第2話 エルフのと出会い
彫刻のような整った美しい顔立ちに、どこか冷たそうな印象の切れ長の瞳、皮鎧に身を包んだスレンダーだがすらりとしたモデルのような体型、それ以上にツンととがった耳をした少女だった。
そう……前世では絶対会うことにできなかったエルフである。
「くっ……人間か? 一体何の用だ。弱っている私を馬鹿に……」
「うおおお、生エルフだぁぁぁぁ!! その耳ってどうなってるの? 魔法とか使えるの? やっぱり肉よりも野菜しか食べないの? じゃなかった。大丈夫? 俺に力になれることはあるかな?」
「な……なんなんだ貴公は!! それに見ず知らずの私を助けるだと? 本気で言っているのか?」
俺の反応に彼女は驚きの表情を浮かべる。むっちゃ警戒されてるーー!! ついついテンションが上がりすぎていろいろと聞きすぎてしまったんだ。
でも、生エルフだよ、仕方なくない?
「俺は本気だよ。困った時はお互い様でしょ。その代わりいくつかお願いを聞いてほしいんだけど……」
「ただよりはマシか。一体何を……うっ!!」
エルフの少女は警戒心たっぷりにこちらを見つめてきたがどこか痛むのか一瞬顔をしかめた。
「大丈夫? つらそうだけど……」
「ああ……今毒に侵されていて……毒消し草か、魔力を回復させるものでもあったら譲ってほしいだが……」
「薬じゃなくて、毒消し草かぁ……、マジでファンタジーっぽいなぁ……それはないけど魔力の回復ならこれとかどうかな」
俺が先ほどドロップしたスライムゼリーを差し出すと彼女は怪訝な顔をしつつもちゅちょなく口に含んだ。
あれってスライムの一部だけど大丈夫なのかな?
「な……これは……」
「あ、やっぱりまずかった?」
「なんという美味だ!! しかも、魔力も回復してきたぞ。感謝する!! 水の精霊よ、わが穢れを浄化せん!!」
エルフの少女が詠唱すると彼女の手から暖かい光がうみだされ包み込む。
「うおおお、すごい。魔法だぁぁぁ!!」
「うん? この程度の魔法は教会でもよく見れるだろう? そんなに驚くようなものではないと思うが……」
すっかり顔色のよくなったエルフの少女が不思議そうな顔でこちらをみつめてくる。あー、いきなり転生してきましたって言っても信じてもらえなそうだよな。とりあえずごまかそう。
「それよりだいぶ顔色がよくなったね。もう大丈夫?」
「ああ、毒に侵されていたところを魔物に襲われ、魔力が尽きていただけだからな」
すっかり体調がよくなったエルフの少女は片膝をついて頭を下げる。
「エルフだというに助けてもらって感謝する。そのお礼だ。私にできることならば何でもしよう。このグロリア=ユグドラシル。約束はたがえん」
「ああ、ありがとう。俺は穂村信二っていうんだ。そうだね、シンジって呼んでくれたらうれしいかな」
「ホムラシンジ……変わった名前だな。それでシンジの頼みとは何だ?」
何でもとか言っていたけどそんな気軽にいいのだろうか? まあ、さすがの俺もエッチなことなどは頼むつもりはない。困ったときはお互い様だと思うしね。異世界で人に優しくしておけばこっちが困ったときも助けてくれるんじゃ……? って打算もある。
「じゃあさ、その耳をさわらせてくれない?」
「は?」
「お願い!! 先っぽだけ、先っぽだけでいいから」
そう、せっかくのエルフ耳である。さすがに胸を触らせろと言えば軽蔑されるかもしれないが耳ならば大丈夫でだろう。
どんな感触なのかなとわくわくしながらグロリアさんを見つめていると彼女はなぜか金魚のように口をパクパクさせて……どんどん顔が真っ赤になっていく。
「なっ……エルフの耳を触るというのがどういう意味かわかって……いや、だが命に比べれば安いものか……」
「なーんて冗談だよ。それよりもグロリアさんはなんでこんなところで毒に侵されていたの?」
どうやらよほどまずいことだったのかぶつぶつ言いだしたグロリアさんに対して俺はとっさに話題を変える。
生エルフに興奮してしまったからかさっきから失言してばかりだな、俺……。
「ああ、昔馴染みが病気になってしまってな。その治療のための薬草がここに生えているのだが……毒草と似ているため苦戦しているんだ」
「なるほど……グロリアさんは鑑定スキルとか持っているの?」
「いや、剣と魔法しか使えないから、一口かじって体調が悪くなったら治療の繰り返しだ。百回ほど繰り返して魔力が尽きたところを魔物に襲われて逃げてきたんだ」
「……」
脳筋だな、この人。エルフの儚げなイメージがどっかに飛んで行ってしまった。
「何か失礼なことを考えていないか?」
「いやいや、そんな馬鹿な。友達想いだなって感心してただけだよ」
「そうだ……私にとってあいつは家族のようなものなんだ。だから、私は絶対にあきらめたくないんだよ」
まっすぐとこちらを見るグロリアさんは何とも美しかった。だからだろう、俺は力を貸してあげたいと思ったのだ。
「ねえ……その毒草の方でいいからさ。今手元にある? 俺なら薬草を見つけられるかも」
「本当か!! それが本当なら……その……好きなだけ耳を触っていいぞ」
彼女が一瞬悩んだ後に顔を真っ赤にして耳をぴくぴくと動かすのが可愛らしかった。
「すごいじゃないか!! 毒草の中からあんなにあっさりと薬草をみつけるとは、シンジは賢者か何かか!!」
隣を歩いているのは薬草を片手に上機嫌なグロリアさんである。その瞳に映る感情は先ほどまでの警戒心はすっかり消えて、尊敬の念すらこもっている気がする。
お目当てのものをみつけた彼女の案内で街にやってきたのである。
どうやって、薬草を見つけたかって?
それは簡単だ。グロリアさんから毒草をもらって触れたことによりスライム同様、毒草のアイコンが変化したので、似ている草で丸いアイコンのものを採取したのである。
どうやら一度触れたものは識別されたアイコンに変化するようだ。
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エリクシルモドキ
レアリティ C
エリクシルに擬態した草。エリクシルの付近に生息し、繁殖する。強力な毒をもっており、間違えて口に淹れれば死ぬこともある。少量ならば媚薬の材料としてもつかわれる。
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エリクシル
レアリティA
死者すらも蘇生させる万能の草……と呼ばれているがさすがにそこまではない。発見者が効果を盛った。
だが、魔法では治せない病気も治療することができる上にエリクシルモドキとみわけるのはかなり困難なため、市場では高値で取引される。
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そう、ただ見つけただけではない。
これで、俺はもうエリクシルも取り放題なわけだ。さすがは異世界ウィキ優秀すぎるぜ。
「では、私は友人に会ってくる。あとで合流しよう。冒険者ギルドで私の名前を言えば個室を借りられるはずだ。そこで落ち合おう」
「そっかー、友達の病気治るといいね」
「ああ、それと……約束は忘れていないから安心してほしい」
「え……うん、わかった」
なぜか顔を真っ赤にしたグロリアに震えた声をそんな風に言われるものだからこっちまでどきっとしてしまう。
耳を触るってそんなにすごいことだったんだろうか?
そうしてグロリアと別れた俺はせっかくだからとステータスを確認することにする。
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名前 穂村 信二
称号「異世界の探究者」
レベル1→2
HP 10→15
MP 5→7
攻撃力1→3
守備力1→2
体力1→2
ユニークスキル
『異世界ウィキ』
『フリージア王国』探求度 1%→5%
コモンスキル
NEW
短剣術LV1
採取LV1
エルフナンパ術LV1
また、探求度があがったため、ウィキのコメントページが解禁されました
称号
スライムに騙されしもの
エルフと友好をかわしもの
エリクシルコレクター
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色々なスキルを覚えているんだけど、コメントページっていったいなんなんだ? 気になった俺はさっそくこの街のコメントページとやらを見てみる。
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【トネリコの町】
〇ここの魔牛の丸焼きとユッケはまじでうまい。絶対食べるべし
〇商会にぼったくられた。田舎者だからってなめやがって。
〇グロリアたんにののしられたいよう……はぁはぁ……
〇受付嬢のレイズちゃんかわいすぎる……
〇宿なら『絆の宿』が一番いいなぁ……安い上にセットの朝ご飯がめちゃくちゃうまいんだよな
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これは……ここにいた人々の思ったことや感じたことが見えるようになっているのか?
これさえあれば知らない異世界でも知らない街に来てもぼったくれたりしないで無茶苦茶たのしい旅を送れるのでは……?
俺はさっそくコメントページを見ながら街を散策することにするのだった。
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豆知識
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【トネリコの町】
フリージア王国の西部にある街。『朽ちた世界樹の森』の近くにあるため豊富な薬草が採れ、商人や護衛の仕事を狙った冒険者が多く発展している。
名物は魔力のあふれる森でで育ったアプルの実を使ったパイやジュースと魔牛の料理である。
特に魔牛の丸焼きと、ユッケはここでしか食べれないのでぜひとも食べるべし
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