第41話 リリカルプリティーガール
リリカルプリティーガールと名乗る女性に手を掴まれた俺はとっさに振り払おうとするも微動だにしない。
その細腕のどこにこれほど力があるのだろうか?
「あの……」
「リリカルプリティーガール様、田中様から過度な干渉はしないようにと言われているはずですが……」
「私があいつの言うことを聞く義理なんてあるかしら?」
リリカルプリティーガールさんがにらみつけるとエリザベードさんが「うっ」と呻いて押し黙る。
殺気のようなものでも出しているのかもしれない。
「と、とりあえずここでは何ですし、どこかでお話をしませんか?」
幼女がいきなり大人の女性に……しかもチー牛であるリリカルプリティーガールに変化したのだ。注目を浴びまくってしまっている。
「そうね……この時間なら冒険者ギルドの酒場なら空いているはずよ、行きましょうか」
さすがに視線が気になるのか彼女も少し顔を赤くして頷いた。
エリザベートさんとは強制的に別れさせられて冒険者ギルドで座っていた。この時間は冒険者たちもクエストにいっているからか、あっさりと席に座ることができた。ただ、遠目に視線を感じるのは気のせいではないだろう。
ちょっと緊張した感じの給仕の人が持ってきたワインに口をつけてから、リリカルプリティーガールは口を開く。
「まど〇マギカよ」
「え……?」
「だから、私の服装のモチーフよ。セーラームーンじゃないわ」
「ああ、そうなんですね。となるとその色からしてマミさんをモチーフにしているんですか?」
博物館での独り言もきこえていたようだ。俺が反応すると、彼女は知っているのねと嬉しそうにほほ笑んだ。
その笑顔はまるで少女のように可愛らしい。
「私はね……魔法少女の様に困っている人々を救いたかったの。だからマミさんにとても憧れたし、アニメを見ている時に大号泣をしたわ。わかる? 推しキャラが死んだ上に、ネットのおもちゃにされたのよ。今でもあいつら許せないわ」
むっちゃしゃべるなこの人。しかもちょっと厄介なオタクのテンションである。俺はほむほむ派ですっていったら戦争が起きそうである。
あと前世で流行ってた魔法少女にあ〇がれてをみたらむっちゃキレそう。
「だから、この世界に転生するときにどんなスキルが欲しいって聞かれたら、魔法少女になりたいって願ったの。そうしたら、私はこの世全ての魔法と膨大な魔力を手に入れたわ」
俺が旅行を楽しみたいとおもったように、彼女は魔法少女になることを望んだのか……
「そして、私はこの力で魔物を倒し続けてきた。この世界は素敵よ。魔法少女を名乗っても誰も馬鹿にしないし、頑張れば頑張るだけ認めてもらえて、英雄扱いしてくれる。だからこそあなたが理解できない。さっきの探知スキルはあくまであなたが持つスキルの一端でしょう? それを表だって使えばお金だって稼げるし、わざわざ冒険者として暮らさなくても色々なところに旅をできるでしょう?」
「それはそうですが……」
「確かに最初は本当に旅をしたかっただけかもしれない。だけど、あなたはチートスキルを使って、皆に称賛された時に高揚感を感じなかった? 俺はすごいんだって。英雄になれるんじゃないかって思わなかった?」
彼女の言う通り最初は異世界にわたってわくわくしてスローライフを送るのも良いと思っていた。
だけど、他の冒険者に感謝されたり、グロリアに褒められたりして、いい気持になったのも事実だ。俺は本当にただ旅をしたいだけなのか? それで満足なのか……?
「もしも、英雄になりたいというのならば私たちと共に来なさい。力になれると思うわ。そうすればエルフの森だって、冥府の谷も、聖都だって行き放題よ」
エルフの森以外はよくわからなかったけれど、おそらくはこの世界の観光名所なのだろう。
彼女の提案は魅力的で、俺は名誉を得た上に旅をできるらしい。だけど、俺の頭に浮かぶのはベロニカの笑顔で……
ああ、そういえば俺は彼女と一緒にエルフの森に行くって約束をしていたんだ。
「その提案は魅力的です。きっと大した困難にもぶつからないし、前世の話を懐かしみながら生きるのは楽しいと思います。ですが英雄になれば注目を浴びます。そして、それは俺の求める旅じゃないんです。俺は仲間と一緒に苦労もすべて味わいながら旅をしたいんです」
そうだ。俺がしたいのは旅行なのだ。彼女のいうように誰かに連れて行ってもらうのではなく、自分の足で色々な道を行ってこの世界を……グロリアと一緒に楽しみたいんだ。
「もしも俺が英雄になれば今のあなたみたいに不要な注目も浴びてしまうでしょう。俺が求める旅行はそういうんじゃないんです。だから俺は英雄になるつもりはありません。俺はこの世界で見つけた仲間と一緒に……」
「なるほど、つまりは惚れたエルフの子と旅をするから、余計な注目は浴びたくないってことね」
「ぶっ!!」
あんまりな物言いに思わず俺は口に含んだばかりにワインを噴き出す。確かにグロリアのことは思い浮かんだけどさぁ……
「そっちの方が分かりやすいわ。だったら私も無理強いはしない。だけど、忘れないで。私や田中はあなたの味方よ。この世界の楽しみ方は自由ですもの。あなたの好きなように楽しみなさい。ただ、匿名でもいいからそのチートスキルを使ってこの世界のために使ってほしいわね」
優しく笑う彼女からは敵意を感じられない。まだ完全に信頼はできないけれど、少しどんな人なのかわかって気がする。
英雄と言われているけれど、彼女もまた俺よりもちょっと大人なだけのただのお姉さんなのだ。単純に後輩である俺を心配してくれていたのだ。
「では、さっそくあなたの相談にのってあげるわ。そのエルフのどこが好きなの?」
「ただの恋バナじゃないか!!」
「そうよ、異世界でも女の人は恋バナが好きなのよ。田中のバカはエリザベートちゃんの気持ちに全然気づかないしつまらないのよ」
そういうと彼女は今日一番の楽しそうな笑顔を浮かべたのだった。
「うう……なんでまどまぎの続編映画はまだ出ないのよ……」
「まあ、版権とかいろいろあるんじゃないですかね……」
あの後さんざん酒を飲んだリリカルプリティーガールを肩で支えながら冒険者ギルドを後にする。
どうやら顔パスらしくお金は請求されなかった。そして、田中さんの家に戻ろうとした時だった。背後から俺でもわかるほどの殺気を感じる。
まさか、彼女を狙って……
あえて路地裏に入って誘い出してから後ろを振り向く。
「一体何者だ?」
「ほう……シンジは私のことをもう忘れたのか? 随分と楽しんでいるようだしな」
そこにいるのは笑顔を浮かべているけれど、目が一切わらっていないグロリアだった。
連絡もしたのになんで機嫌が悪いの? と思ったが、俺の今の状況は……女性を酔いつぶして持ち帰ろうしているクソ野郎にしか見えないことに気づき冷や汗をかくのだった。
新連載です。
よろしくお願いします。
巨乳好きの俺が転生したのは貧乳優遇異世界でした〜俺だけ巨乳好きな異世界で、虐げられていた巨乳美少女達を救っていたら求愛されまくるようになった件
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