第15話 栄誉と嫉妬

意識を失っていたイザベラさんを彼女の馬車で待っていた人まで送り届け、俺たちは再び街に戻ってきていた。

 門番の人には敬礼されて、周囲の人々はちらちらとこちらを見ているのはきのせいだろうか?

 やたらと感じる視線に、キョトンとしているとグロリアが話しかけてくる。



「どうしたんだ、シンジ? さっきから落ち着かない様子だが……」

「なんかやたらと周りの視線を感じるんだけど……」

「ん? それは当たり前だろう。シンジはわからないのか?」


 なぜか得意げにほほ笑むグロリア。今の俺はシルフィードに倒した魔物の素材を載せてグロリアと歩いているところだ。

 それから導き出される答えは……? 冷静に考えればわかる事だったな……



「いつも一人だった美しすぎるグロリアが俺といるから周りが嫉妬しているのとか? なんか恥ずかしいな……」

「違う!! 私たちがヌシを倒したからみんなが注目しているんだ!! まったく。こいつは気軽に美しいとか言って……」

「ぴーーぴーー」



 あまり褒められていないからか顔を真っ赤にしてぶつぶつとつぶやくグロリア。本気なんだけどな……この世界の住人の目は腐っているんだろうか?

 


「だけど、そっか……ヌシを倒したっていうのはすごいことなんだね……」



 異世界ウィキというスキルのおかげでついついゲームっぽいノリになってはしまうが、この世界はゲームとは違う。エリクシルは一回採取したら簡単には生えてこないし、ボスモンスターだって、一回倒したらもうでてこないのだ。

 強敵を倒したという達成感をあらためて胸に感じつつも、ちょっと慎重にならないとなと自分に言い聞かせる。この世界は俺の求めていたファンタジーの世界だけど、現実なのだ。イザベラさんの護衛の人のように死んだりと楽しいだけではないのだと思う。



「よし、ついたぞ。シルフィードは宿に戻っていてくれ。ご飯が待ってるぞ」

「ぴーーー!!」



 グロリアが優しく頭を撫でながら荷台から戦利品を回収すると、シルフィードは猛スピードで走り抜けていくのを見守って冒険者ギルドにはいる。



「……!!」



 街中よりもさらに強い視線を感じる。それは尊敬だったり、嫉妬だったりと様々な感情が入り混じっているようだ。

 それらの視線を無視して進んでいくグロリアについていくと、受付にいる胸元の豊かな可愛らしい女の子がこちらをみてにこりと笑った。


「あー、グロリアさん!! もう、噂になってますよ。『朽ちた世界樹の森』のヌシを倒したらしいじゃないですか? 流石はBランクの冒険者さんですね。これがそのドロップアイテムですか?」

「さすがはレイズ、情報が早いな。これで討伐証明になるか?」

「はい、もちろんです。ただレアな素材なため討伐報酬を決めるのは少しお時間をいただきますが大丈夫でしょうか?」

「ああ、構わない。ヌシの素材だからな。多少は時間がかかるのは知っている。」



 おお、彼女がコメントにあったレイズちゃんか。確かに笑顔が可愛らしい美少女である。冒険者たちの人気がでるのもうなづける。

 ちなみに討伐報酬というのは付近にいる強力な魔物を倒した報酬で、冒険者ギルドが懸賞金をかけているらしい。まあ、賞金首の魔物バージョンかな。(異世界ウィキ調べ)



「この人がグロリアさんの相棒さんですか?」

「ああ、シンジがいなければこいつを倒すことはできなかただろうな」

「すごいです。あのヌシには私たち冒険者ギルドをもずっと頭をなやませていたんです!! とっても素敵です」

「俺だって、グロリアの力がなかったらどうしようもできなかったよ」

「ふふ、いいですね。あのグロリアさんが信頼しているって感じがします。よかったらあなたも冒険者になりませんか? 」



 契約書を片手に満面の笑みをうかべるレイズちゃん。結構押しが強いのは彼女が可愛らしい顔をしてやりての受付嬢であることを示している。



「そんな簡単に冒険者になれるもんなの? 試験とかあんまり得意じゃないんだけど……」

「ご安心を!! 名前がかければ大丈夫ですし、最低限武器が使えば問題はありません。それにこの実績があればEランクをこえていきなりDランクになれちゃいますよ!! しかも、冒険者になっちゃえば、提携しているお店の宿代や武器が安くなったり、他国への移動の審査もらくになるんです!!」

「そっか、冒険者か……」



 グロリアも冒険者なのだ。一緒に行動するならば俺も冒険者になった方がいいいだろうか?



「無理に私にあわせるつもり必要はない。シンジならば商人の道もあると思うぞ。商人でも冒険者と似たような援助が受けられるし、商品の売買ならば特別な援助もあるから、旅をするにはどちらでも不便ではないだろう」

「もー、私が一生懸命勧誘しているのにーグロリアさんのいじわるー」


 

 正直俺の異世界ウィキなら地図でドロップアイテムを採取して、お金稼ぎをして旅をするのもいいかもしれない。心優しいイザベラさんにノウハウを聞けば教えてくれそうだし……だけど、レイズちゃんの言うように冒険者として色々と戦いながらでも旅はできる。

 どうしようかっと悩んでいる俺が答えを決めたのはこの世界に来てもっとも一緒にいた相棒の一言だった。



「ただ……私は冒険者になってくれたらうれしいかな? その……やはりパーティーというものは特別なんだ」



 何か思いだすかのように遠くを見ながらちょっと恥ずかしそうにいうグロリアはとても可愛らしく……印象的だったのだ。



「決めた。俺は冒険者になるよ。グロリアこれからはパーティーメンバーとしてよろしく」

「そうか……ありが……」

「やったーーー!! ヌシを倒すほどの優秀な冒険者さんの勧誘に成功しましたーー。これで、ボーナスが……あっ……」



 ガッツポーズをとっているレイズちゃんが俺たちの冷たい視線に気づく。そして、あははと笑ってごまかしている時だった。

 後ろから悪に満ちた声が聞こえてきた。



「はっ、Bランクの冒険者に媚を売って、ヌシを倒しただけなのに、女にキャーキャー言われて恥ずかしくないのかよ」

「なんだと……」



 怒りに満ちた声を上げたのはグロリアである。元が整っているからこそ怒っていると無茶苦茶怖い。



「君は……スキン君?」

「だれがスキンだ!! 俺にはカマセー=ツルッパゲンって名前があんだよ!!」

「その名前もひどいな!! じゃなかった。カマセ―君がおこる気持ちもわかるよ」



 じろりとこちらを睨んでくるカマセ―を必死になだめる。俺は別にいきりたいわけでもないし、変に目立ちたいわけではない。そして、彼の気持ちがわかるというのも事実だ。

 前世の話だが会社には社長の息子だからといってガンガン出世して好き勝手していやがったやつがいたしな……

 自分はまっとうにやっているのにいきなり横から来たやつが褒められていたら良い気はしないだろう。

 だから、愚痴くらいならきいてやるつもりだった……彼が余計な一言をいうまでは……



「は、俺にもこびをうろうってか? 残念だったなぁ。俺はお前みたいに弱いくせに人に取り入るようなやつが大っ嫌いなんだよ。ボッチエルフは優しい言葉をかけられてすぐにお前になびくくらいちょろかったかもしれないけどよぉ!! その寂しい女に体でも売ってるんだろ!?」

「貴様……」

「おい!! カマセーふざけんなよ」



 もはやそれは反射だった。俺は気付いたら目の前のカマセーの顔に手袋を投げていた。

 止めようとするグロリアを俺は制止する。



「お前……たまたまチャンスをものにしただけのお前が俺に決闘を申し込むってか?」

「ああ、別にさ……俺のことが気に入らないなら悪口をいうのはいいよ。だけどさ、俺の大切な仲間を侮辱するのは違うだろ!!」



 にらみ合う俺とカマセーに血の気の多い冒険者たちが騒ぎ出す。



「お、なんだ、喧嘩か? やれやれーー」

「どっちにかける? 俺はやっぱりカマセ―だな」

「ちょっと、ギルド内での私闘はだめですって!!」


 レイズちゃんが必死になだめているが冒険者たちはいっこうに収まらないし、俺も収める気はない。

 


「シンジ……気持ちはうれしい。だが、あいつはあんなのでもDランク上位だぞ。ここは私が……」

「大丈夫だ。俺は勝つよ」



 心配そうにするグロリアを安心させるように微笑む。彼のステータスをすでにウィキで調べている俺は心配するのもわかっていた。


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■キャラクター/カマセ―=ツルッパゲン


Dランク冒険者。


ユニークスキル

『なし』


コモンスキル


 剣術レベル3

 投石レベル1

 農業レベル2

 腕力アップレベル1

 全力斬り

 速読レベル1

 ぶんまわし


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 剣術レベルからして確かに格上だ。おそらくだがステータスも高いだろう。だけど、俺は彼には負けない自信がある。

 この異世界ウィキさえあれば格上相手にも戦える。それがわかっているのだ。

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