第7話:神様のおまじない

「おまじない気になります!」

「ちょっと待て。おまじないに喰いつきすぎだ。本来おまじないってのは……」

「そんなのいいから、早く教えてください!」


 学校の屋上で絆いずなと俺は作戦会議を続けていた。どうにも思ったように事が運ばないからだ。俺のこれまでの経験から言えば、とっくに解決しているはず。それなのに、いずなの地位は全く向上していない。それどころか、下がっているとすら思える。


 具体的に言えば、靴は隠される程度だった。それなのに、今や賽の目かみじん切りか、角切りかは分からないけれど、ズタズタのボロボロなのだ。


 いじめはエスカレートしていると言っても過言ではない。


「おまじない 素敵です」


 ふいにいずなが言った。


「何でそんなにおまじないが好きなんだよ。おまじないに期待しすぎだ」

「でも、神様なんですよ? なんでもお願い聞いてくれそうじゃないですか」


 いずなは嬉しそうに言った。いじめられてるってのに、靴と一緒に心までズタズタのくせして、笑顔を浮かべやがる。その笑顔はしっかり俺の心にささっていた。


「馬鹿野郎。神なんてそんないいもんじゃないし、 大層なもんじゃないんた。昔から、人間の力が及ばない様なでかい存在の総称が神だ。神は聖人君子の代名詞じゃない」

「えー、じゃあ、私いじめが収まるように、よく神社にお参りしてたんですけど、無駄ってことですか!?」


 そして、ワンテンポ開けて俺は言葉を追加した。


「まあ、無駄とまでは言わないけど、神は直接的に助けてくれるわけじゃない」

「じゃあ、具体的に神様ってどんな存在なんですか?」


 説明はちょっと面倒だが、ここでちゃんと言わないと、それこそ神も仏もなくなってしまう。ため息をひとつついてから説明を続けた。


「神様ってのは……。例えば神社にいるのも神様だけど、でかい太い大木とかも締め縄をして祀ってんだろ、あれも立派な神様だよ。台風とか大雨とか、津波や大火事とか、とにかく人間の手が及ばない 、人間の力が及ばないような大きな存在が神だ。昔から人間はそうやって 大きな存在を恐れてきたんだよ」

「じゃあ、私に教えてくれるおまじないって……? 神様の力を私に取り込む……みたいな?」

「そんなたいそうなもんじゃない神様の力なんか借りない。ちょっとだけ身ぎれいにする感じかな」

「教えてもらえるおまじないってどんなのなんですか?」

「じゃあまず……」


 俺は透明グラスのコップを1個取り出した。


「今、そのコップどこから出しました?」

「あんまりメインじゃないところに喰いつくのやめてもらっていいかな?」

「だって、マンガやアニメじゃないんですよ!?」

「ちょっとメタっぽい発言もやめてもらえるかな」


 めちゃくちゃコップの近くまでぐいぐい来て凝視するいずな。必死になる部分が違うと思う。


「まず コップに軽く水を軽くいっぱい注ぐ」


 俺はコップの三分の一程水を注いで見せた。


「ちょっと待ってください。今、その水どこから出てきました?」

「色々の都合上、その辺の本道じゃない部分は適当でいいんだよ」

「でも、現代の読者さんはそこに矛盾がないか興味津々です!」

「だから、そのメタ発言やめれ」

「伏線かもしれないと注意深く読む読者さんも……」

(ポコ)「あいたっ! 叩かなくてもいいじゃないですか!」


 ついつい実力行使してしまった。


「そしたら塩を1つまみ入れて飲む。飲んでる間は絶対に喋るな」


 俺がコップに塩を入れて、その塩が溶けていく様を10センチの近さまで近づいて確認するいずな。近眼なのかな。


「……それだけ? ……ですか?」


 不思議そうに俺の方に視線を送って訊いた。


「 そうそうそれだけ。その代わり 毎日1日1回するんだ 忘れないように朝起きてからとか寝る前とか時間はいつでもいいけど毎日必ず1回やるんだ」

「それなら、神社にも毎日思い切りしてるから できると思います」


 暇人かよ。


 そりあえず、手に持ったコップをいずなに手渡し、今日の分とした。彼女は合点がいかないようだったが、藁にもすがる思いなのだろう。言われた通りに黙ってグラスの水を飲み干すのだった。


 ***


 ■数日後……


「しました! 毎日やりました!」


 結果から言うと、このおまじないは全く効かなかったのだった。


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