第17話 異世界でやりたいこと
「ふぅーー、楽しいけど疲れたな……」
ようやく冒険者たちの絡み酒から解放された俺が壁際に避難している。彼らはあくまで騒ぎたかったのかもうこちらには見向きもしない。陰キャな俺にはちょっとこういうテンションはしんどい……
だけど、彼らに認められって気がして楽しかったのは事実だ。冒険者たちのうたげっていうのもあこがれがあったしな。
「お疲れ様。ふふ、やっぱりすごいな、シンジは……」
「ああ、グロリアか。こういうのは初めてだから驚いたよ」
多少酔っているのか、その顔は少し赤く、表情もどこかやわらかい。その姿は普段の凛々しい感じとはちがい穏やかそうで普段とのギャップもあってちょっとドキリとしてしまった。
「グロリアも結構飲んだんだね。だれかと飲んでたの?」
「いや、数人の男に話しかけられたが、無視して一人で飲んでいただけだ。幸い稼がせてもらったしな」
得意げな顔でずっしりとした重量の革袋を見せるグロリア。ちゃっかり俺にかけていたようだ。
それにしても……グロリアは最初におもったけどやはりコミュ障なのだろうか?
「何か失礼なことを思っていないか?」
「いやいや、そんなことないって。それにしてもグロリアも結構こういう騒ぎに参加するんだね」
「こんな風に冒険者ギルドで酒を飲むのは久しぶりだな……知らない人間と飲む酒は嫌いだが、仲間と一緒に飲む酒は好きなんだ」
照れ臭そうに笑いながらグロリアがこちらの胸に頭をのせるようにして俺によっかかってくる。柔らかい感触と甘い匂いが鼻孔をくすぐってくる。
「グロリア……酔いすぎじゃない?」
「ああ、酔っているよ。そして、酔っているからこそいえることがある。その……私のために怒ってくれて嬉しかったし、かっこよかったぞ……」
わずかに緊張した様子でそんなことを言われたものだから、彼女の体温と甘い匂いを感じると共にこちらの胸がドキドキと鼓動をうっていくのを感じる。
正面を向いている彼女の表情はいまどうなっているのだろうか?
「そりゃあ、大切な仲間が馬鹿にされたら怒るでしょ」
「ああ、そうだな。だから、お前が馬鹿にされた時私も怒っていたことは覚えておいてほしい。無茶をするときは一緒にするぞ」
「ああ、そうだね……ありがとう」
照れ隠しをまじめに返されてしまった。そして、彼女の瞳に心配の色があることに気づく。
そういえば彼女のパーティーが解散したのは仲間の死がきっかけだったと言ってたな。
もう、彼女にそんな気持ちを抱いてほしくないし、他の人にもそんな気持ちはしてほしくないと思う。
「ちょっと話したいことがあるんだ? 個室ってとってもらえるかな?」
「ああ、かまわないぞ」
場所をうつした俺たちだったが、そこは前回とは少し違いベッドと二人掛けのソファーがあるだけのシンプルな部屋だった。
レイズちゃんがなぜかにやにやと笑っていたから絶対勘違いされている気がする。だけど、だれにも聞かれないというのが今回は大事だった。
「俺さ、この世界を旅することが目的だって言ったじゃん。色々なところを見て回りたいってさ」
さっそく隣に座っているグロリアに思っていたことを話す。
「ああ、初めて聞いたときは驚いたよ。私や私があこがれた英雄とおなじことを言う人間がいるとは思っていなかったからな」
「それだけどさ、もう一つ目的ができたんだ」
「へぇ、一体何なんだ」
「俺はこの世界のガイドマップみたいな攻略ウィキってやつを作ろうと思うんだ。色々な情報をまとめて匿名で冒険者ギルドに寄付すればみんな助かると思わない?」
まだ少しだけどこの世界で生きてみて思ったことがあった。この世界は俺の想い描いていたファンタジーの世界でわくわくすることもたくさんある。その反面残酷なところもあるのだ。
例えば、毒草を食べたグロリアは死ぬ可能性があったし、まずい肉串をたべるはめになったり、ぼったくりにあう危険性もあった。
それにもっと直接的にイザベラさんの護衛やグロリアのかつての仲間の様に命を落とす可能性もある。
知識は力だ。俺が今も無事なのは異世界ウィキというスキルとグロリアとの出会いがあったからにすぎない。誰かが騙されたり、死んだりして悲しい想いをしてほしくないなって思ったんだ。
「俺はまだまだ未熟だしこの世界の常識もない。だからさ、旅のついでに俺の手伝いもしてくれないかな?」
例えば魔物の弱点などを公開するのはいいと思う。だけどスキルの習得方法などはものによっては悪用されることだってある。
前世だったらそこらへんは法律だったり炎上だったり止まるだろうが、この世界にはそんなものはない。だからこそこの世界を理解していて信用できる人の力が必要なのだ。
そんなふうに俺の思っていること伝えると、グロリアはなぜか多く目を見開いていた。
「あの……俺そんなに変なことを言ったかな?」
「いや、驚いていたんだ。シンジのスキルはすごい。その情報があれば大金持ちにもなれるし、王族のおかかえにもなれるのにあくまで他人のために使うんだな……本当にすごいと思うぞ」
「ちがうよ。そういう風にさ、変に有名になったら俺は自由じゃなくなっちゃうじゃん。そうしたら好きなところにいったりもできないし……グロリアと旅ができなくなっちゃうじゃん」
「本当にお前は……」
グロリアは顔を真っ赤にしてなぜか俺とは反対の方へ向く。
「私は……リリーたちとのパーティーを解散してから、もうだれかと組むことはないかもって思っていたんだ。だから、最初はお前と一緒の行動するときもチー牛だと聞いて興味本位でついていくことにしただけだった。だけど、お前と一緒に行動し……話を聞いて私はシンジ一緒にパーティーを組みたいと思うようになっていて……それで仲間だと言ってくれてほんとうにうれしかったんだ。だから……そのお礼だ。好きに触っていいぞ」
「え……?」
なぜか反対を向いたまま動かない彼女にきょとんとしていると、少し怒ったような声がきこえてきた。
「だから、耳だ!! 最初に会った時も触りたがっていただろう?」
「え、でもエルフは大切な人にしかさわらせないんじゃ……」
「だから、シンジに触らせるって言っているんだ。わかってくれ……」
その表情はみえないけれど、彼女がとっても恥ずかしがっていることはわかった。そして、俺のことを大事におもっていることも……だから、遠慮なくその長く鋭い耳に触れてみる。
柔らかい感触がなんとも心地よい。なにこれやばい!! むっちゃくせになるんだけど!!
「んんっ……♡」
「……」
「ああっ……♡」
「あの……グロリアさん?」
「ちがうんだ。なんか気持ちよすぎて変な声が……こんなことはなかったのに……きにしないでさわっていいぞ。んんっ♡」
「いやでも……まあ、気にしないならいいか!!」
一瞬やめた方がいいとも思ったが、あこがれの生エルフ耳とやわらかい感触の誘惑に負けた俺はお言葉に甘えてさわるのだった。だって、エルフの耳を触るなんて今しかできなそうじゃん。
このあとやたらとにやにやとしたレイズちゃんに『さきほどはお楽しみでしたね』とか言われたんだけど、防音なんだよね、ここ?
これで一区切りとなります。
やはりエルフはいい……
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