第14話:妖怪の正体とは

 全身黒ずくめの少女、『キバ』は俺の命令にしぶしぶという様子で三匹のねずみの妖怪の方に歩いて行った。彼女は何度かこちらを見て睨んでいる。


 彼女からしてみたら、ねずみの妖怪なんて朝飯前どころか気にもならない程度の存在だろう。怖いとか大変とかではなく、単純に面倒くさいのだろう。そして、俺に指示されて動くのが嫌なのだろう。


 それでも、俺は顎を少し上げて、『早くやれ』と重ねて指示を出した。


 キバはキッとねずみの妖怪の方を見たら猫のように一旦飛び上がり、急降下して1匹を捕まえた。そのまま口に運んで食べようとした。


 ところが、ねずみのもう一匹が空中に舞い上がり、なにか棒的なものでキバに殴りかかろうとした。


 キバはすぐさま手に持ったねずみを放棄して、身を翻してかわした。彼女にとってはそれほと脅威ではなかったはずだ。


 3匹のねずみの妖怪はすぐに3匹集まった。ここで、俺は致命的なミスをしていた事に気がつく。


「あいつはねずみじゃない。……イタチだ」

「イタチですか。ちっちゃいイタチ だし、 可愛いじゃないですか」


 俺はその間、あまりの事に 動けなくなっていた 。


「馬鹿、 妖怪においてイタチっていうのは、めちゃくちゃ強えんだ! 俺 じゃあ こいつらに勝てない! しかも、3匹もいたら絶対勝てない!」


 動物としてはそんなに メジャーじゃないし 強いイメージもない。


「強いイメージもないんですけど……」


 いずなは合点が行かない様子。


「馬鹿! イタチいえば、『かまいたち』 だろう! ……そうか! かまいたち!」

「かまいたち? お笑い?」


 この状況で余裕あるな!


 でも、俺は全てを理解した。口に出した事で自ら理解したのだ。


「お前はいろんなやつに構われてるんだよ!」

「構われてる?」

「そう、『かまいたち』は、『構いたちだ ! つまり、お前の周りのヤツがお前にめちゃくちゃ構ってるるんだよ! 必要以上に!  そして、その『構い質』は お前だけじゃなくて、 父親や母親にも呪ってるんだ! だから、それぞれ 不幸を抱えてる」


 俺の言葉にいずなは慌て始めた。ようやく状況が理解できてきたのかもしれない。


「『かまいたち』って なんとなく 切ったりするような妖怪だと思ってたんですけど……」

「もちろん、切ってるだろ。『お前の人間関係』とか、『家族との絆』とか『友達関係』とか! 元々、かまいたちの鎌は切られても血が出ないんだ。それは手とか足とかだけとは限らない。 人間関係 なんか もバッチリ 切ってるって事だよ!」

「じゃあ、 あの妖怪を退治したら……!」


 いずなは解決法が見えたとばかりに一瞬表情が明るくなった。


「馬鹿! かまいたち なんか払えるわけないだろ!  やられる前に逃げるぞ!」

「でも どうやって……」


 いずなは結界から出られないでいるようだった。彼女の場合、妖怪ではないから悠々と結界を超えられるだろう。


 それでも、ロープで囲われた中にいて、俺から『中にいろ』なんて言われたら、やっぱり出られないのだ。ある意味、結界の効果と言ってもいいだろう。


「家を焼いて、その隙に逃げるぞ!」

「それだと火事になっちゃうじゃないですか! 絶対嫌です!」

「馬鹿! こんな妖怪と交渉 なんかできるわけないだろう! 火つけて逃げれば 運がよければ逃げ切れるんだよ!」


 俺がいずなを結界から引きずり出そうと手を引っ張ったが、彼女は抵抗して出てこなかった。


「でも、この家には お母さんが帰ってきます!  その時、お母さん帰ってきた時に……家がなくなってたら もう会えないです!」


 彼女の必死の訴えに俺は逃げるのをやめた。これはここで押し問答をしていたら共倒れになると判断してだった。


 こういう時、ゆっくり考える時間はない。瞬間的に考えて判断する必要があるのだ。


「かまいたちっていうのは 三位一体なんだよ。 一体目が風を吹かせたり、縄を使ったりして人を転ばせる。二体目が鎌で切る。三体目が薬を塗る。だから、かまいたちに切られると、傷の大きさに反して血が出ないんだ」


 俺の言葉にいずなは何が言いたいのか理解できない様子だった。だから、俺はもっと分かりやすく補足することにした。


「 逆に言うと1匹目さえよければ 転ばせられないんで切られることもない!  狙うは一匹目だ!」


 普通に考えたら 転ばせて 動けなくなったとこを切りつけてくるわけだから、方法としては転ばせられないようにするとか、そういう方法しかない 。


 でも、それは普通の考えだったら ってことだ 。俺が立っていると1匹目のかまいたちがやってきて ロープで俺を転ばせようと してきた。


「いたっ!」


 こいつは めちゃくちゃ 転がすのが得意だから、 転ばないようにしようと思っても、俺はまんまと転ばされていた。その場に尻もちをついていた。


 そして 2匹目、 鎌を持ったヤツが切りに来る。 俺の本当の狙いはこいつだった。 両腕が大鎌になってるかまいたち。普通だったら逃げる方向に動くだろう。


 俺はそのかまいたちに向かって行った 。すると、予想通りその大鎌は 俺の胸あたりにざっくりと突き刺さった。


 ■

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