第16話:山田くんおかしいです!おいやめろ!

「山田くん おかしいです!」


 いずなが開口一番言った。


 恒例の屋上で俺は一人昼寝していたのに、いずながわざわざ上ってきて俺に言った。何度も言うが、ここは本来、人が来るようにできていない。 だから、屋上に続く階段などもない。


 屋上のメンテナンスの時に業者が上るためにマンホールと梯子が設置されている。それは良いのだけれど、日々屋上に梯子で上って来る女子高生ってどうなんだ?


「おかしいです!」


 また言いやがった。本当に口が悪いな。


「どうしたって言うんだ。事と次第によっては、やってやんぞ!」


 俺は同じく口汚く挑発しつつ、この言葉とは反対にゆっくりと上半身を起こした。まあ、事件も解決したし気楽なもんなのだ。


「私、4組の人と話してみました! でも、4組の人からは山田くんの噂はほとんど出ませんでした。 この間のバスケット ホールの話がほとんどで、ほんのちょっと前はほとんど目立たなかった生徒だそうです」

「ちょっと待って。なにを言い始めたお前は」

「山田くんのことが気になって、どんな人か聞こうと思って 4組に行ったんです!」


 謎の行動力を発揮するなこいつは。 話聞きに行くとか結構コミュニケーション能力あるのではないだろうか。


「全く陰キャのくせに変に行動力あるな……ブツブツ」

「いつから私、陰キャなキャラになったんですか?」

「なんか いじめられてたし 何言われてもすぐ許してたし、 そういういじめがはれっ子キャラなのかと思って」

「幸い これまでいじめたことも、いじめられたこともなかったんです。 私の話はいいんです!」


 つらつらと話している途中で、話がそれたことに気がついたらしい。


「山田くんがおかしいです!」

「また それか」


 そろそろいじめだからな。


「だって、 ついこの間まで ほとんど目立たなかった生徒が急にバスケットボールで一番目立ったりしておかしいじゃないですか!」

「それが本当だったら確かにおかしいな」

「 一応聞きますけど今回のために 特訓をしたとか?」

「ないな。そんなの」


 なんなら、のんびりいきたい。


「山田くん、 私と出会った瞬間に どこかの世界から転移してきたって言いました……。っていう どこかの世界から転移してきたっていう設定を言ってましたよね!」

「設定とか言うな 」


 いずなが一歩、ずいっと詰め寄って来た。


「あの話もう一度聞かせてください!」

「聞かせるも何も、気づいたら屋上にいただけだよ。 そして、お前が目の前にいた 」

「それは、山田くん……今話してるあなたが山田くん なのではなく、 転移してきた側の人があなたでは ないですか!?」


 ちょっと待って。なんて? いきなり話に付いていけなくなった。と、言うより頭に入ってこない。


 俺の表情を読んだのか、いずなが言い直すみたいだ。


「今話してる 山田くん は クラスの人とも仲良くなるのが早いし、 バスケットボールの上手でした。言動が陽キャの それです」

「陽キャとか言うな」


 恥ずかしいから。


「 一方で、クラスの人の印象の山田くんは陰キャでボッチです」

「お前も大概 容赦ないな」

「普通に考えて、 そこから導き出される 答えは一つ! 転移してきたのが妖怪退治屋さんで、元々いたのが 陰キャボッチの山田くんだったのではないでしょうか!?」


 いずながどびしいと人差し指を俺に向けてきている。人のことを指さしちゃいけませんって親に習わなかったのか……。


「 そのあたりなんか記憶が曖昧なんだよな……」

「第一、予言してくれた日時はすごい 過去のものでした。 予言 って普通 未来のことを言うはずです。 なのにほとんどが過去のことばっかりでした。 だから、今話してる方の山田くんはすごく 過去から転移してきたんじゃないでしょうか!?」


 彼女は興奮して捲し立てる様に早口だ。それにしても、俺が言ったことを一言一句よく覚えているもんだ。


 予言のことは自分で予言したからしっかり覚えてるけど、 自分が何年にいたのかが思い出せない。


 それにしても、俺は転移してくる前の元の人格だと思っていたのに、俺の方が転移してきた人格だったとは……。セオリーがあるほど『転移』って日常的な事じゃないからなぁ。


 少なくとも俺の周囲には一人もいないぞ。


 あと、2つの記憶がある時、どっちが本当の自分かなんて考えた事ないじゃない? 普通、全部自分の記憶だと思うって。


「要するに、山田が元の人間でこいつは陰キャボッチ、と。妖怪退治とかもできない。それで、転移してきたほうの『俺』は妖怪退治屋で陽キャ、と? 元の山田っていらなくね?」

「ひどい!」

「だって、キャラたってないもん」

「さすが、陽キャの発言です。陽キャの発想です!」


 ほんとに俺が……、妖怪退治屋のほうの人格なのだろうか。自分の記憶のような気もするし、どっかから来たような気もするし。


 あと、バスケは実はそんなにうまくなかった。なんとなく絡んで、活躍しているように思わせているだけだ。ゴールを外すこともあったし。それをバスケ部のメンバーがフォローしてくれただけだ。


 そこには『彼女に良いところを見せたい』と先に言って頼んだあたりが陽キャだ。対価を渡さずに、相手をやる気にさせている。口がうまいのは陽キャらしい。


「あと、あの子はなんですか!?」


 今度は急に嫉妬深い彼女的な発言をした。


「あの子とは?」

「しらばっくれないでください。お祓いの時にふらりと来たあの真っ黒なあの子です。」


 あー、やっぱりそれかぁ。できれば話したくなかった……。

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