第6話:一夜明けて

「いやー…なんと言うか、すまん」

「……別にいいですけど」


 俺と絆いずなは学校の靴箱にいた。昨日、バスケで俺がウェーイしたので、俺の陽キャ度がさらに上がったはずだった。そして、その彼女であるいずなのいじめなどまるで無かったかのように忘れ去られるはずだった。


 ところが、今日学校に来て、たまたま下駄箱で一緒になり、彼女の上履きを見ただけで、それは幻想だったと気づかされてしまったのだ。


 考えてみれば、昨日のズタズタにされた靴も、ズタズタほやほやだった気がする。5時間目の体育の授業の前に仕業ではなかったのかもしれない。


 しかし、今日の彼女の上履きは、なんと言うか……『賽の目』であった。


 賽の目とは、サイコロ程度の小さな立方体のことである。目の前の上靴の場合、記事の厚さがサイコロ程度までないので、厳密には『賽の目』とは言わないかもしれない。でも、それなら言い換えてもいい。『みじん切り』、と。


 下駄箱に入っていた、彼女の上靴はご丁寧に縦横きれいに直角を出したみたいに切り刻まれていて、1辺が1センチ程度のみじん切りとなっていた。


「みじん切りは1辺が1ミリから2ミリ程度に小さく切り刻んだ状態なので、これは『みじん切り』ではないと思います。あえて言うなら『角切り』でしょうか」


 わざわざ言い直すあたり、いずなはまじめだ。そして、アホだ。


「お前、これを見てなんとも思わないのか?」

「いえ、私への強い嫌悪を感じます」


 一呼吸おいてからいずなが言った。


「私、何か悪いことをしたんでしょうか……」

「お前が悪いことなんて何もない。いじめとはそんなもんだ。もうちょっと待ってろ。絶対俺が何とかしてやるから」


 そう言って、俺たちは教室に向かった。俺は自分の教室に行くよりも、いずなが心配だったので、一緒に2組のいずなの教室に向かった。


 完全に誤算だった。


(パチパチパチパチ)なぜか、俺たちが教室に行くと拍手で迎えられた。これはどういう状況なのか。全く理解できないでいた。


「山田くん、おはようございます」


 教室の入口で俺といずなが戸惑っていると、屑村がみんなを代表するように1歩前に出て挨拶してきた。少し気になったのは、挨拶の相手は俺だけらしい。俺が標的になるなら都合がいい。俺がなんて返そうか考えていると、屑村のほうが続けてきた。


「昨日はありがとうございました」

「なんのことだ?」

「いやん」


 屑村が顔を赤らめてくねくねし始めた。なんだこの謎行動の生き物は。


「昨日、私の頭にボールの流れ弾が当たって気を失っていた時に、私を抱っこして保健室に連れて行ってくださいました」


 ああ……、そんなこともあったな。まあ、ボールをぶつけたのは俺だから、なんとも言えないが。あと、ボールの流れ弾ってなんだ。


「たくさん人はいたのに、誰も動けないでいました。そんな中、山田くんはいち早く私をお姫様抱っこして……きゃっ」


 要するに、俺に感謝してしまったと言う訳か。マッチポンプで罪悪感が芽生えてきた。


「それで気づいたの! 山田くんは、私の王子様だったんだって!」


 周囲のヤツらも「なかなかできることじゃない」とか、褒めてくれている。いや、だから、マッチポンプだから。褒められれば褒められるほど、かっこ悪いやつだから。


 いずなよ、褒められまくってる俺の横で、その半眼ジト目をやめてくれ。俺だって、俺のクラス内の地位を上げた上で、いずなを俺の連れってことにしたら、いじめられなくなると思ってたんだよ!


 まさか、俺のクラス内地位だけ上がるとは思わないじゃないか。


「山田くん、今日はお昼ご一緒しませんか? お弁当を作ってきました!」


 この、屑村ってアホなのか!? 昨日まで嫌がらせしてきていた俺に手のひらを返したみたいに言い寄ってくるなんて。


 しかも、顔を赤くして本気で惚れてるっぽい。大丈夫か、こいつは!?


 でも、まあ、俺には目が行って、いずなのことを構わなくなるならそれでもいいか。狙いとは違うけど、結果的には同じだ。


 ***


「おめでとうございまーす(棒読み)」

「だから、その半眼ジト目をやめろって」


 俺といずなは、昼休みにまた屋上に来ていた。ここは大概来にくいので、もっと他の場所が良いのだけど、それだといじめられているいずなは落ち着かなきらしい。ここくらい絶対に人が来ないところでないと安心できない、と。


 あの後、屑村からは熱烈な愛情表現をされて、お菓子をもらったり、弁当箱を渡されたり、デートに誘われたり大変だった。


 クラスのヤツとしても、割と好意的に思っているみたいで、よそのクラスの俺と積極的にコミュニケーションはかってきていた。


「ちょっと思った方向に軌道修正しようか。おまじないしようかな」

「おまじない?」

「ちょっと変な感じを受けるんだ。でも、このおまじないで万事解決だ」


 いずなお得意の半眼ジト目がこちらに向いた。俺はとっておきのおまじないを教えてやることにしたんだ。


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