第42話 エピローグ

「そっか……伝言は受け取ってなかったんだ……」

「ああ……シンジがインフェルノ田中にさらわれてたのは見たからな。彼の家がある王都にいると思ってシルフィードと一緒にやってきたんだが、まさかこんなことになっているとはな」



 柔らかい笑みを浮かべるグロリアだが、その服装は少し汚れが目立つ。よっぽど急いでここまでやってきてくれたであろう事実がとても嬉しかった。



「まあ、冷静に考えれば同郷同士仲良くするのが当たり前だったか……だいぶ歓迎されているようだしな」

「確かにすごい豪華な部屋だよね……」



 リリカルプリティーガールを送った俺にインフェルノ田中さんが用意してくれたのは、前世風の部屋ではなく、この世界の雰囲気にあわせた洋室だ。素人目にも高そうな家具や装飾品があるこの部屋はちょっと落ちつかない。



「インフェルノ田中さんには悪いけどリリーさんの宿の方が落ち着くなぁ」

「ふふ、シンジらしいな」



 嬉しそうに笑うグロリアだったが、その瞳には少しの寂しさが宿っている気がする。嫌な予感がした俺はおそるおそる問いかける。

 完全に放置してしまったが……



「あのあとはどうなったの? 誰か死んだりとかはしてない? 街は大丈夫だった?」

「ああ、問題はない。インフェルノ田中の炎でドライヤードは無力化されたからな。冒険者たちもみんな無事に帰ったよ。なんとドライヤードはウィンディーネが保護していった。しばらくは無事だから安心してくれとのことだ」

「そっか……みんな大丈夫だったんだ」



 さすがに俺が居なくなった後に誰かが死んでいたしんどすぎたからよかった。ちょっとさびしいけれど、せっかく王都まで来たのだ。

 このまま他の地方を回るのもいいかもしれない。リリカルプリティーガールが言っていたところとか面白そうだったしね。



「それでシンジはこれからどうするんだ?」

「あーそうだなぁ……とりあえずエルフの森に行ってみたいかな? グロリアはどう思う?」

「ああ、中々良い所だぞ、自然もいろいろあるし、シンジのようなチー牛には神秘的にみえるだろう」


 そこまで話して、俺は違和感を覚える。なんで案内してくれるとか言ってくれないんだろう?

 まさか……



「俺はグロリアと一緒に行こうって話をしているんだけど……」

「……私とでいいのか? だって、チー牛たちといればお前はもっといい生活ができるんだぞ?」

「当たり前でしょ。俺はさ、こんな風に一生懸命に駆けつけてくれるような素敵なエルフと旅をするって決めてるんだから」

「シンジ……」



 グロリアの顔がわずかに赤く染まり、可愛らしく耳がピクピクと動いているのが目に入る。

 見つめあいながら俺はグロリアを抱き寄せようとして……なぜか逃げられた。


 あれ? 今いい雰囲気じゃなかった?


 悲しい目でグロリアを見つめると彼女は顔を赤くする。



「その……急いできたから服とか汚れているんだ。水浴びをしてくる」

「俺は気にしないのに……」

「私が気にするんだ、デリカシーがない男だな!!」



 そう言って部屋を出る彼女を見て、俺はまた日常が戻ってきたのだなとうれしくなるのだった。


☆☆☆


「エルフの森はすごかったねー、あんなにエルフがいるなんて……」

「うう……母さんめ余計なことばかり言って……」


 話しかけるもグロリアは顔を真っ赤にしてこっちを向いてくれない。

 グロリアの案内でエルフの森を楽しんだ俺たちだったが、彼女のお家で両親にさんざんと問い詰められて逃げるようにかえってからずっとこの調子だ。



「まあ、グロリアの子供のころの話も聞けて楽しかったよ。『私もチー牛のお嫁さんになるー』が口癖だったんだね」

「お前絶対楽しんでいるだろ!! だいたいお前が余計なことを言うから私と結婚すると勘違いされてみんな盛り上がってしまったんだぞ!! どうするつもりなんだ!!」



 グロリアのお母さんは娘が男を連れてきたのが嬉しかったのか、なぜか結婚相手だと勘違いしていたようでいろいろとグロリアのどこが好きとか? どこで会ったのかとか聞かれたので俺はちゃんと答えただけなのだが……



「俺は本気だけど」

「なっ……」



 驚きの表情で口をパクパクさせていたグロリアがだが顔が真っ赤になっていき、耳がぴくぴくと可愛らしく動く。



「多分寿命とかで寂しい思いとかさせちゃうかもしれないからさ、次は『若返りの水』ってやつを探そう。『異世界ウィキ』だと冥府の谷にあるらしんだ。そこは闇系の魔物が多いから聖剣を聖都で手に入れて……」

「お前は本気で言っているのか?」

「こんなこと冗談で言わないでしょ。まあ、その……グロリアが嫌なら話は別だけど……」

「……嫌じゃない……だけど、そういことはもっと雰囲気のよいところで言え」

「あ、はい……」



 顔を真っ赤にしてそんなことをいうものだから、俺もつられて恥ずかしくなってしまう。いや、本当は断られたらどうしようって心臓がバクバクだったんだけどね。

 ちょっといい雰囲気になったので手をつなぎながら歩いていると、冒険者ギルドが目に入った。



「ちょっともう一つの仕事をしてくるね」

「ああ、宿屋を探しておくからここで待ち合わせよう」



 冒険者ギルドに入った俺は受付ではなくギルド長の部屋へと向かう。途中止められたが、インフェルノ田中さんからもらったカードを見せると通してもらえた。



「これがエルフの森近辺の『攻略ウィキ』です。わかっていると思いますがエルフたちには変なことをしないでくださいね」

「もちろんです。ありがとうございます。あなたのおかげで冒険者たちの負傷者はへるでしょう」



 これが俺のできる事だ。匿名で近辺に現れる魔物や弱点、ドロップアイテムなどをメモしておいて冒険者ギルドで共有してもらっているのだ。それは『攻略ウィキ』と呼ばれ、近隣の村の名物なども書いてあるので冒険者だけでなく旅人にも好評となっているそうだ。

 これを各地に普及させることが今の俺の冒険の二番目の目的だ。一番目はもちろん、好きな人と面白そうな場所を旅することである。



「次はどこに行こうかな」



 異世界で転生して色々大変なこともあるとは思うけど、俺は今とても楽しい。そして、一仕事終えた俺はグロリアと待ち合わせて名物を味わいに行くのだった。



これにて完結となります。読んでくださった方ありがとうございました!


やはりツンデレエルフは良い。





新連載です。

こちらも読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いします。


巨乳好きの俺が転生したのは貧乳優遇異世界でした〜俺だけ巨乳好きな異世界で、虐げられていた巨乳美少女達を救っていたら求愛されまくるようになった件


https://kakuyomu.jp/works/16818093075826685289


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異世界トラベラー~女神から受け継いだ『異世界ウィキ』で悠々自適な異世界探索!!~初めていく街やダンジョンも『ウィキ』の攻略情報やコメントがあれば安心安全です~ 高野 ケイ @zerosaki1011

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