第8話 異世界のお約束
「ふぁーあ、目覚ましがないけど結構おきれるものだなぁ……」
あのあとなんだかんだグロリアとは別の部屋を用意してもらった俺は、ベッドの上から体をおこして窓の外を眺める。
まばゆい日差しに道を歩いている人々や馬車が走っている風景をみて改めてファンタジーの世界に来たのだなと実感できる。
「そろそろ朝ご飯かな?」
鼻孔をくすぐるパンの焼ける香ばしい匂いにつられて俺が部屋にでると忙しそうに食堂を掃除しているマリーちゃんに出会った。
「ごめんね、シンジお兄ちゃん。まだご飯の準備はできてないんだ。よかったら、体を拭いてきなよ」
「え……確かに昨日はそのまま寝ちゃったけど、そんなに匂う?」
確かにグロリアにこの宿を案内してもらった後はおなかがいっぱいなこともありすぐに寝てしまったが……
あわてて自分の匂いを嗅いでいるとリリーが苦笑する。
「ちがうちがう、朝に体を洗うと頭がスッキリするからちゃんとやりなさいってお母さんにいつも言われてるのー。ちょうど、シンジお兄ちゃんたちの入浴場の時間だから入ってきなよって意味だよー」
「ああ。よかった……転生したのに加齢臭がするとか言われたら泣きたくなるところだった……」
マリーの指さす入浴場とやらへ向かうことにする。ちなみにだが入浴場といってもお風呂やシャワーがあるわけではない。
冷たい水でタオルで体を拭くだけである。それでも、旅やダンジョンに潜って、からだがよごれやすい冒険者にとっては非常にありがたいものである。
などと脳内で異世界ウィキで調べたことを得意げにかたっていたからだろう、俺はリリーの「シンジお兄ちゃんたち」という言葉や、中で物音がすることに全然気づかなかったのである。
そして、悲劇はおきた。
「これが入浴じょ……」
扉を開いた俺の目に入ったのは一糸まとわぬグロリアが、タオルでその身を清めているところだった。
鍛えられているすらりとした体に、形の良いおしりと水でしっとりと濡れてどこかなまめかしい金色の髪が目に入る。
「うん……? マリーか、もう朝ご飯が……」
しかも、こちらをふりむいたものだから、彼女の慎ましいが形の良い胸も見えて……
「シンジ……お前……なにを……」
「いや、違うんだよ。これは……とにかく、ごめん!!」
顔を真っ赤にしてその胸元と下半身を両手で隠す彼女にあやまりながら慌てて扉を閉める。
これもファンタジー特有のラッキースケベというやつだ!! なんて言ってる場合じゃないよね。
普通にむっちゃきまずいんだけど……
「ごめん……悪気はなかったんだ。グロリアが入っているのを知らなくて……」
「事情はマリーから聞いてるから謝らなくていい。蒸し返される方がはずかしくなるだろう……」
あのあとグロリアが出てくるのを待って、謝まったのだが事情をリリーさんが説明してくれたおかげか怒られずにはすんだ。
だが、お互いちょっと気恥ずかしさは残っているためかグロリアの顔は真っ赤だ。おそらくだが、俺の顔もそんな感じなのだろう。
「えー、パーティーを組んでる人たちは一緒に入浴して交流を深めるんじゃないのー? なんでグロリア姉さんとシンジおにいちゃんは一緒に入らないの?」
「私たちは全員女だったからよかったんだ。男女となると話は別なんだ……」
「あははは、マリーちゃんもそのうちわかるようになるんじゃないかな?」
なんと説明してよいかわからずマリーの純粋な疑問を俺とグロリアは適当にごまかす。
「ごめんごめん、うちの子が迷惑かけたみたいね。でも、耳を触らせるくらいなんだから一緒に入浴するくらいいいんじゃないかしら?」
「いいはずがないだろう、それに私はシンジに耳はさわらせていない!! 他人事だから楽しんでいるな……」
出来立ての香ばしい匂いのするパンの入った籠を机の上に置いたリリーをグロリアがジト目で睨む。
そんな二人のやり取りに親しみを感じながらパンに口を運ぶと……
「うまいな!!」
作りたてのふっくらとしたパンは口に含むと同時にバターの香ばしさが口の中で広がり、練りこまれている香草が良いアクセントになっており、ジャムなどもないのに決して飽きさせない味となっている。
「うふふ、良い食べっぷりね。ここらへんは色々な薬草が採れるからね。私たちの腕の見せ所なのよ」
「そういえばリリーは冒険者の時もやたらと料理に凝っていたな」
「当たり前でしょう!? せっかくいろいろなところを冒険するのよ。おいしいものを食べなきゃ損じゃないの!!」
「あ、それむっちゃわかります。ご当地の素材とか使った料理って心惹かれますよね」
得意げに腕まくりをしているリリーさんを見て思う。昨日も肉串やギルドの食事を食べて思ったが料理の味は前世よりも上かもしれない。
それに彼女のいうことはもっともだと思う。様々なところでおいしい食材を食べ歩くのもいいのかもしれない。
「あ、そうだ。ここの宿はいくらくらいでしょうか?」
「そんなのいらないわよ。命を救ってくれたんですもの。あなたは永久に無料でいいわ」
「シンジはこっちに来たばかりにお金はないだろう? エリクシルは高額だからな。そのお礼だ。案内がてら私とリリーで武器や防具などもプレゼントさせてくれ。これでもBランク冒険者だからな、そこは頼ってくれて構わないぞ」
「せっかくだからおすすめのお店も紹介できるわ」
さすがはBランク冒険者である頼りになる。そういえば、昨日エリクシルをうってお金を稼いだよな……
「二人ともありがとう、だけど、全部おごってもらうのは悪いよ。これでどれくらいの武器が買えるかな?」
「「はぁぁぁぁぁーー?」」
俺が昨日儲けた750万ゴールド入った革袋をカバンから取り出すと、二人は驚きの声をあげるのだった。
「うう……なんで私が半年で稼ぐ倍の金をシンジは一日で稼いでいるんだ……」
「あははは、まあ、それも俺のチートスキルってことで……それに、この方法はもう使えないしね。だからこれからは頼らせてもらうよ」
悔しそうにうめき声をあげているグロリアに言っている言葉は嘘ではない。エリクシルはあの森でも数は少ないようで、異世界ウィキを見ても、もう20本くらいしか生えていない。
昨日は調子の乗って乱獲してしまったがそうそう採取はしない方がいいだろう、生態系が崩れてしまうし、グロリアのように本当に困っている人が採取できなくなるのはまずい。
「それにしてもドワーフの店かぁ……楽しみだな」
「ああ、リリーの推薦だ、間違いはないだろう」
「お金足りるかな……」
「いや、それだけの金額を使うならばオーダーメイドでもしないと使いきれないと思うぞ……」
グロリアの言葉は正しいのだろう、そこが普通のお店ならば……
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【ローニの武器屋】
異国から流れてきたドワーフのローニがやっているお店。気難しく認めた人間にしか打たない……などということはなく普通に買える(商売だからね)
武器や防具の質は良く多少割高だが中堅の冒険者はよくこのお店を使っている。ただし、接客態度はあまりよくない。
豆情報
このお店でとある言葉を使うと隠し店主の秘蔵の武器を買うことができるよ!!
〇接客はクソだが、まじで、質はいいな。
●ここの剣にかえてからマジでクエストがすすむようになってきた。接客はクソだが。
〇ここの武器をつかったからこそ、俺も模擬戦2000回を乗り越えることができたんだ。接客はクソだが
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どんだけ接客がクソなんだろうか……だけど腕がいいのはわかる。そして、隠しアイテムの存在までわかるなんて異世界ウィキってすごくない?
ドワーフの武器屋というファンタジー要素たっぷりな要素にどんなひげずらのおっさんが出てくるのだろうとワクワクしながら、扉を開けた俺は予想外の光景におどろくことになるのだった。
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