第15話:妖怪退治
かまいたちの鎌は俺の胸部にぶっささっている。刺さった鎌は簡単には抜けない。いくら動きが速い イタチでもこうなってしまえば 捕まえられる。
俺は 鎌ごと そのかまいたちを捕まえた。その状態で羽交い締めにして動けなくしてやった。
「さあ! この家を出て行くか、 こいつをこの場で絞め殺されるか、どっちだっ!?」
俺はかまいたちに脅しと妥協案の提案の両方を同時に投げた。しかし、かまいたちは怯む様子はなかった。
「キバ! こいつをシメられるか!?」
「……」
キバが相変わらず恨みがましい目でこちらを見てくる。見た目だけなら割と可愛いのに、いつも俺を睨んでくるので正直怖い。
しかし、俺ではかまいたちに全く太刀打ちできないので、今はキバを頼るしかなかった。
少しの沈黙が続いた後、家の中央に置いてあったろうそくの火が消えた。 それと同時に 目の前のイタチもいなくなっていた。
つまり、『交渉成立』ってことだろう……。
「はーーーーーっ」
俺は大きく息を吐き出し、その場に座り込んだ。ほんと生きた心地がしなかった。
「ちょっと山田くん! 大丈夫ですか!?」
一段落ついたといずなでも感じたのだろう。彼女が結界から出て俺のところに駆け寄ってきた。
「あー、 大丈夫だ」
「いや、 大丈夫じゃないでしょう! さっきあのおっきな鎌が胸に……」
いずなが俺の胸の辺りに飛びついた。俺の服の上着は、 真っ二つに裂けていた。 俺の服の上着の胸から裾のあたりまで、でっかく 切り裂かれていた 。
「ちょっと傷を見せてください!」
彼女が 俺の服をめくるが 傷がない。
「切られたように見せかけて、 中身は避けたんだよ」
「そんなことが 物理的に可能なんですか!? 思いっきり胸に鎌が刺さってましたけど!」
「実際 、怪我してないからいいだろう」
「え!? どうして!? こんなに血が付いてるのに!?」
いずなは俺の血だらけのシャツをめくったり、戻したりして不思議そうにしていた。
「あれ? あと、キバちゃんがいない」
キョロキョロしながらいずなが言った。あいつの事を『ギバちゃん』みたいに言わないでほしい。柳葉敏郎を思い出したぞ。
「キバは用事が終わったらから引っ込んだよ」
「なんだか さっぱり分かりませんけど、終わったんですか?」
「終わったな 。なんとか なったみたいだ。多分、学校のほうも明日には改善するんじゃないか?」
割と疲れ果てていたので、俺はその場に仰向けで倒れこんだ。敷いててよかったブルーシート。そうでなかったら、この泥だらけの服でリビングに寝転んだと後でいずなに怒られそうだ。
「まるで狐につままれたみたいですけど……」
「いや、 今回は狐じゃなくてイタチだろ。 かまいたちの鎌がどこまで 切れるかがわからなかったからな。 魂を切られたら 俺だって危なかった 」
こうして大騒ぎして 妖怪退治が終わったんだ。
「終わったー」
絞り出すような一言だった。
「いや、 まだ終わってないですよ 。もう! 部屋中めちゃくちゃだし! 結局泥だらけだから お掃除 手伝ってくださいよ! このままだとお父さんとお母さんに怒られてしまいます!」
「分かった分かった」
俺は いずなの家の掃除を その後 手伝わされるのだった。
■後日談……
葛村は いずなに頭を下げて謝ってきたらしい。取り巻き達も 謝ってきたとのこと。
いずなのあの感じだ。あんなにひどい目に遭わされたのに、すぐに許してやったのだろう。
そして、今 俺と屋上にいる。
「結局、 なんで私って妖怪に祟られちゃったんでしょうね? 妖怪に祟られたからいじめられたんですかね? それとも、 いじめられたから 祟られたんですかね?」
「さあ、どっちが先だろうな。 ただ一つ言えることは、お前が神社に向かってる道は、たまたまなんだけど、 魔法陣になってたんだよ」
「え?」
これはいずなが神社に毎日お参りに行っているって言った時に、地図で確認して気づいたことだ。
「お前が 寄り道しないで まっすぐ行けばなんてことはなかったんだろうけど、学校から家と学校と神社、お前がいつも 毎日、寄り道しながら同じ道を歩いて お参りに行ってたんじゃないか?」
「確かに、同じ道を使ってました」
律儀に同じ道を歩いた結果、たまたまそれが魔法陣になっていたんだ。悪いことに、何度も何度も重ねてその道を通ることで何かを呼び寄せてしまったのだろう。変な真面目さが仇になったか。
「その神社に関わっている妖怪だったのかもな。神社っていうのは何も神様 ばっかり が祀られているとは限らないんだ。祀ってある神様の他にも摂社とか末社っていうのがあって、まあ言うならば ゲスト 神様みたいなのが神社の中には 祀られてるんだよ 。そのどれかに気に入られたのかもしれないな」
「適当に神社にお参りするっていうのも 良くないんですね」
いずなは少ししゅんとしてしまった。
「まあ何事も過ぎたるは、なお及ばざるが如しだよ」
俺はできるだけなんでもないことの様に、立ち上がって伸びをしながら言った。
「ローファーも 上靴も 教科書も ボロボロに切り裂かれてしまったんですけど、 蓋を開けてみれば 『かまいたち』 がいたんだったら 『かまいたち』の仕業だったのかもしれませんね 」
「それもわかんないな。 今となっては……」
俺は振り返って、座っているいずなの顔を見た。落ち込んでいるのかと思ったけれど、意外に少し笑顔を浮かべていた。やっぱり彼女は芯が強いらしい。
「まあ、 悪いことばかりでもなかったかもしれません」
「何かいいことあったのか?」
「はい、山田くんと出会えました。 私は山田くんの彼女になったんですよね?」
「まだその設定 生きてたのか?」
「メタ発言 やめてもらってもいいですか」
「それは俺のセリフだーーーっ!」
こうして妖怪退治が幕を下ろしたかに思えたが、実は事件の火ぶたが切られたばかりだった。そう、文字通り「かまいたちの鎌」によって……。
俺たちがそれを知るのはまだ少し後になる。
■
ここまでお読みくださりありがとうございます。
とりあえず、タイトル詐欺だけは回避したのですが、まだまだ書けていない部分がたくさんあります。
……と言うか、起承転結の「起」くらいですかね。 もう少しお付き合いください^^
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