第16話 決闘

 冒険者ギルドの真ん中で俺とカマセ―はおたがいに訓練用の木剣をもって対峙していた。


「俺様は優しいからな。最初の一撃はお前にやるぜ、ルーキーよぉ!!」

「おーー、やれやれ!! カマセー!! 俺はおまえにかけてるんだぞ」

「シンジだっけか? 大穴のお前にかけてるんだ。がんばってくれよ!!」



 がっはははと笑いながら俺を挑発するカマセーと楽しそうにはやし立てる冒険者たち。

 普段ならばこういう風に見世物にされてるのはファンタジーのイベントだぁぁぁ!! と楽しいと思えるが今は違った。


 俺が絡まれたのも結局はなめられているからなんだよね……


 もしも、俺の外見がもうちょっと強そうだったら、変わったのだろうか? 俺がスキルの有用性をもっと彼らに示していれば変わったのだろうか?

 俺だけがなめらるのは構わないが一緒にいるグロリアまでも軽くみられるのはいやだ。だから俺は……俺の強さをしめす。



「じゃあ、お言葉に甘えるよ。『全力斬り』!!」



 俺がスキルを使って大振りに剣を振り上げると、カマセーはばかにするようににやりと笑って俺を翻弄しようと近づいてくる。



「はっ、やっぱりルーキーだなぁ!! 一か八かの一撃かよ。だけど、そんなのはあたらねえなぁ」

「おーっと、いきなり全力斬りだぁぁぁぁぁ!! 格上相手に賭けに出たのか? だがあれは大振りな一撃は鈍重だったり、大型の魔物じゃないとそうそうあたらないぜぇぇ!!」


 むっちゃ丁寧に説明していれる実況冒険者のいう通り、人間相手に当てるのは不意打ちでもなければ難しいだろう。だが、それは、スキルを一つしか使わなかった場合だ。


「鷹の目発動」


 まるで空中から見ているようにもう一つの視点が浮かんできて、カマセーがどう動こうとするのかが手に取るようにわかる。

 そして、俺は相手の動きを見て先を読んで一撃を放つ。


「なっ!! がぁぁぁ」

「おーっとシンジの一撃がまさかのヒットだぁぁぁ!! これはすごい!! 予想外の展開だぁ」



 全力で振るわれた木剣の一撃を受けたカマセーはうめき声をあげてそのまま吹っ飛んでいき、木製の机を破壊しながら倒れこむ。



「おお、すごいぞ。シンジ!! このまま二度と生意気なセリフをはけないようにぶちのめしてやれ!!」

「きゃぁぁぁぁ!? ギルドの備品がぁぁぁ!! あとでカマセ―さんに請求しなきゃ。古くなったしちょうどよかったかもしれませんね」



 グロリアの興奮した声と、ひめいのあとにぼそりと呟くレイズちゃんの声がきこえる。そして、先ほどまでの余裕はどこにいったのか、怒りに満ちたカマセ―がたちあがって剣を振り回しながらこちらを襲ってくる。



「まぐれで当てて調子に乗ってんじゃねーぞ。ルーキーが!! 可愛い女とパーティー組んで!! おまけにヌシも倒しただと? ふざけんな。俺様の本当の力をみせれてやるよぉぉぉ!!」

「あいにくだけど、まぐれじゃないんだよ!!」



 そして、俺は剣を振り回しているカマセ―の指に全力斬りをぶちかます。相手の骨の折れるような鈍い音と共に剣を落としてうめき声をあげたカマセーの首に木剣をつきつける。



「早く治療した方がいいよ。もう剣はにぎれないだろ?」

「くそが……二回もまぐれで当てやがって……」



 ギャンブル性が高い技で勝ったからかまだ納得がいっていないようだ。俺が全力斬りを当てたのはもちろん偶然ではない。

 相手も使える当たりにくい攻撃を使い油断させ、命中率をあげる鷹の目と同時に使うことによって、必中の一撃にかえたのである。これができたのも異世界ウィキによってスキルの情報がわかったからこそなのだが……


 まさか説明するわけにはいかないよな……


 そう、悩んでいる時だった。



「やめよ、これ以上は恥の上塗りだぞ。まぐれではないことは貴公もわかっているだろう? 模擬戦のプロである私はわかる。おそらく何らかのスキルを使っていて……それに貴公は気付かなかったのだ。完敗したのだよ」

「くっ……」



 なおも睨んでくる彼を制止したのは、観戦していた冒険者の一人だった。赤色のマントが何とも目立つ青年だ。

 彼はこちらにウインクすると大声をはりあげる。


「それでは新たな冒険者の誕生を皆で祝おうではないか!! 賭けにかったやつらよ。皆におごるのだ。大穴を当てたのだ。懐に余裕はあるのだろう? ちなみに私はカマセ―に有り金全てかけたから金がないがな!! 私にもおごれぇぇ!!」



 その一言で冒険者ギルドの空気がかわった。



「さすがかっこつけのリードハルト。見る目がねえなぁ!!」

「まあ、楽しませてくれたしおごってやるかぁ」

「カマセーのやつ普段偉そうにしていたくせに情けねえなぁ。」

「ルーキーけっこうやるじゃないか、おごってやるよ」


 名前もしらない冒険者がはなしかけてどうしようか悩んでいると、遠くで見守ってくれていたグロリアが大丈夫だと頷いた。

 そして、俺は遠慮なく、お酒をおごってもらい冒険者とともに騒ぐ。視界のすみっこでは気まずそうにしてこの場から逃げようとしたカマセーがレイズちゃんにとっつかまって、家具を弁償させられているのが目に入った。

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