第5話:放課後の種明かし

「なんだったんですか!? あれ!」


 俺といずなは放課後の屋上にいる。例の人が来ることが想定されていない屋上だ。ドラマのように階段ではつながっていない。


 直径1メートルほどの穴(マンホール?)が4階から屋上につながっているだけ。屋上に出るにはハシゴを上って、マンホールのフタを開けて出る。


 さっきハシゴを上るとき、レディファーストとばかりにいずなに先を譲ったら、スカートの裾を押さえてすごい目で睨まれた。


 なにも言葉を発しない分怖いじゃないか。


 いや、ホントに先を譲ろうと思っただけだよ? 別にすぐ後から上って、いずなのスカートの中を覗こうとした訳じゃないよ?


「どこ見てるんですか!?」


 いずなが再びスカートの裾を押さえて言った。そうだった。俺たちは既に屋上に上っている。


 あまり周囲に聞かれたくない話だったので、誰も来ないここを選んだのだ。


「おかしくないですか!? だって、晴天に近い青空だったのに5時間目になる前に急に大雨になって!」


 既に雨も上がって再び晴天の放課後の屋上で、いずなが両手を上げた空を仰ぐようにしながら言った。


「そりゃ、天気は自然のもんだから、たまたまとかあるだろう。天気予報だって100パーセントじゃない」

「それだけじゃないです! インターハイの選手の河村くんたちと対等にバスケットをして!」


 河村くんはバスケのインターハイ選手だったか。そりゃうまい訳だ。


「挙句の果に、誰もいない天井からボールが落ちてきて屑村さんの頭に当たっちゃって!」

「そりゃ体育館だし、天井にボールの1個や2個引っかかっててもおかしくないだろ」

「それにしたって、たまたま落ちて頭に当たるるなんて!」

「そりゃ、あいつはお前にボール投げつけたんだから当たり前だろ」

「ん!?」

「あ……」


 俺が意図的にぶつけたと自白したようなもんだった。


「いやっ、まあ、あの……大丈夫だと思うから」

「めちゃくちゃ曖昧じゃないですか!」


 俺の発言はお気に召さなかったらしい。


「まあ、見てろって。明日にはピタリいじめが止まってるから」

「不安しかないんですけど……」


 ***


 結果は、翌日を待たずに、学校から出る段階で分かった。


「「………」」


 俺たちは下駄箱で唖然として声を失っていた。


「私の靴、見事にズタズタなんですけど……」

「見事にズタズタだな……もう絶対履けないほどに」

「ダメじゃないですか!」

「あれぇ?」

「全く……」 


 そう言うと、いずなはそのズタズタの靴を持ってどこかに歩き始めた。なにか策を思いつたのかもしれない。俺はなんとなく付いて行った。


 ついた先は……ゴミ捨て場!?


「おい……」

「なんですか?」

「まさか、貴重な証拠を捨てるんじゃないだろうな!?」

「そりゃ捨てますよ。こんなの履いて帰ったら近所でヒソヒソされて、心が立ち直れません」


 あれを履いて帰ろうと考えた思考がもうどうかしてると思うんだが……。


 いずなはゴミ捨て場にズタズタの靴を置くと、しゃがみ込み手を合わせた。そして、ぶつぶつ言っている。お経でも唱えているのだろうか。それとも、靴に謝っているのだろうか。


 とにかく、律儀なヤツと言うか、礼儀正しいヤツと言うか……。


「多分大丈夫だから、明日を楽しみにしろって。この靴はきっと5時間間までにこうされてたんだって」


 ……そして、翌日から更にいずなのいじめは拍車がかかって酷くなっていくことを俺たちは翌日の朝から知ることになる。


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