は初めてなんでしょう? 私からの歓迎のお気持ちも込めているんですよ♡」
困惑気味の少年にイザベラは必死にネコナデ声で答える。相場の1.5倍だ。正直元値が高価なため、かなり損失は大きいしお店にいうわけにもいかないで彼女が自腹を切るしかないだろう。
だが背に腹はかえられなかった。多めに払うから今回の件は水に流してくれ……そう訴えているのである。
神にも祈る気持ちで少年を見つめていると……
「本当ですか、ありがとうございます!!」
よっしゃーーーー、これであんたも共犯だからね!! 多めにもらったんだから告げ口をしたらあんたも巻き込むわよ!! と内心ガッツポーズをするイザベラ。だがそれも一瞬だった。
「では、あと十枚あるのでこれもお願いしますか?」
「え……? ああ、はい……」
やられた……とイザベラは力なくうなづくしかできなかった。
★★
「いやぁー良い店だったな。イザベラさんは感じよかったし、サービスしてくれたから無茶苦茶儲かったよ」
俺は大量のゴールドをもってほくほくだった。
「それにしてもやっぱりウィキのコメント欄は過信しないほうがいいな。いくつかのコメントを見て情報を精査しないと……」
ボッタクリン商会
〇素人はいかないほうがいい。偽物扱いされて安値で買いたたかれる可能性がある。
〇イザベラって女がまじで貧乏人には冷たい。
〇ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です
〇うう……赤字よ、赤字……これからはまっとうにやれって神の思し召しなのかしら……
もってきたエリクシルをエリクシルモドキだといわれたときにコメント欄を確認して良い評価と悪い評価で二分化していたので、店を変えようかと思ったが結果的にはこの店にしてラッキーだった。
「そろそろ時間か……ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です♪ ボッタクリン商会は清く正しい最高の店です♪」
なんとなく大量にあるコメントを口ずさみながら、グロリアとの待ち合わせの場所へと向かうのだった。
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