第30話:絶体絶命

「お前さんがどうなるか……。不死身の人間は四肢を切り落とされても、そこからまた生えてくるじゃよ。トカゲの尻尾みたいにの」


 ヤバい。動けない。詰んでない!? これ!


「じゃあ、首をはねられたら?」

「!!」

「くっつければ、すぐにくっつくんじゃが、頭がない場合、頭の方から身体が生えてくる。実に気味が悪い」


 頭のほうが『本体』ってことか。


「それでは時間がかかるから、身体が動いて頭を持って自分の頭に付けることもあるとか」


 想像しただけで怖い。


「じゃから、首の方は壺に入れて封印して土の中に埋める。首の方は壺から出られんで身体は再生せん。今度は体の方に頭が生え始めるから、生える前に別の頭をすげてやれば……」


 どうなるんだ!?


「面白いもんでな。新しい首が繋がってまた動き出す」


 あり得ない! 非現実的だ!


「身体が若返ると、血も若い。首から上もしばらくしたら相応に若返るもんじゃ」


 長々聞かされた話は経験談だったか! しかも、毒が俺の全身に回るまでの時間稼ぎ。は


「不思議と思わんか? 首の挿げ替えじゃよ? いくら不死身の身体があっても、首の方は普通の人間じゃ。首を落とした時点で死ぬと思わんか?」

「……」


 俺はもう、動くことも、答えることもできなくなっていた。


「首は普通の人間だから、歳を追うごとに老いてくる。普通の人間よりは十分長いが、徐々に老いてくるんじゃ」


 老人の方もギラリと眼光がするどくなった。そして、口を開いた。


「分からんか? 二人セットなんじゃよ! 一人が当主で、もう一人が主治医……。首を挿げ替えたら、今度は入れ替わる。わしとこのドクターJは実の兄妹じゃ」


 ヤバい。もう、考えることも出来なくなってきた……。死ぬのか……俺。


 ***


「そのままオレは意識を失った」

「死んでるじゃないですか!」


 長いのは回想シーンと合わせて、老人とのとドクターJについて、俺はいずなに話してきかせていた。


 彼女のツッコミは相変わらず切れがいい。


「まあ、な。だから、この後は、キバの意識をあとで読み取ったものとなる」

「そんなことできるんですか!?」

「まあ、あの時はできた」

「雑な設定ですね……」


 お願いだから、設定とか言わないで。そんなわけで、ここからは三人称視点でお送りします。


 ***


「今回は中々身体が手に入らなくて心配したぞ」


 ドクターJと呼ばれている白衣の少女が言った。姿と声は若いのに、喋り方は年寄りくさい。肉体だけは若返っても、経験は積み重ねられているからかもしれない。


「そう言うな。こればかりは運任せじゃ。しかも、身寄りのない人間でないと騒ぎになったら元も子もない」

「人魚の肉も有限じゃ。あと何度できるかも分からん」


 老人のほうが悲観的ならば想像に容易いが、見た目が若いドクターJの方が悲観的で、老人の方が楽観的らしかった。


 老人とドクターJは屋敷内の特別な部屋に向かった。意識のない渋谷の身体も引きずって連れて行っていた。


 純和風の屋敷の中で、1部屋だけ異質な部屋があった。その部屋は一言で言えば手術室。それも、通常の病院ではあり得ないベットが2つある手術室だった。 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

 老人と渋谷はそれぞれ隣合わせたベッドに寝かされ、老人の方のみ点滴の管がつながっていた。この後、点滴を通して全身麻酔がかけられ、意識もなくすのだろう。


 一方、渋谷の方はベッドの頭付近に大きな壺が置かれていた。梅干しを漬けるのに良さそうな大きな焼物。壺なのか瓶なのかよく分からないが、渋谷の頭部が容易に入れられる大きさだった。


 そして、普通の病院ものには絶対に出てこない設備、『断頭台』も準備されているのであった。


 断頭台……別命、ギロチン。ギロチンは開発者の名前である。効率的に首を切り落とす発明品だった。


 こんな時、通常の物語ならば、颯爽と助けてくれる誰かが登場して渋谷を助けるのだろう。ところが、この時の渋谷にはそんな存在がいなかった。


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