第6話 仲間

 異世界から転生して森を探索していたところにグロリアと出会ったと伝えると意外にも彼女が驚くことはなかった。


「なるほど……貴公らチー牛は特別なスキルを持っているという……エリクシルを見つけたのはスキルの力なのだな? それならば納得できる」

「ああ、俺の異世界ウィキは人やものを調べるだけでなく……」

「それ以上は言わなくていい。スキルというのはその人間の命綱だ。軽率に他人には教えない方がいいぞ」



 べらべらと語ろうとする俺をグロリアさんが制止する。確かに某聖杯戦争などでも真名がばれたらまずいようにスキルも隠した方がいいだろう。

 付き合いは短いが彼女は少し物言いがぶっきらぼうだが心優しいエルフだというのがわかる。今だって俺にアドバイスしてくれているし、そもそも彼女がピンチになったのも友人を助けるためだったのだ。



「なんだ、こちらを見て笑って……」

「いや、グロリアさんは良いエルフだなぁって思って」

「な……別に私は私が正しいと思っていることをしているだけだ。褒められるようなことはしていない」



 こちらの言葉が照れくさいのかグロリアさんがほほをかく。長い耳がかわいらしくぴくぴくと動いているがよろこんでくれているのだろうか?



「シンジも生きていくうえでスキルの精度が気になるだろう。おそらく鑑定スキルの亜種なのだとおもうが、人を調べられるならば私のことを見てみるか?」

「ありがとう。確かに俺もどれくらい正しく見れるかはきになっていたんだ」

「ふふ、それくらいならばお安い御用だ。答え合わせをしてみよう」



 異世界ウィキを開くと人物名がいくつかでてきた。この世界でかかわった人の項目だろう。

 今のところは……イザベラ=ボッタクリン、カマセ―=ツルッパゲン、グロリア=ユグドラシルの三人か……この世界で暮らしていろいろな人とかかわっていけばどんどん増えていくのだろうか? 非常に楽しみである。


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■キャラクター/グロリア=ユグドラシル


Bランク冒険者のエルフ。とある英雄譚にあこがれてエルフの森を出て冒険者になった。一見冷たいように見えるが、心を開いた人間には甘い。要はクーデレ。

 実は大の可愛いもの好きで、常に自作の猫のぬいぐるみを持っているが自分のキャラじゃないとかくしている。


ユニークスキル

『?????』


コモンスキル


 剣術レベル6

 精霊魔法レベル7

 気配遮断

 裁縫技術レベル5

 ゴブリンスレイヤー

 魔法剣LV3

 毒耐性

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 うおおおお、ちょっとしたプロフィールだけじゃなくてスキルもわかるのか……とりあえずぬいぐるみの件は隠して見えた情報をつたえるとグロリアさんは大きく目を見開いた。


「まさかアイテムだけでなく他人のスキルまでそんな風にわかるとは……そんな鑑定スキルは聞いたこともないぞ!! 流石はチー牛のスキルだな!!」

「さっきから気になっていたんだけど、そのチー牛ってなんなの?」

「ああ、最初に異世界からやってきて、魔王を倒した救世主がそう名乗っていたんだ『勇者でござるか? デュフフwww拙者はただのチー牛でござるよ』と……それ以来異世界から来た人間を敬意をもってチー牛と呼んでいるんだ」

「うわぁ……」



 目をキラキラとさせているグロリアさんに俺はなんと声をかければいいかわからなくなる。

 まさか俺たちの世界のネットスラングとは言えずに黙っていることにした。



「グロリアさんはその英雄にあこがれて外に出たの?」

「ああ、そうだな。そのチー牛は当時のエルフの姫と結ばれ余生を過ごしたからか、エルフの里では様々な英雄譚が語り継がれていたんだ。色々な話を聞いて育った私は彼が守った世界がどんなものなのか見たいと思って外に出たのさ……まあ、色々と苦労もしたが……」



 どこか遠い目をする彼女はこれまでいろいろな出来事があったのだろう。エルフは元々森にすむ種族みたいだしね。



「それでシンジはこれからどうするんだ? 自分をチー牛だと明かせば他のチー牛と同様に国の中枢でも重宝される、それだけ強力な力を持っているんだ。なんでもできるぞ?」

「え、他にも異世界から来た人っているの?」

「ああ、有名なのはこの国で騎士団長をしており強力な炎を操るクリムゾン田中や、隣の国で正義の魔法少女? とやらをしているリリカルプリティガールなどが有名だな」



 うわぁ……それぞれ転生してやりたいことをやっているらしい。田中君は成り上がり系で、魔法少女ちゃんは、英雄願望だろうか……

 そして、俺が異世界でしたいのは……



「うーん、そうだな。俺は世界を見て回りたい。色々なところに行ってこの世界を探索したいんだ。だからあんまり目立ちたくないし、正体は隠していようかな」



 不思議と答えはスラスラとでてきた。そうだ、俺は別に無双をしたいわけでもないし、チートをしてみんなにわーきゃー言われたいわけでもない。

 元々ファンタジーの世界にあこがれがあったことと、ブラック企業で働いていたこともあり、今はプレッシャーもなくこの異世界を旅したいのだ。


 英雄になるわけでもなく、成り上がるわけでもなく、ただの旅人として……


 しばらく俺を見つめていたグロリアさんだったが、ふっと柔らかい笑みを浮かべる。



「貴公は欲がないんだな……それだけの力を持ちながら……」

「そうかな……? ただ世界を放浪するっていうのも贅沢だと思うよ。色々なところにいって、美味しいものを食べてさ、綺麗な景色を見て、最高じゃない?」



 前世では社畜だったこともあり、長時間の旅行なんてできなかった。だからそと転生した今は好き勝手旅をするのだ。



「そうか……よかったらだが、旅をするならば私といっしょに行かないか? シンジにこの世界のことを教えたり護衛の真似事くらいはできるはずだ」

「え、いいの? グロリアさんには旅の目的があるんじゃ……」

「ああ、私もシンジと同様にこの世界を……かつて私のあこがれた英雄が救った世界を見て回ることだからな。旅の目的が同じで信用できる仲間を見つけるのはとても貴重なんだ。どうだろうか?」

「ああ、ぜひともお願いしたいよ」

「じゃあ、私のことはグロリアと呼んでくれ。そっちの方がしっくりくる」



 ちょうど話が終わったときに料理が運ばれてくる。魔力がこもっているからうっすらと輝いている魔牛のソテーや、薬草のサラダに、初めて見るハーブを漬けた果実水など、前世では見たことのない料理ばかりの料理だった。

 さっそく、魔牛のソテーを口にいれると、肉の中に魔力が含まれているからか、とろけるよう柔らかそうちジューシーさが広がっていきほのかな甘みを感じる。



「どうだ? 異世界の料理は口に合うか?」

「うん、この魔牛のソテーってすごいね。普通の牛肉よりも深みがあるし、味が濃厚で胸がポカポカしてくるよ!!」

「ふふ、気に入ってもらって何よりだ。魔牛は魔力がこもっているから一時的にステータスもあがるぞ。こっちの果実水も飲んでみてくれ。魔力のこもったハーブは体を癒す効果もあるぞ」

「すごいすごい、マジでファンタジーだぁぁぁ!!」


 お言葉に甘えてハーブディーを飲むと、独特の豊かな味わいと共にあたたかなエネルギーが全身に広がっていき疲れが吹っ飛んでいく。

 すごい……ファンタジー飯最高じゃん。


「全部美味しいな。ファンタジーっぽい料理というのも素敵だし、何よりも誰かとたべるとよりおいしくなるね」

「ああ、そうだな……私もそう思うよ」



 俺の言葉に嬉しそうに頷くグロリアに食べ方を教わりながらの食事はとてもおいしく、誰かと一緒に食べる異世界でのご飯は最高だった。

 かっこよくて可愛いエルフとの旅なんて最高にファンタジーである。そうして俺は旅のパートナーができたのだった。

 




「ふー、食べた食べた。だけど、エルフってお肉とかも食べるんだね。てっきり草食だとおもったよ」

「ああ、私も外に出て初めて食べたがなかなか美味しくてな。特にチーズとお肉の、麦酒の組み合わせは最高だ」


 すっかりジャンキーな味覚になっているようだ。それにしても異世界の食材ってほかにもどんなのがあるんだろう。スライムゼリーとかとも美味しいみたいだし、ダンジョン飯みたいに結構魔物を食べたり住んだろうか?



「やっぱりスライムとかの魔物とかもたべたりするの?」

「ははは、面白いことを言うな。そんなものを食べるはずがないだろう」

「あ、そうだよね……」



 スライムゼリーのことは黙っておいた方がよさそうである。そう思いながらグロリアについていくと、遠目に宿屋の看板がみえてきた。

 宿がないと相談したら友人がやっているからと彼女が紹介してくれたのである。ちなみにコメントも結構よい評価なようだ。


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【絆の宿屋】


 元冒険者のリリーがやっている宿。冒険者時代に宿屋に苦労した彼女が他の冒険者に苦労させたくないと思い始めたからか、寝具や食事の質が良く、リリーさんが新人冒険者や旅人に色々なアドバイスをしてくれるおかげか評判がよい。

 また、エルフやドワーフなどの亜人も差別せずに泊めてくれる。



〇リリーさんのアドバイスどおりに武器を変えたら冒険が楽になったよ。

●飯はうまいしベッドは柔らかいし最高だね。

〇模擬戦2000回の俺も認めるぜ。この宿はスペシャルだ


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「ただいま、リリー、マリー」

「あーグロリアおねえちゃん。おかえりーーー」

「ああ、グロリアじゃないの? もしかして彼が例の人なのかしら?」



 慣れた様子で扉を開けたグロリアを出迎えたのは三十歳くらいの赤毛の女性と五歳くらいの女の子である。



「グロリアさんに紹介してもらいましたシンジと申します。泊めさせていただきたいのですが……」



 おそらくこの人がリリーなのだろうと挨拶をするとなぜかにやりとグロリアを見た後に、俺に言った。



「ああ、いいよ。そのかわり、グロリアと同室でいいね。もう空きがないんだ」

「いいはずがないだろうが!! シンジは男だぞ!! だいたい、部屋はまだまだあるはずだろ!!」

「えーでも、耳を触らせたんでしょ。だったらそれくらいはいいじゃないのよ。人間嫌いのあなたが珍しく心を開いたんだ。ガンガン行かないと他の女にもっていかれるわよ」



 リリーさんの言葉にグロリアがつっこむもにやにやしていて受け流されている姿はちょっと意外だった。かっこいいイメージだけど、意外とかわいらしいところもあるようだ。

 ていうかさ……



「あれ、グロリアって俺に耳を触らせてくれる予定だったの……? 親しい人にしかさわらせないんじゃ……」

「ややこしくなるからシンジはちょっと黙っていてくれ」


 彼女の悲鳴が宿にひびくのだった。




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